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予知姫と年下婚約者  作者: チャーコ
番外編 Side:瀬戸征士
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1 困惑の婚約話

「予知姫と年下婚約者」瀬戸征士視点です。

 僕、瀬戸征士は、五歳年上の婚約者のことが大好きだ。

 いつも明るくて、すごく優しくて、色々気遣ってくれる。長い黒髪がとても綺麗な、大人っぽい顔立ちの人だ。

 お金持ちのお嬢様なのに、気安くて、しゃべっていて楽しい。

 僕はそんな婚約者、虹川月乃さんのことがどれだけ大好きか、いつもいつも家族や友達に話していた。


 そんな素敵な月乃さんだけど、何ていうか……天然。五歳年上なのに、子どもっぽいところもある。極めつけに鈍感。そんなところも可愛いんだけど。


 ♦ ♦ ♦


 僕が小学校を卒業する頃になったとき、ある日、父親がすごく青い顔で会社から帰ってきた。父親は建築資材卸売業の会社に勤めていて、小さな支店を任されている。小学校三年のときに一度職場に連れて行ってもらったことがある。小さなコンクリート壁の部屋で、ところどころに建具などが置いてあった。ちなみに母親は商業高校卒なので、時々経理のパートに通っている。


「征士、すまない。お前に、どうしても断れない話を申し込まれた」

「え?」

「私が勤めている会社の親会社の会長で、他にも沢山の会社を纏める企業グループの虹川会長から、突然直々に連絡が入った。会長の一人娘のお嬢さんの婿に、是非征士を、と頼まれた。お前は次男だから断れる理由もない。本当にすまない」


 本当にすまなそうな顔をして、父親は謝ってきた。

 僕はとても、びっくりした。


「……婿って、お婿さん? 僕まだ小学生なのに、結婚するの?」

「結婚じゃなくて、取り敢えず婚約だそうだ。お相手のお嬢さんは高校二年生だそうで、お前より五歳年上だ。どうしてこんな、突然……」


 父親は、頭を抱え込んでしまった。

 僕も何も話せなかった。

 僕が……、婚約? 五歳上のお嬢さん? 何で?

 二人で黙り込んでいると、自宅の電話が鳴った。母親が電話に出たようだ。

 母親が受話器を持って、僕のところに来た。


「征士……。お前に電話。虹川グループの会長の、虹川会長から。くれぐれも失礼のないように、お話しなさい」

「…………」


 ……虹川。父親の親会社の名前だ。そこの会長さんからなんて、さっきの婚約の話なのかな……。

 僕はおそるおそる電話に出た。


「もしもし。電話、代わりました。僕、瀬戸征士っていいます」

『ああ、いきなりすまないね。私は、虹川グループの会長の虹川という。今回是非とも、私の娘の婿として婚約してもらいたくてね。将来私の後継者として、虹川グループを運営してもらいたいんだよ』

「…………」


 僕が企業グループの運営? 想像も出来ない。


『きみにしか頼めないんだ。きみ以上の資質の人間がいないんだ。頼む』


 何で、と僕は声を振り絞った。


「……何で、僕なんかを、お婿さんに? 僕、まだ小学生なんですけど」

『本当にきみしかいないんだ。きみ以上の資質の人材はいない。必要なんだ。小学生ならば、尚更将来のことが学べる。この通りだ』


 再び頼まれた。父親は断ることが出来ないと言った。ここまで頼まれたら、僕だって断れない。


「……わかり、ました……」

『そうか! わかってもらえたか! とても感謝する。私の娘の月乃が通っている美苑大学付属校があってね。征士くんにも、中等部から通って欲しいんだよ。内部進学だから受験もないし、その分私の下で経営を学んでもらいたい』


 美苑という学校は、お金持ちが通う学校で有名だ。僕の家には、そんなお金を払う余裕なんてないだろう。


「……そんな学校に通うお金なんて、ありません……」

『学費は全額うちが払う。足りなければ後からいくらでも足してもいい。早速入学の準備に入る。後で、制服など送るからな。何か必要なものがあれば、遠慮なく言ってくれ。後日、顔合わせの日を作るからな。征士くんのお父さんに伝えるからよろしく』


 その後、改めて父親と電話を代わり、しっかりお願いされてしまった。

 僕と父親は呆然とした。母親が事情を尋ねてきたので、ちょうど家に帰ってきた兄の聖士も一緒になって、全員揃ったところで説明した。

 家族中がすっかり困惑してしまった。



 ────でも僕は、ちょっぴり嬉しかった。僕が必要と言われて、嬉しかった。だって今まで、誰にもそんなことは言われたことがなかったから。


 ♦ ♦ ♦


 顔合わせの日。もらった制服に着替えて、両親とともに虹川会長のお宅へ行った。制服はまだサイズが大きい。ブレザーのネクタイの締め方もわからず、父親に教わった。

 虹川会長のお宅はとても大きくて、家族で緊張してしまった。

 僕は四月二日生まれなので、十三歳になっていた。


「初めまして、虹川月乃と申します。美苑大学付属高等部の三年生です」

「は、初めまして。瀬戸征士、です」


 緊張のあまり、吃ってしまった。しかしそんな僕を、虹川月乃さんは微笑んで眺めていた。長い黒髪が綺麗で、優しそうな人だ。

 やがて虹川会長が、虹川月乃さんと庭を散歩しておいで、と言ったので、僕達は二人で庭へ出た。

 庭へ出ると、虹川月乃さんが、とても優しい笑顔で振り返った。


「瀬戸くん、この先池があるんです。金の錦鯉が綺麗で、私は好きなんです」


 年下の僕に丁寧に話しかけてくれる。思った通り、優しい人だ。僕は思い切って言ってみた。


「征士、で結構です。あと、僕の方が年下なので、敬語もいりません」

「そう。では私のことも月乃と。よろしくね、征士くん」


 こうして僕達は『月乃さん』と『征士くん』と呼び合うようになった。



 二人でしゃがんで鯉を見た。錦鯉は、数十万円を超える値段の鯉もいると聞いたことがある。きっと高い鯉なのだろう。


「ねえ、私との婚約話、突然だったでしょう。驚かなかった?」


 月乃さんが心配そうに尋ねてきた。勿論、驚かなかったと言えば嘘になる。


「虹川の家に巻き込んで、申し訳なく思っているわ。征士くんに他に好きな人がいたり、会社経営に全く興味がなかったら、すぐにでも私に言って。私なら、征士くんに悪くならないように、何とでも言えるから」


 月乃さんは、心底申し訳なさそうに言った。

 僕は顔を横に振った。


「別に好きな女の子なんて今まで考えたこともなかったですし。将来も何となく父のような普通のサラリーマンになるんだろうな、程度にしか考えていませんでしたから。だから、今回僕を必要と言ってもらえて少し嬉しかったんです」


 心からそう思っている。好きな女の子なんていたことはない。バレンタインにチョコをもらうことも結構あるけど、別段何も思わず、お返しにキャンディを渡していた。

 それに、本当に僕を必要としてもらえて嬉しかった。

 月乃さんと仲良くなれればいいなと思った。

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