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高梁と菊地

第一話 夏!恋!ときどき生霊

作者: エメス

物語はオムニバス形式であり、各話は時系列がバラバラになっています。

また、それぞれが完結しているので、

1話から順に読まなくても分かるようになっています。

どうぞ気兼ねなくお読み下さいm(_ _)m


尚、この話は人生初の書き物として投稿させて頂いたものです。


※物語で登場する人物名等はフィクションです。

※またFC2小説、mixi、2ch系掲示板等にも投稿したことのあるお話です。

 大学の夏休みを利用し帰省した僕は、知り合いの伝で短期のアルバイトをしていた。

 レンタカーを点検、清掃し、再び貸付できる状態にする簡単な仕事だ。

 都会の生活に慣れてしまい実家の田舎暮らしは退屈すぎる。

 それに義父とも不仲であったため家に居たくない僕には丁度良かった。

 

 

 

「なんていうか、お前ってキモイなー」

 

 高梁はため息混じりで言った。

 

 高梁と僕は中学時代からの友人で、

 進学で上京したことによって徐々にだが疎遠になっていった地元の友人達の中で

 未だに連絡を取り合っている腐れ縁に近い関係だ。

 

 

 今僕には好きな人がいる。

 いや正確には好きになる手前、気になるという表現が正しいのだろうか。

 バイト先の店で働く7歳年上の女性。名前は佐藤さん。

 僕が働き始めてすぐに他店舗から異動してきたタイミングから何かと会話する機会が多く、

 気さくに話しかけてくれる彼女がそれとなく気になっていた。

 

 僕はあまり女性関係に免疫がないし、そもそも女性が苦手だったが、

 緊急時の連絡先を聞くという名目で、

 店内全従業員の電話番号を聞いてまで手に入れた彼女の連絡先に、

 これまた、今日は暑いですねー、僕泳ぎ得意なんですよー、などと何度もフラグを立てて、

 先日ようやく電話をして海に誘った。

 そして、気さくな彼女は快く承諾してくれた。

 

 ところがデート前日になって下痢が止まらない。

 海へ向かう車内で会話が途切れたらどうしよう。

 水着姿の彼女をイヤラシイ目で見てしまったらどうしよう。

 考えれば考えるほどお腹が痛くなってくる。

 ええい、背に腹は変えられない、こうなったら・・・・

 

「お前大学生になってまで、デートに付き添ってくれとか言う?童貞乙」

「バージンキラーで、マダムキラーな高梁君!頼むよー、焼豚丼おごるからさぁ」

「だが断る つーか誰がバージンキラーで、マダムキラーだ!」

 

 しかしデートの付き添いで掛かるであろう食費と交通費も僕が負担するという条件で

 高梁は承諾してくれた。

 まったく現金なヤツだ・・・、まぁ僕も僕だけど。

 

 

 

 翌日、待ち合わせた駅の駐車場で、15分前に来るよう事前に打ち合わせしたにも関わらず

 高梁は遅刻して、先に佐藤さんがやってきた。

 

「こんにちわ~、待たせちゃった?」

 

 裾の長い茶色と黄色のキャミソール、黒のサルエル、キャミソールに合わせた黄色いサンダル、

 そして髪を結んでいた。

 普段の佐藤さんはこんな格好をしているのか。

 仕事では制服を着ているから良く分からなかったが、意外と胸が・・・

 

「にっ、にっ、似合ってますね!その格好!」

「そう?ありがとう」

 

 もちつけ!つーか何早速胸見てるんだ。

 

 今日は風もなく雲も少ない、アスファルトの反射熱でまだ昼前だというのに更に暑さを加速させる。

 そんな中動揺しまくっている僕の手はビショビショだ。

 今手なんか繋いだら気持ち悪いとか言われそう・・・などと考えていると高梁がようやくやってきた。

 

「よお!きてやったぜ~」

「おせーよ・・・」

「わりぃ、道が混んでてさ」

 

 お前んち駅から5分だろ、徒歩で。

 

