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予知姫と年下婚約者  作者: チャーコ
番外編 Side:瀬戸聖士
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1 メンズ香水

「予知姫と年下婚約者」瀬戸聖士視点です。

 朝からシャワーを浴びた。

 自分なりに厳選した洗顔料で、よく顔を洗う。髪の毛は、あまりコンディショナーを使うと将来良くないと聞いたので、コンディショナー不要でも髪がさらさらキープ出来るシャンプーを使っている。

 浴室から出て、高校の制服に着替え、ドライヤーで念入りに髪の毛を乾かした。

 肌を守るために、男性用化粧水を使用する。メンズ香水をつけようとしたら、洗面所の扉が勢いよく開いた。


「兄さん! いつまで洗面所占領しているんだよ。僕が使えないじゃないか」


 俺はメンズ香水をつけながら答えた。


「悪い、征士。これで終わるから」

「兄さん、香水の匂いきついよ! 僕にうつっちゃうじゃないか」

「そんなにはつけてないって。うるさいな。今日はバレンタインだから、特別なんだよ」


 そう、今日はバレンタイン。俺の大好きな女の子達が、たくさんチョコレートをくれる日だ。少しばかり香水の匂いがきつくても勘弁して欲しい。


「バレンタイン……。確かに、特別だけど。……ちょっとだけ、僕も、その香水、つけてみようかな……」


 躊躇いながら言う弟に、俺は苦笑した。


「そうだな。ちょっとだけ、わからない程度につけてみるか? お前の大好きな『月乃さん』の為にな」


 俺は弟の征士に、ほんの少しだけ香水をつけてやった。

 何だかんだ、征士は感情を素直に表すので、見ていて微笑ましい。


「ありがとう、兄さん。今日は月乃さんからチョコレートもらう約束してるんだ」

「それは良かったな。後で味見させてくれよ」

「嫌だよ。月乃さんからのものは、全部僕のものなんだ。兄さんは他の女の子達から、いっぱいチョコをもらうだろ。絶対あげないよ」


 征士は俺を洗面所から追い出し、適当に顔を洗い始めた。

 ……適当に洗っている割に、俺より肌艶がいいのは何故だろう。髪の毛も、親と一緒の安物シャンプーを使っているようだが、俺よりさらさらだ。

 少しむかつきながら、朝食を摂り、高校へ向かった。



「瀬戸くん~。はい、チョコレート。チョコレート専門店の、バレンタイン特別商品なんだ」

「ありがとう、さっちゃん。すごく綺麗に爪の手入れしているね。ぴかぴかしているよ。可愛い」


 クラスメイトのさっちゃんから、本日十個目のチョコレートをもらった。持ってきていた紙袋にチョコを入れていると、男友達から声をかけられた。


「おい、聖士。今ので何個チョコレートをもらったんだよ。香水の匂い撒き散らしやがって。この女好きが」

「まだ十個だよ。今日は紙袋二つに、たくさん詰める予定」


 男友達は呆れたように溜息をついて行ってしまった。


「聖士くん。チョコあげる~」

「はいはい。嬉しいな。今日も綺麗な声で、俺の名前を呼んでくれてありがとう。また名前を呼んでね」


 俺は自慢の、さらさら黒髪をかきあげながら笑った。十一個目、ゲット!

 そんなことを繰り返しつつ、予定通り、紙袋二つにたくさんのチョコレートを詰めた。


「聖士くん。この後、皆で出かけない? 美味しいパフェの店見つけたの」


 放課後になって、可愛い女の子達から誘いを受けた。しかし、もらいすぎたチョコレートが紙袋から溢れ出しそうだ。


「う~ん。すごく心惹かれるお誘いなんだけど……。今日はあんまり荷物が多いから帰るよ。ごめんね、また誘って」


 女の子もパフェも好きだけど……。チョコレートが溢れてこぼれてしまったら大変だ。仕方なく帰宅することにした。


 ♦ ♦ ♦


 家へ帰って、玄関の扉を開けた。


「ただいまー。あー、今年も大量……って征士、そっちの女の子、誰?」


 俺がチョコレートの詰まった紙袋を持ちながらリビングへ行くと、征士と見知らぬ女の子がいた。女の子は、長い黒髪が印象的だった。


「兄さん! 失礼だよ」


 征士が他人の前で声を荒らげている。珍しい。女の子は俺に向かって会釈した。


「お邪魔しています。虹川月乃と申します」


 ……『虹川月乃』。月乃さん、か。いつも征士が、素敵だ、大好きだと家族に言いまくっている、例の年上婚約者ね。


「あ、あー……。月乃さんですね。いつもお話は征士からかねがね。俺は征士の兄の聖士です。近くの高校の二年生です」


 月乃さんを眺めてみる。俺より年上だと聞いていたけど、成程、大人っぽい顔立ちだ。長い黒髪は見事に綺麗だ。月乃さんは俺の持っている紙袋を見た。


「あの……。余計だとは思うんですけど、お土産のチョコレートです。後、紅茶の茶葉の詰め合わせなんですけど、良かったら」


 紙袋に入っているチョコレートを見て、少し遠慮がちに渡してきた。でも俺は、女の子からもらえるチョコレートは大歓迎だ。


「え、俺にもチョコレートを? ありがとうございます。もしかして手作りですか?」

「はい、一応」


 手作りだと聞いて、その場で開けて食べてみた。トリュフチョコだ。


「すっごく美味しいですね」

「褒めていただいて、ありがとうございます」


 月乃さんははにかんだ。俺より年上なのに、可愛い表情だ。


「月乃さんってお菓子作り上手なんですねー。髪もすごく長くて綺麗ですね。征士にはもったいない。俺に乗り換えません?」


 征士が月乃さんに惚れているのを知っていて、からかい混じりに言ってみた。案の定、征士が噛みついてきた。


「兄さん!」


 弟が面白いように反応を返してくる。いつも他人の前では澄ましている癖に。


「月乃さん。兄なんか放っておいて僕の部屋へ行きましょう。僕も早く手作りチョコレートが欲しいです」


 征士は月乃さんの背中を押さんばかりに二階へ連れて行った。面白すぎる。

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