月影は雲を浮かばせる(K)
僕らが歩き始めたその時だった。
「うっ……」
ゆみが突然呻き声をあげて倒れこんだ。言わずもがな、倒れる時の衝撃は乳で吸収できたようだが、彼女はぐったりとしてしまった。病気か? なんてこった。これから金を貰うつもりだったのに! クソが!
考えてみるが、彼女が倒れた原因は分からない。最近の騒動による疲れか、それとも何者かの超能力か。いや、疲れだったら彼女より僕の方が倒れるに相応しいだろう。僕はしゃがんで彼女に声をかけた。
「ゆみ様、お目覚め下さい」
すると、彼女は目を瞑ったまま口を僅かに開いたり閉じたりを繰り返した。だが声が出ることはない。起きているのか? その疑問に答えるように、彼女は地についた僕の膝を指で弱く触れた。
「起きている?」
「聞こえる?」
彼女から僅かに声が出る。非常に小さな声だが、何とか聞き取れる。でも少し心許ない。僕は彼女の口に耳を近づけた。
「聞こえてる、かしら?」改めて彼女が言う。
「ああ、聞こえてる。急にどうしたの?」
「分からない…… だけど、妙」
「何が?」
「身体から力が、奪われる感じ……」
「つまり、超能力者?」
「確実じゃないけど、多分」
敵対超能力者、マズい。僕はまだ超能力についてあまり知らない。それなのに、対処なんてできっこない。いや待て、近くには茂部君がいるじゃないか。頼るっきゃない。僕はゆみを抱えて走った。
「君ぃ、ちょっと待ちな」
突然の声に、思わず振り返る。後ろには見知らぬ男が立っている。声から推測するに、そこそこ大人だ。30歳は超えているだろう。そして、男は顔を見られたくないのか不気味な仮面をかぶっている。だが、仮面の目に開いた穴から覗き込む眼光は、とても鋭い。
「そう邪険にするなよ。これから君の味方になる存在なんだから」
……やはり、と言うべきか。恐らくこの男も僕を狙っている。問題は、某神父と同じ組織の人間かと言うことだ。もしそうなら、この男も外道。
「ああ、自己紹介をしておこうか。私はね…… あーそう、この前神父みたいなちんけな奴が来たろう? いやー随分迷惑をかけたようだ。どうも私らの組織は配役ミスが多くてね。だから今度は失敗しないように、重役である私が来たんだ」
「僕にそこまでの力が?」
「ああ、そりゃ凄いとも」
「ゆみ…… この女の子は、僕に『特別な力がある』と言っていた。それが欲しいのか?」
「当然、欲しい。まだその女は君の特別な力がどんなものか喋ってないようだね。私なら君に教えてあげられる」
「教えてくれ。気になって夜も眠れないんだ」
「っはは、素直だ。教えよう。だがその前にその女を地面に置いてやったらどうだ。重いだろう」
「ああ、この乳は積載量オーバーだ。ずっと耐えてたんだ」
僕はゆみを地面に優しく寝かせた。
「うん。それじゃあ話そう、君のことについて。ああっと、まずはマスクを外さないとね」
そう言って男は仮面を取り外す。
「このマスクはね、ほんとは外しちゃ駄目なんだ。私は組織の中でもトップの方だから、顔バレNGでね。だけどまあ、仕方ないよね。それじゃあ話そうか」
「ゴクリ」
「少し本題から逸れるが、君も超能力者なんだ。君の超能力は僕には分からない。だけど、超能力自体はいたって普通のものらしい。重要なのはその『特別な力』って奴だ」
「『特別な力』っていうのは、超能力じゃなかったのか」
「ああ、そんな事さえ聞いてなかったんだね。まあ、その女は下っ端だろうから、話そうと思っても話せなかったんだろうけど」仮面の男は鼻で笑って言った。
「それで、『特別な力』ってなんなんだ」
「君の特別な力の正体、それは『超能力の触媒』なんだ」
「『超能力の触媒』?」
「触媒、君も学校で習ったろう。それの超能力版」
触媒って確か、化学反応を促進する物質のことだった。ということは、僕は他人の超能力を使いやすく出来るってことか?
