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1.これでわからないはずがない

 ある黒髪の吸血鬼は私にこう言った。

「なんで君の目はそんなに不気味なほどに赤くなるのか」

 ある青い髪の悪魔は憤った。

「なぜ貴方はそれを隠して生きてきたのか」

 ある女鬼は憂いた。

「それでは君が壊れてしまわないか」

 だが、私の前である真っ白な自称座敷童は笑ったのだ。

「さあ、生きるか死ぬか、君はどちらがお望みかな?」


 まったく、選択肢なんてないくせに。

 よくわからない能力と不完全な不老不死の体を与えといてよく言うよ。

 あーあ、嫌になっちゃうな。

 そう思いながら私は自嘲気味に笑った。



***




「ただいま」


 私はあまり好きではない学校から今住まわせてもらっている場所まで無事到着し、そんな言葉を玄関で吐いた。


 そして先程開閉した、微妙に細工が施されて重くなった玄関扉に片手を置いて体を支えながら靴を脱ぎ、揃えてこれから何をしようかと考えながら居間に入る。と同時に、ある聞きなれた男の声が耳に入ってきた。


「おお! 帰ったか我が妹、凛和りんかよ!!」


 その男は仁王立ちをしていた。

 しかも私が帰ってくるまでの間に、なにかすごく楽しいことがあったようで、とても幸せそうなオーラを漂わせている。

 暑苦しい。

 芸能人に確かこんな人いた気がする。ああ、そうだ、あの人だ。いや、でもこんな人と一緒にされたらその人もかわいそうだな。


 そんな人物に私はできるだけ刺激しないよう、必要最低限の言葉を差し出す。


「ただいま、お兄ちゃん。今日はいつもよりやけにテンションが高いね。どうしたの? なにか良いことでもあったの?」


 私の名は、弥生やよい 凛和という。因みにそのテンションの高い人物、つまり私の兄の名は弥生 じゅんだ。

 ただ、私の場合、兄を呼ぶときにふさわしい漢字とか言い方は、お兄ちゃんではなく、お義兄ちゃんだ。

 でも最初会った時そう呼んだら怒られた。イントネーションはそんなに変わらないはずなのに、なぜか気づかれて拳骨付きで怒られた。結構な痛さだった。容赦がなかった。あの時私5歳だぞ、しかもその時怪我をしていたんだぞ。そんな危なげな少女に何してくれてんだ。そしてその瞬間、私にトラウマが刻まれたのでお兄ちゃんと呼んでいる。


 兄の外見は、よく見ると平行四辺形の黒い目、襟足まであるちょっとくせの入った黒い髪の毛で、その髪の毛には少しムカつく程度に光沢がある。

 この前、お兄ちゃんの髪の毛はどうしてそんなに綺麗なのか聞いてみたが、よくわかんないな。あ、そういえば凛和! このまえ話していた家で俺の体に宿している竜はどうやったら姿を現わすかなんだが! わかったぞ!! と綺麗にというか無理やり話題を捻じ曲げられた。そらされた。だからいつかまた機会があれば同じことを聞いてやろうと思う。


 そんな言動にやや痛いところがあるお兄ちゃんだが、顔だけは綺麗な顔立ちで、体もシックスパックぐらいはある細マッチョさんだ。でも、察しがついていると思うが、彼は残念なのだ。頭が、というか頭の中が。


「ふっ! よく聞いてくれたな、凛和よ!」


 あ、やばい、これは長くなるパターンだ。お兄ちゃんは踊るようにオーバーリアクションで話を始めた。


「そんなに俺のことが気になるとはやはり義理でも我が妹! お兄ちゃんのことがそんなに好きなのか! 解るのか! これはなんと嬉しいことなんだ!! 凛和と暮らし始めて十一年! これほどの時を得ればやはり運命共同体になるのだな! 言葉を交わさずとも! 俺の思っていることをわかってしまう! わかられてしまう! やはり凛和と兄妹として十一年間喧嘩したり、悪戯したりし返したり、一緒に風呂入ったり、借りパクしたり返したり、食べ物を半分こしたりいろいろしたから解るのだな! そうなのだな! だがしかーし!! 俺は……俺は!! 凛和の思っていることは何でもはわからないぞ!! はっ! ではこれは運命共同体ではないではないか!! 一方的に解られている! と言うことは、これは、好かれている!!? 俺は凛和に好かれているのか!! これは兄としてなんと嬉しいこと!! と言うか、俺と凛和は戸籍上は兄妹だが、血は繋がっていない。ということは俺と凛和の戸籍という名の鎖を解き放ってしまえば、次は兄妹という名の家族ではなく夫婦という名の家族になってしまうということなのか!! なれるということなのか!? どうする! 凛和!! やるか!」


