表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/36

夢現(K)

 気がつくと天井のないところで寝そべっていた。

 不思議に思って上体を起こして周りを見やる。目の前に広がっているのは、見たことのない草原だった。周りはやけに明るくて、心地よい風が吹いている。

 草原はどこまでも続いていて、芝や花以外はほとんど何もない。稀にリンゴのような果実の実った木が生えているくらいだ。

 今、何時だろう。ふと思って空を見回した。だけど、空のどこにも太陽は見当たらない。


「ここは、いったい……」


 何処なんだろう。全く見当がつかない。


「夢か?」


 ふと思い立って頬をつねってみる。それなりに痛い。


「ふふっ」


 突然後ろから、可愛らしい笑みが聞こえた。さっき周りを見た時には、誰もいなかったはずなのに……。

 僕はゆっくり後ろを確認した。後ろにいたのは黒い傘を差した、黒いゴスロリの少女だった。服や傘にはフリルが付いていて、可愛らしいデザインだ。


「頬をつねったのは貴方で5人目よ。次からは数えるのに両手が必要ね」そう言ってゴスロリ少女はふふふと笑った。


「君は……?」


 いったい誰だ。そしてここは何処だ。


「私はサラ。この夢の支配人と言ったところかしら」


「この夢は君の夢なのか?」


 少し馬鹿らしいと思いながら訊いた。だって、僕の夢じゃないのに僕がいる理由が分からない。


「うーん。私の夢でもあるし、貴方の夢でもあるわ」


 何を言っているんだこの少女は。僕は思わず顔をしかめた。


「あら? この答えじゃお気に召さなかったかしら」


「当然だよ。意味が分からない」


「まあいいわ、本題に移りましょう。私には貴方の能力が、超能力の方じゃなくて『触媒』の方の力が必要なの」


「君は味方なのか? それとも敵?」


 疑問だった。これが本当に夢なら、今僕はスラッカーズの関連施設で寝ているはずだ。そして、夢に入り込む能力に距離的な制限があるなら、サラと名乗る少女もスラッカーズの一員である可能性が高い。

 サラが敵なら、ムーンさんの言っていた「受信」の能力者が見つけて、既に止めているだろう。

 状況判断から言えば味方。だけど、味方なら「触媒」の力を求めるのは不自然だ。


「ふふふっ、面白い人」サラは笑って、付け加える様に言った。「私が貴方の敵だったら、味方だって迷わず言うでしょう?」


「つまり、この質問には意味が無いと」


「そういうこと」そう言ってサラはまたくすくす笑った。


「なんで、『触媒』が必要なんだ?」


「私の能力は、誰かと夢を共有すること。私が貴方の夢に入りこんだのか、それとも私の夢に貴方を招き入れたのか、詳しいことは分からないけれど…… そんな私の能力を、『触媒』で強めたらどうなるのか知りたいのよ」


「それだけ?」


「協力する気にならない?」


「今ので協力するだなんて難しいな。僕は組織に入りたてだし、組織に迷惑の掛かることはしたくない。君がもし敵だったら、組織の人達に顔を合わせ辛くなる」


 僕がそう打ち明けると、彼女は僕の隣に座って神妙な面持ちで言った。


「私はね、『超能力同好会』の一員なの。でも敵じゃない。騙されたのよ。あんな組織だって知ってたら、入らなかった」


 言葉が出なかった。僕と同じように騙された人が他にもいる。その事実を、今初めて実感できた。

 僕は『触媒』という重要な力を持っていたから、スラッカーズと取り合いに発展した。だけど普通の超能力者なら、スラッカーズでもわざわざ部下の命を懸けての取り合いはしないだろう。


「入ってすぐ命じられたのは、夢の中で、ある人を殺すこと。殺さなかったら一生目が覚めることは無いって……」


「それで、どうしたの?」


「殺したくなかった。だけど、本当にいつまで経っても目が覚めなかったから、怖くて……」


 殺してしまったのか……。「超能力同好会」、本当に外道な組織らしい。


「殺した次の日、やっと目が覚めた。逃げたかったけど手足が縛り付けられてて、出来なかった…… 組織の人は、夢の死と現実の死は繋がるのかを調べてたみたい。結果は黒。そこで付けられた能力名が『夢中侵食(ノーバディー・ノウズ)』。誰にも知られずに人を殺せるから…… その後命じられたのは、『怠け者集団(スラッカーズ)』の超能力者を殺害すること。まずは三人殺せって……」


