天下無双をめざした理由
ふと思いついた設定で、特に深く練らず書き上げました。さらっと読み流してください。
ガキンガキン!!・・・キン!ドン!ゴッ!
ずっと聞こえているのは、自分と相手が奏でる戦いの音だけ。かなりの人数が見ていて、視線は気になるけど静かなもの。無理なことだとわかってるけど、この二人だけの時間が続けば良いと思ってしまう。だから、この大事な貴重な時間を楽しもう。この人ならもしかしてしたら・・・。
「笑っているな」
「そう?」
「ああ、笑っているよ」
「きっと、あなたとの時間が楽しいから」
「それは光栄だな」
激しい剣撃の中で、静かで穏やかな会話が交わされる。
「・・・・・・笑っておられるな」
「そうだな」
「我らでは不足なのか?」
「言うな。事実だ」
「あの二人の戦いに魅入られてる時点で、なにもかも足りないということだろう」
物心ついた時からずっとあったモヤモヤした感じが、少しずつ無くなっていく。まるでこういうギリギリの勝負ができる相手を、無意識に求めてたみたいだ。でも、もしそんな相手に出会えたならって考えたこともあった。
相手が顔めがけて突いてきた。それを顔を左に傾けて避けると、延びた相手の腕を切り落とそうと剣を持った右腕を振りあげる。当然切り落とされまいと、相手は刹那の反応で持っていた剣を手放し腕を引く。そして私の剣が振り切られた瞬間に離していた剣を右手で掴み、そのまま横切りを繰り出してきた。私は一度首を傾けて体勢が崩れているため、すぐには避けることはできない。そこで脱力して後ろに倒れた。相手は、好機と見たのか一歩間合いをつめてきた。それを確認すると、できるだけ引きつけバク転をして相手の顎を蹴りあげた。さすがに意表をつかれたのか大きく後ろに跳んで避けて離れた。こんなやりとりを、ずっと続けている。そんな中で思うことは、ただ一つ。
「あなたの方が、力も速さも純粋な剣の技量も上ね」
「確かにそうだろう。だが、それだけで勝敗が決まるわけではない。現にお前は生き延びている。自分の最高の力と技を繰り出していても、いつの間にかお前のペースに巻き込まれて最後には反撃を食らいかねない状況に陥っている。確信したよ。間違いなくお前の方が戦闘力という総合的なものは上だ」
「ほめられてる?」
「ああ」
「ありがとうって言っておくわ」
「我をここまで楽しませてくれたのは、お前が初めてだ。何か願いを叶えてやりたいくらいだ」
「そう・・・、それなら私が負けた時の願いを一つ言っていいかしら?」
「・・・・・・どのような願いだ?」
「私があなたに負けたら、私を貰ってほしいわ」
「・・・・・・・・・何?」
「わかりにくかったかしら、私が負けたらあなたの嫁・・・・・・、あなたと結ばれたいの」
私の言葉に、目の前の相手も周りでこの戦いを見ている人たち全員が唖然としていた。さすがに唐突だったかしらね。
「ダメかしら?」
「なぜだ? なぜ、そのようなことを願う?」
「・・・・・・理由は色々あるけれど一番大きな理由は、私が負けるかもしれないくらい強いあなたに、私を貰ってほしいって心から思ったからよ」
「我の質問に答えろ。お前がそう願う根源は何だ? 答えろ!!」
「そうね。ちゃんと話さないといけないわね。でもその前に、一つ聞きたいことがあるわ」
「・・・・・・・・・」
「ねえ、あなたは長い年月生きて生きてきたのよね? そんな中で、前世を覚えてた人に会ったことはあるかしら?」
「何?」
「私にはあるのよ、・・・・・・前世の記憶みたいなものが。そしてそれが、私が強くなった理由でもあるわ」
「どういうことだ?」
「単純な話よ。私の前世は男だった」
「それは・・・」
「子供の頃に病気で死にかけたの。意識が朦朧としている時に、どう考えても見たことない風景、人、物がはっきりと浮かんできた。本当にこれが前世の記憶なのか、ただの妄想なのかわからないわ。でも、それ以来、今の女である自分に違和感があるし、男とつきあうのもダメになってしまったわ。正直に同性と付き合っても良かったんだけど、これでも名門貴族の長女なの。同性に好意を寄せるのは宗教的に厳しいし、下手なことして家族に迷惑かけれない。そこで色々考えた結果、強くなれば良いっていう結論に至ったの。強くなれば私より弱い人とは結婚したくないって言えて私の精神衛生は守れるし、魔獣退治なんかで実績を積めば私みたいな長女を抱えてる家族も悪く言われることはない」
「そうか・・・」
「それに私って結婚に向かないの。家を守るとか物理的なら自信あるんだけど、それ以外となるとまるでダメ。ほんとに私って、我ながら笑っちゃうくらいダメ人間よ」
「そこで我というわけか」
「ええ、あなたは強く大きいわ。きっと変な私を、丸ごと受け入れてくれるくらい。だから、負けたらあなたと結ばれたいの」
「・・・・・・なぜ負けたらなのだ?」
「私は私より弱い者とは結婚しないって言ったでしょう」
「なるほどな」
「改めて言うわ。私はあなたに間違いなくひかれてる。ものすごく変な私だけど、貰ってくれないかしら?」
「・・・・・・くくっ、ははは、くははははは、なんとおもしろい奴だ。その望み我が全力で叶えよう!!!」
「わかってると思うけど・・・」
「ああ、そう簡単には勝たせてもらえぬようだな」
「ええ、私はあなたと結ばれたいわ。でも、それは私に負けるようなあなたとじゃない」
「いいだろう。それでは再開するか。我らの今後を賭けてな」
どうなるかわからねいけど、きっとすばらしいことになるわね。今この瞬間に、今まで以上にやる気をみなぎらせているあなたを見たら、心の底からそう思えるわ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしておりますが、誤字・脱字がありましたら教えてもらえると助かります。
「ひ弱な竜人」連載しておりますので、暇つぶしにでもどうぞ。
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