 白いTシャツ、シーパン、スニーカー、そして寝癖の付いた頭。

 佐藤さんに比べて何ともセンスのない格好だ。

 高梁は昔からそうだ、服装に頓着がない、だが何故かモテるんだ、爆発しろ。

 だけどまぁ、今日デートするのは僕だから関係ないか。

 

 高梁は一瞬睨むような、目を細めるような表情で佐藤さんを見た気がしたが、

 すぐにいつものヘラヘラした笑みを浮かべて自己紹介をした。

 

「こんにちわ、高梁で~す」

「はじめまして、佐藤です」

「うちの菊地がお世話になってま~す」

「おい・・・」

 

 ちなみに菊地とは僕の名前だ。

 

 紹介も兼ねたお話は道すがら・・・ということで早速出発。

 海に向かう車内で、終始声が震えたり、裏返ったりしている僕を高梁は、

 冗談を含めてよくフォローし、話題を提供してくれた。

 また和やかな雰囲気に感化されてか、佐藤さんも自分のことを話してくれた。

 

 地元の大学を卒業後、東京で就職したこと。

 仕事や恋愛のもつれから色々な気苦労をしてきたこと。

 半年前に実家に戻ってきたこと。

 犬より猫派だということ。

 

 そういえば僕は職場で会話する佐藤さんの人柄しか知らない。

 

 たまに思う、好きという言葉は無責任だ。

 佐藤さんは、気さくで優しくて、きっといい人なのだろう。

 僕はそんな佐藤さんがずっと気になっていた、だけど僕は彼女のことを何も知らない。

 もし、佐藤さんの過去を知ったり、僕の知らない一面を垣間見たときに、

 今後も好きでいられるのだろうか?

 そしてそれは佐藤さんにも言えることだ。

 

 

 

「海~~~!」

「うみ~~!」

 

 佐藤さんと高梁が嬉しそうに叫ぶ。

 彼女にお姉さん的なイメージがあった僕は、少女のように喜ぶ姿を見てギャップに萌えた。

 高梁は・・・黙ってろ。

 

 快晴の空を海が写し輝いていて、都会とは違った程よい活気がそこにはある。

 毎年海に来ていたのに、何故か酷く懐かしい気がした。

 

 駐車場に車を止めて、更衣室で水着に着替える。

 高梁はすでに出てきており、辺りを見渡している。

 

「おーおー、いっぱいいるね~、カップルや家族連れ!付き添いで来たのは俺ぐらいじゃね?」

 

 ・・・悪かったよ。

 確かに僕が高梁の立場なら、嫌味の1つも言いたくなる。

 

「ところで高梁、なんで海パンがブーメランなの?」

「おもしれぇべ?」

 

 高梁は昔からそうだ、ネタのために無駄な努力を惜しまない、出たての芸人かお前は。

 

「お待たせ~!」

「!!!」

 

 そこにはおっぱいがあった、いや、ビキニを着た佐藤さんがいた。

 この生ビキニの生佐藤さんを写メを収めたかったが、変態だと思われたくなかったので止めた。

 Fはあるんじゃね?と耳打ちする高梁の脇腹にエルボーを食らわせ、僕達は浜へ向かった。

 

 

 

「俺がジュースを買ってきてやる」

 

 そう言って高梁は僕に向かって手を差し出した。

 金をくれってことか・・・

 一瞬でも気を使ってくれてありがとうと思った自分が馬鹿だった。

 

 高梁の配慮で佐藤さんと2人きりになったわけだが、いざ対面すると頭の中が真っ白になる。

 こういうとき何を話せばいいのだろう。

 仕事の話か?論外だ。

 ビキニを褒めるか?いや変態だと思われたくない。

 やばい、お腹が痛くなってきた・・・

 

 そんなことを考えていると、彼女の方から切り出してきた。

 

「なんか大学の頃を思い出すな」

「え!?」

「君達を見ているとね」

 

 佐藤さんは少し俯き、流し目で僕を見ていた。

 それは羨ましいような、寂しいような、そして少し色っぽい表情だった。

 