「説明するとね、他人の超能力が強まったり、安定したりするんだ。だけどもっと重要なことは、超能力の使えない人でも超能力を使えるようになってしまうことなんだ」
一般人を超能力者に出来るってことか? でも母や叔母さんが超能力に目覚めた様子なんて無かった。
「はは、気持ちは分かるよ。現実味が無いよね。でもそれは、君がまだ力の使い方を把握してないからなんだ。でも、そのままだとまずい、非常にね。超能力を知らない人が突然超能力に目覚めちゃうと、暴走するかもしれない。それが危険なんだ」
「さっき、見ました。透視能力に目覚めた男が、興奮してて……」
あれは透視能力だったから良かったけど、他人に危害を加える能力だったら大変なことになっていた。この人はゆみより信用できる。
「さて、あまり長居は出来ない。私について来てくれるかい? その女の子は……私たちとは敵対関係だけど、ほっとくわけにもいかないか。連れてきても良いよ」
「じゃあ、そうしよう」
僕は再びゆみをお姫さま抱っこした。男は仮面を被り直して歩き始めた。僕もそれについていく。歩きながら男はこちらを向いて言った。
「ああ、自己紹介、忘れてたよ。私のいる組織は『怠け者集団』って呼ばれててね。目的は超能力者の存在を公にすること。今のネットの時代じゃ、いつ広まってもおかしくないでしょ? だから時代に合わせて超能力者の在り方を変えようとしてるわけさ」
それを聞いて安心した。特に悪い組織じゃないかもしれない。
「それと私の名前だけど、顔だけじゃなくて本名も隠さないといけないから、『月』って呼ばれてるんだ。親しい人には『つっきー』とか呼ばれることが多いけどね、ハハハ」
「そう言えば、あなたの超能力は?」
「ああ、それもほんとはバラしちゃ駄目なんだけどね。私の超能力は『力の吸収』なんだ。気力でも視力でも発想力でも0にして、失くした力の一部を一時的に吸い取るんだ。この女の子は、今気力を吸われちゃって眠っちゃったんだね。その分私は元気だけど。この女の子も、寝れば元気になるよ」
僕らはその後、超能力とか関係ない普通の日常のことを話しながら、行く先を目指した。
どうもKです。読んでいただきありがとうございます。O、Sからバトンが回ってきて、状況と言えばヘンタイが出現した後どこか行く予定でしたね。でも何処かって難しいなー。まあゆみのいる集団のアジトでも良いんですけど、なんか上手く繋げられなかったんですよ。15分程歩いたら着いちゃいましたってのも味気ないし、会話する必要があるわけですけど、肝心の会話が思いつかない。どうしよう。そこで謎の男の登場ですね。
突如として現れた仮面の男。仮面を取った後の顔については何も書きませんでした。実は書くのを忘れただけなんですけど、まあいいかな、と。恐らく、特筆すべき点のない普通の顔だったのでしょう。まあそれはともかくとして、この謎の男の登場によって、物語を大きく飛躍・進展させました。具体的に言えば主人公の『特別な力』の正体と、某神父のいる組織の名称ですね。あと、ゆみの乳は衝撃を緩和できることも明かしました。
仮面の男の超能力は、対象から力を奪うことです。その気にならなくても簡単に人殺しが出来る能力ですから、S、Oがどのように扱うのか楽しみです。さて、重要なのは彼の能力の詳細部分です。彼は、「失くした力の一部を一時的に吸い取る」という言い方をしましたが、一部というのは具体的に何%ぐらいなのか、一時的というのはどのくらいの秒数なのか、ここの制約でも超能力の強さが更に大幅に変わると思います。あと彼の能力の制約としては、奪った力を返せるかどうかも大切なことですね。
一部というからには結構少ないはずです。範囲としては5%~40%ぐらいかな。僕としては10%~20%を想定してますが、未定の今、二人にも決定権があるわけです。それから「一時的に吸い取る」というのは、決して「短時間だけ」という意味ではなくて、「力は永久的に加算されない」と言いたかったんです。ずっと奪いっぱなしだと強すぎますからね。「私の握力は53万です」とかなっても困るんでね。だからそう言わせました。
主人公・夕凪春の特別な力については、軽く戦争勃発する程度に凄まじい能力にしました。そうじゃないと能力バトルに持っていけないと思ったからです。主人公を戦いの禍根にした方が分かり易いですよね。
あとどうでもいいことですが、主人公が月をなんて呼ぶのか、これは意図的に描写しませんでした。あだ名は他人に決めてもらう方が良いです。ムーンと呼ぶか、つきさんと呼ぶか、つっきーと呼んじゃうか、個人的に気になってます。




