儀式
「上風先輩、お久しぶりです」
「春休みの会合以来かな?」
「あらはカウントされません。終業式以来です。」
「そうえば椿ちゃん従者制度とか、どうすんの?」
「無視ですか…もちろんそれは桔梗先輩の」
「従者にしないっていったじゃない」
「なんでですか!!」
従者制度について知ったときから桔梗の従者になるのだと心に誓い、椿にとっては日々の訓練もそのためにやっているようなものだった。
だからこそなぜ拒否されたのか理解できなかった。
「私、この学校で一番桔梗先輩に尽くせると思っているのですが、何が足りないんですか!?鍛練ですか?容姿ですか?」
「椿、キモい。」
「んなっ」
「残念だねー椿ちゃん?なんなら私の従者になりなよ」
「……」
「先輩を無視するとは…いい根性してるね?」
「もう、上風先輩は黙っていてください。」
「やだよ、私ずっと椿ちゃん従者にするって決めてたから。」
「はぁ!?」
唐突だった。
唐突すぎるカミングアウトだった。
いや、実際はそうでもないのかもしれないが椿にとってはとんでもないことだった。
「な、な、な、なんで」
「んー、インスピレーション」
「そんな適当な理由で忠誠心は持てません!!」
普通だったら冗談だととらえるかもしれないが椿はいたって真面目に答える。
「椿」
「なんですか桔梗先輩」
「その子しつこいわよ」
「はぁ…」
「だから儀式で諦めさせたらどうかしら」
「はぁ…ぁぁあああ!?」
「梛とやって勝ったら…貴方を従者に迎えてあげる。」
「やる、やります!!やらせてください!!」
ちょろいと桔梗が心のなかで呟いたことを椿は知るよしもない。
そしてこの決断は―世界に関わってくるものだとということも自覚しないまま。
―――――――
儀式というのはお互いが任意の上で自分に相手がふさわしいか見極めるためにある。
ルールは簡単。
どちらかが降参するか戦闘不能となるまで本気の殺し合いをするのだ。
場所は校舎の特別室。
完全な密閉空間で闘いが終わるまで外から開けることは出来ない。
今は技術も発達し、壁の向こう側から全く力を感知することが出来なくなると自然とドアが開く仕組みになっているが昔はこの儀式によって死人も出たと言うことだ。
少女たちは簡単にいってしまえば世界の救世主。
救世主は―自分の命などかえりみないものだ。
「準備はいいー?」
「もちろんです。最後に確認しますが」
「私が勝ったら椿ちゃんは私の従者になる。もしも―椿ちゃんが勝ったら私は諦めるし椿ちゃんは桔梗の従者になる。」
「もしもーなんて、言ってくれますね?そんな余裕すぐになくして…あげますよおっと!!」
そういうと同時に目の前にたっている梛に椿は容赦なく薙刀を振りかざす。
彼女たちの使う武器は特殊に開発されたもので力を注ぐことで普段は十センチほどの棒状となっているものがそれぞれの武器へと形を変化させる。
そうすることで持ち運びは便利になり奇襲などもしやすくなったという。
もちろん、人間相手にも攻撃は仕掛けやすくなる。
「はやいねーでも、若い!!」
「なっ…」
しかし梛は椿の攻撃を横にずれることでひらりとかわす。
薙刀はリーチがながく相手をギリギリまで近づけないようにできるが、その代わり次の体制に入るまでに一瞬のラグができる。
梛はそこを狙い、自分の武器を出現させる。
「うおっ…やっぱり相性悪いなぁ」
「だからこそペアになれば最高なんじゃないの?」
不敵にわらう彼女の手に収まっているのは弓。
紙一重で避けたものの椿の髪を結んでいたリボンが千切れている。
もともと武器に力を注いで攻撃しているため通常のものよりも何倍もの威力がある。
―こりゃ、死人も出るわな
儀式など初めての椿だったが開始1分も経たないうちに生命の危機を感じ始めていた。
その後は互いに何か話すわけでもなくひたすらに攻防戦が続く。
長い場合は何時間も続くことのある儀式だが、この二人には10分ほどたったところで思いがけなくあっさりと決着がついた。
「ねぇ椿ちゃん」
「突然ですね」
一言も発しなかった梛が突然話しかけてきたことが意外ではあったものの集中力を乱すことなく椿は梛の攻撃を弾き返す。
しかし、次の一言で椿は心を乱してしまった。
「椿ちゃんってさ………」
一瞬、心が真っ白になり…気づけば薙刀は地面に落ちていた。
「はい、私の勝ち。それともまだ降参しない?」
「はっ…」
無意識のうちに息を止めていたようで梛の言葉でようやく息をはく。
手から離れた薙刀はすでに梛の手の中。
取り返すことなど到底不可能だ。
「まぁ、降参しないならそれでもいいけど…薙刀も返すよ?」
「何を、ふざけたことを」
「ふざけてないよ?ただ椿ちゃんは今の気持ちを私に見抜かれて…それを知らない桔梗の従者としてやっていけるのかなって。」
―無理だ。
本当は儀式の前からわかっていたのだ。
椿にとって上風梛は天敵なんだと。
しかし―この人以外のひとについていったらきっと主が死んでしまうと。
桔梗だったらよっぽどのこと。
「降参です。」
そういった瞬間、部屋の扉が開く。
真っ先に入ってきたのは桔梗。
そして。
「梢…桜。なんでいるの」
「えー?だって面白そうなことやってるから」
「見ないわけにはいかないでしょう。」
そう言ったのは椿の友人である山吹梢と上重桜。
3人とも椿と梛の体制を見て結果はわかったらしい。
桔梗は騒がしい二人にたいしてただ一言優しい笑みで「おめでとう」といっただけだった。
それが梛に向けていったのか、自分に向けていったのかは椿に判断することはできなかった。