 佐藤さんは大学生の時に知り合った1つ上の先輩と恋に落ちた。

 お互いに社会人になってからも付き合いは続き、いつしか結婚を意識するようになっていた。

 しかし、彼は佐藤さんが大学を卒業した頃から徐々に体調を壊していき、

 ついには衰弱死してしまった。

 彼が存命の頃は彼の両親とも仲の良い付き合いをしていたが、

 身近に居ながら彼の異変の気が付かなかった佐藤さんを恨み、民事訴訟を起こした。

 会社の同僚や友人からは同情されたが、頼るわけにもいかず、

 裁判の決着が付く頃にはすっかり疲れてしまって、実家に戻ってきたのだ。

 

「あの頃は楽しかった」

「・・・」

「ごめんね、せっかく海に誘ってくれたのに、こんな話をして」

 

 僕はどう反応すればいいのだろう、なんて声をかければいいのだろう。

 佐藤さんは何を意図して僕にそんな話をしたのだろうか。

 

 日が傾きかけて青かった空は徐々にオレンジ色に染まる。

 再び彼女を見たときは、もう僕を見ていない。

 オレンジ色の空を写す海を眺めている彼女の横顔が少しだけ怖かった。

 

 

 

 事情を知らない高梁は帰りの車内でも、僕をからかいながら話題を提供してくれた。

 佐藤さんは笑っていたが、僕は相槌しかできなかった。

 

「邪魔者はここで退散してやるから、送っていってやれよ」

 

 駅の駐車場に到着し、車を降りた高梁は僕に、早まるなよと耳打ちする。

 お前と一緒にするなと言いながら見た高梁の表情は凄く真剣な顔をしていた。

 え?なに?どうしたの高梁・・・

 

 佐藤さんの家は市街地から外れた郊外にある。

 彼女の案内で自宅付近まで車を進めた。

 高梁という心強い助っ人が居なくなり、

 2人きりという緊張と先ほどの海での会話の気まずさから何も話せないでいると、

 突然彼女がトンデモ発言をした。

 

「この道を真っ直ぐ行くとラブホテルがあるよ」

「!?!?」

「行ってみる?」

「!!!」

 

 ナ、ナンダッテー

 僕は車を路肩に止めて佐藤さんを見る。

 佐藤さんはしっかり僕を見ていたが、少し悲しげな顔をしてた。

 

 佐藤さんは気になる存在だ。

 だけど、今僕が彼女に感じる感情は・・・

 

 佐藤さんだって、軽々しくそんなことは言えないはずだ。

 僕を誘うための決心、あるいは気負いのようなものもあったことだろう。

 女性の誘いを断るのは失礼なことかも知れない。

 

 だけど僕は同情で佐藤さんを抱きたくない。

 

「佐藤さん、もっと自分を大事にしなきゃ」

 

 僕は精一杯笑顔で言った。

 僕のバカヤロー

 

「・・・」

「あはは、生意気なだ、菊地君は!」

「すみません・・・」

「冗談だから気にしないで」

 

 僕は好きな子が出来るたびに高梁に相談してきた、

 そしてその度に高梁は僕を子供だと馬鹿にする。

 やっぱり子供なのかも知れない。

 

 また海に行こうねと曖昧な約束をして、佐藤さんは車を降りる。

 僕も降りて見送る、彼女の姿が見えなくなるまで立っていた。

 

 その後、佐藤さんとは何度かメールのやり取りをしたが、特に関係が発展することもなく、

 夏休みも残り1ヶ月を切った頃、彼女は会社を辞めた。

 

 店長に事情を聞くと、佐藤さんは東京に戻るのだという。

 いつ出立するのかは教えてくれなかったが、彼女から来たメールはこうだった。

 

───────────────────────────────────


  もう1度東京で頑張ってみようと思うの。

  また海に行こうって約束は守れなくなってしまってごめんなさい。

  でも菊地君に会えて本当に良かった。

          

