崖っプチの大勝負(K)
「他の者たちの中には君を手に入れることで組織内の地位を上げようと企てている者もいるから気をつけてくれ……」
家に着いてからも、ムーンさんの台詞が頭を反復していた。
「考えている暇はないな…… 僕も、早く決心しないと」
自分の将来を左右する重大な選択だ。だけどこのまま考えあぐねていたら、まともな将来は歩めないかもしれない。スラッカーズの情報は、組織外の人間としては十分なほど入手できた。だから次はゆみの方だ。彼女のこと、それから彼女の組織のことをよく知っておかないと、きっと後悔する。僕にとって、ムーンさんと彼女のどちらが良い選択か、見極めなければならない。
彼女からどうやって情報を聞き出すか、それはもう決めてある。簡単だ、今日起こったことを彼女に伝えるだけ。僕がスラッカーズからどれだけの情報を得たか、それを彼女に伝えるだけで、焦って情報を漏らしてくれるに違いない。僕はそう期待していた。
「そろそろ、料理つくんなきゃな」
多分、もうすぐお母さんたちが帰ってくる頃だ。食事で気を逸らさないと、眠った女の子を家に連れ込んだなんて(それも自分の部屋のベッドに寝かせるとは)どう思われるかわからない。今日はいつもよりずっと美味しく作らないと、な。
僕は長い深呼吸をした。絡まった糸を捨てる、そんなイメージで、思考を落ち着かせていく。今日はたくさんのことが起きた。だけど、今はそんなこと関係ない。
今は……、ハムとニンジンを小さくカットする。フライパンに油を熱し、あらかじめ溶いておいた卵を投入する。少し待ってから白米、ハム、ニンジン、ねぎを加え炒める。塩とコショウと醤油を加え、更に炒め合わせるっ! そう、これぞ、今の僕に求められているもの。部屋に広がる良い香り、美味しい料理、理想郷はここにある。時は満ちた。さあ! 来い、わが母よ――
その魂の叫びに呼応するように、玄関ドアの鍵が開く音がした。おお、良いタイミングだ…… 今ならアツアツの料理を頬張れるぞ……
「ただいまー! しゅーくんただいまー!」
来い。来て、炒飯の良質な香りを体験するんだ。ああ、武者震いが止まらないぞ!
「……あれ、いないの?」
母は僕の返答がないことに疑問を感じていたようだが、僕の姿を視認するなり明るい笑顔で走り寄って来た。
「しゅーくんいるなら返事してよー。クンクン、この匂いは、まさか――」
「そう、そのまさか。青炎が齎した煌きだ!!」
中華鍋から作り立ての炒飯を皿によそる。炒飯からはいい香りを纏った湯気が立ち上り、鼻をくすぐる。
今宵、最高のディナーショーが幕を開けた。
いやー前Sの回、中々良い橋渡しをしてくれましたねぇ。僕の回は閑話休題と言うか、まあひと段落着いたなと感じたので、休憩回を入れさせてもらいました。中々楽しかったです。今回は特に解説することもないですね。次回のOは何を書いてくれるのか、楽しみにして今回を終わりたいと思います。