「それからずっと、夢の中で?」


「うん。それからもう、一度も目が覚めてない…… 途中で、一人殺しちゃったの。もう二度と殺さないって思ってたのに…… その後気づいた。特定の人を殺すわけでもないのに、組織が私の殺人を把握できるわけないって。無駄に人を殺して、私は何をやってるんだって…… 余計に辛くなった」サラは悲痛な面持ちで言った。


 サラの話は聞くに堪えなかった。サラ以外にも、利用されている超能力者がたくさんいるんだろう。


「分かった。でも、まずはこっちの組織の人に相談しなくちゃ」


「それじゃダメなの。私は今、何処で眠ってるのかさえ分からない。だから、この問題は『怠け者集団(スラッカーズ)』には任せられないの」そう言ってサラは僕の方に顔を向けた。美しいその瞳には、少し涙が浮かんでいる。「これは、私と貴方の個人的な取引よ」


 サラはそう言った。

 目の前の少女を信じるか、スラッカーズの人達に話すべきか。僕は頭を悩ませた。

 悩んで思い出したことがある。サラの話を聞いていてすっかり忘れていたが。


「聞きたいことが二つあるんだ。まず、なんで僕が『触媒』を持ってるって知ってたの?」


「私はね、夢を共有する相手の、眠前の記憶が少しだけ分かるの。それで貴方を突き止めた」


 なるほど、なら納得だ。だけど、嫌な記憶も見せてしまったな。ウォーターと呼ばれていた男性の死体と、襲撃者の死ぬところ。きっとサラも見てしまっただろう。

 あ! ひょっとして風鈴さんが僕の胸に抱き付いてた場面も……!


「ふふっ、きっと今同じこと考えてる」サラは微笑んだ。


「や、やっぱり……!」


「ふふ、忘れてあげても良いわ。それで、二つ目の疑問は?」


 僕は咳き込んで気分を元に戻した。


「えっと、二つ目は、『触媒』を利用してどうするつもりなのか、かな」


「それは……えと、『触媒』でどう強化されるか分からないから、どうしようとか、そういうのは分からないの。でもきっと…… 復讐のために使うんだと思う」さっきまでの明るい笑顔が、たちどころに暗くなる。


 復讐、そんなのはダメだって言いたかった。でもサラの境遇を聞いてしまった今、そんなことはとても言えなかった。

 でもサラに復讐させるわけにはいかない、なんとしても。


「じゃあこうしよう。僕が助けに行く。僕の『触媒』を復讐のために使うのは駄目だ」


「そうだったわ…… 貴方の能力だものね。ふふっ、早くしてね。でないと、どうなるか分からないから」


 サラは悲しげな表情の中に、ほんの少しだけ嬉しそうな表情を浮かべた。僕はそれが嬉しかった。だから力強く頷いた。


「貴方の組織に懸けてみるわ。どうせもう、まともな人生じゃないもの。たまには賽の目に未来を委ねても、良いのよね」

 読んでくれてありがとう! Kだ。さあ、いつも通り解説をしよう。


 前回のO、「血戦」のラストシーンで主人公は眠ってしまいます。でもどうでしょう。主人公が寝るシーン、多くないですか? 多すぎます。「また寝てるよコイツ」なんてならんように、寝ることでしか紡げないストーリーというのを考えてみました。


 孤独な夢の少女サラが持つ能力、『夢中侵食ノーバディー・ノウズ』。これは元々カタカナ名「ノーバディー・ノウズ(= nobody knows)」だけ考えてあったもので、「誰も知らない」という意味の言葉です。夢に引きずり込む能力、どうしようかなと考えて、超能力に使えそうな諸々を書き込んでいるメモ帳を見たところ、「ノーバディー・ノウズ」がピッタリだと感じてこれに決めました。

 夢中侵食という字を充てた理由として、ポルターガイストさんが滅茶苦茶難しい感じ使ってたんで、今回は簡単な文字で構成しようと思ったことがまず一つ上げられます。

 また、能力自体はサラが言っている通り詳細不明で、サラが他人の夢に入り込む能力なのか、他人をサラの夢に引きずり込む能力なのか、他人と夢を共有する能力なのか、いろいろ考えられますが、サラの(もしくは超能力同好会の)主観で考えた場合には他人の夢に入り込むと考えるのが普通だと感じ、侵食の字を充てました。


 OSがどの様に展開を考えるのか楽しみです。相手組織に乗り込む展開になると予想されますが、無理な展開にならないようにしっかりと考えて書いていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