  もっと自分を大事にしなきゃって言ってくれて

  ありがとう。


─────────────────────────────────── 

 

 

 

 

「あーあ、好きだったのになぁ」

 

 僕は間抜けなぐらい青い空を見上げて、独り言のような愚痴を高梁に言った。


「わかる、わかるよ」

 

 珍しいな、いつもは子供だと馬鹿にするくせに。

 僕達は、女々しいとは思いつつも、佐藤さんと3人で遊びに行った海へドライブに来ていた。

 

「そーえば高梁さ、佐藤さんを送っていくとき、早まるなよって言ったじゃん」

「あー」

「あれってどういう意味だったの?」

「あー」

「あー じゃなくて答えろよー」

「あれなー・・・」

 

 高梁は言いかけて、少し間を置いた。

 

「お前さー、佐藤さんに憑かれていたんだよ」

「え?疲れて?」

「取り憑かれてー ニホンゴムズカシイネー」

「え・・・?」

 

 てっきり筆オロシは慎重にしろとか言われると思っていたが、

 予想外の返答に脳がついてこなかった。

 

「お前から呼び出されて、デートの付き添いをお願いされたとき、菊地の左足になんか絡まってた」

「・・・」

「お前んちの犬かと思ったけど、犬連れてくるとか不自然だしー

 そもそも犬の形状してなかったしー」

「ちょ・・・ちょっと待て、ナニソレ?」

「生霊だろ?たぶん」

 

 高梁の弁はこうだった。

 

 デートの付き添いを相談するために高梁と会った日、僕の左足に妙なものが絡まっていた。

 最初は動物かと思ったが形状が異質で、まるでモップのようだった。

 毛と思わしきものは良く見ると髪の毛であり、毛と毛の間から人の目が見える。

 少し嫌な感じがしたけど、特に気にしないようにしていたが、

 翌日それは大きくなっていて一層禍々しい気配を出していた。

 そして、佐藤さんと会ったとき、直感的にそれが彼女のものだと分かった。

 

「おい高梁!佐藤さんは人を傷つけるような人間じゃない」

「もちつけ そんなこと一言もいってねーだろー

 生霊ってのは、本人の意思と関係ない方向に動くことだってあるんだ」

 

 生霊は憎愛に関係なく思いがあれば発生し、憑いた人間へ何かしらの影響を与える。

 その影響度合いも様々で、ただ落としただけではすぐに戻ってくるから厄介だが、

 思いを根絶するか、本人同士に何かしらの変化があったりすると自然に消えることもある。

 下手に落としたり、事を荒立てたりするより、様子を見たほうがいいと思った。

 ただ気がかりなのは、佐藤さんの生霊の異常な強さだ。

 よほど強く思われているか、他に何か原因が・・・

 

 

 

「まぁ菊地は意気地なしだから、カレカノに発展しないと思ってたしなー、むしろ確信してた」

「やめろよwww やめろよ・・・」

「もう佐藤さんのは憑いてないから安心しろ」

「つーか、高梁にしちゃ上出来なホラだな!でも幽霊とかいるわけねーべ」

 

 高梁はデスヨネーと言いながら、いつものようにヘラヘラ笑った。

 まったく突然霊の話するとか、僕の心中察しろよ、KYめ。

 

「・・・」

「まて、佐藤さんのはって何?他のは憑いてるってこと!?」

「いや幽霊とかいるわけねーべ」

 

 そう言って、高梁はまたヘラヘラ笑った。

 

 中学の頃、自分には霊感があるとクラスメイトに自慢する高橋を思い出した。

 あれは厨二病の一種だと思っていたが、まさかね・・・

 

 でも、仮に霊が存在するとして、高梁の話が事実なら、

 佐藤さんは僕のことを好きだったのかも知れない。

 もう憑いていないということは、思いを断ち切ったのだろう。

 

 そして彼女が海で話したことを思う浮かべる。

 彼が亡くなってしまったのは、もしかして彼女の生霊が・・・

 まさかね。

 

 

 こうして僕のひと夏の恋は終わったが、夏は続く。

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