 うわ、私に話し振ってきやがったマジかよ、そして長いよ、うざったいよ。できれば早急にここから去りたい。


「いや、知らないしそんなこともしないし、お兄ちゃんのことは好きだけどそんなことはしないし、そんなドロドロなことしようとも思ってないし、それに勘違いしているようだけれど、お兄ちゃんは思っていることや感じていることほとんどすべてが身体中からだだ漏れしてるから解るだけだからね」


「なんだと!? だとすると俺がお前に知られていないと思っていることも、もしかしたら知られているかもしれないということか!?」


 お兄ちゃんはいきなり体を私のほうにズイッと近づけてくる。


「うわっ」


 お兄ちゃんはさっき言ったように、確かに感情は読みやすい。体から溢れ出ている。漏れ出している。しかし、体の動きはそうではない。全くと言っていいほどわからない。理解不能だ。


 だからいきなりこう今のように、身体を近づけたりするので困る。そして驚く。いくらやられてもこのお兄ちゃんの反応は慣れない。

 

 私は両手をお兄ちゃんに手のひらを見せる形で顔の前にやる。ストップという意味合いだ。


「お兄ちゃん、近い……」

「どうなんだ」


 しかし彼は、お構いなしで体を近づけてくる。どれだけ知りたいんだよ。

 そして私は両手を耳の横に掲げた。降参という意味合いだ。


「わかったよ。言えばいいんでしょ。わかったわかった、そこまで言うなら教えてあげる。……お兄ちゃんの部屋に入ってすぐ右のクローゼットを開けて右上の二階にある隠し部屋につながる通路の左側の隙間」


「な!?」


 お兄ちゃんはよろよろと後ろに下がっていく。そしてフローリングとカーペットの僅かな段差に躓き、後ろ向きに転んで最終的にガラステーブルに頭をぶつけた。

 一応ガラスは割れながったので流血は無しだ。


 私はニヤニヤしながら言葉を続ける。腕を組みながら。ここで立場逆転だ。勝ったも同然だ。


「にしてもお兄ちゃん凄いせーへきしているねー。でもあれどこで買ったの? 全部初版だったけど。あ、まさかリサイクルショップ? 近くにあるもんね、結構品揃え凄いし。だけどあれ、葱楽ねぎもとさんに見せたらどんな反応するかな」


 葱楽さんとはお兄ちゃんの親友でよく家に来る、とても綺麗な女の人だ。あくまでも兄の親友だそうで、それ以上でもそれ以下でもないと両者に言われてしまった。


「それだけは! それだけはやめてくれ!」


 頭を打った激痛で蹲っていた兄ちゃんはカバっと起きて悲痛の叫びのような声をあげた。さっきの私の一言はとても影響力あるものだったらしい。いや、分かってるから言ったんだが。


 私は彼を上から目線で睨む。


「なんか私に言うことは」


「さっき答えなかったこと、真面目に答えますのでこの事は他の人間には言わないでください」


 土下座だった。お兄ちゃんは迷わず土下座をした。綺麗だった。妹としてすぐ土下座する兄を見て少し悲しくなった。いうかどれだけ言われたくないんだよ。


「いいよ」


「あざあああああああああああああああああああああああああああああっす!!」


 また土下座した。うん、なんで彼の土下座はこんなに綺麗なんだろう。なんかやりなれてる感が出てるのが否めない。



 まあ、これが私のお兄ちゃんだ。少し頭がおかしいけれど、義理でも私のお兄ちゃんだ。でも、私は他にもお兄ちゃんの秘密は知っている。それは――


「いやー。にしても良かった。凛和の知ってる俺の秘密が俺が悪と戦うヒー」

「チェストー!」

「あっ」


 葱楽さんが綺麗な背中まである焦げ茶色の髪を揺らしながら、見事なドロップキックを兄にきめ、見事な着地をきめた。


「ヤッホー! 凛和ちゃん! 久しぶりだね。元気ー?」

「え、あ、はい! 元気です」


 突然私に話しかけてきたのでビックリしてしまった。彼女にしてはまだ全然ましな登場のしかたなのに。


 因みに蹴られたお兄ちゃんは伸びている。少し血を吐いている気がするが私は動じない。気のせいだと思って見なかったことにしたためだ。


 まぁ、こんな感じでお兄ちゃんの正体は普通に解る。バカじゃない限りもうここで解っただろう。私のお兄ちゃんは悪と戦うヒーローだ。

 葱楽さんもその仲間。


 というかもうここが、私の住んでいる家がそのヒーローの秘密基地だ。作戦会議とかよく自分の部屋にいて聞こえてくる。


 だから、私がお兄ちゃん達の正体に気づいていないわけがないのだった。


基本ギャグコメディーにしたいです。(願望)

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