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予知姫と年下婚約者  作者: チャーコ
番外編 Side:志野谷依子
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1 年上婚約者の存在

「予知姫と年下婚約者」志野谷依子視点です。

「ねえ、私達、お似合いだと思わない?」

「え?」


 下を向いて、私のノートに文字を書き込んでいた彼は、顔を上げた。

 非常に整った顔を、戸惑わせている。


「何? 何の話?」

「だから、付き合わない? って言っているの」


 彼は、美苑大学付属高等部一年の、瀬戸征士くんだ。

 ものすごい美形で、しかも親切。今も私が授業でわからなかった、政治経済の解説をノートに書いてくれている。


「付き合う?」

「そうだよ。私達、お似合いカップルになれるよ」


 私、志野谷依子は、自分で自分が可愛いことを自覚している。顔を覆うボブカットから見える白い首筋がチャームポイントだ。

 多少彼より成績は悪いけれど、いい組み合わせだと思う。


「そう言ってもらえる気持ちは、すごく嬉しいんだけど」


 瀬戸くんは困ったように綺麗なラインの眉を寄せた。


「悪いんだけど、僕、婚約者がいるから」

「婚約者!?」


 思いがけない単語に、大声を出してしまった。


「うん、そう。婚約者。父親が持ってきた話でね、僕を婿にって望んでもらっているんだよ。だから、他の子とは付き合えない。ごめんね」

「婚約者……婿……。この歳で!?」

「正確には、中等部一年のときからだけどね。本当にごめん」


 私は呆気にとられてしまった。中学一年からの婚約者! しかも婿入り! 全く信じられない。


「……どんな子が婚約者なの? 可愛い?」

「可愛いけれど……。綺麗な人なんだ。ものすごく優しくて、思いやりがあって、年下の僕のことを気遣ってくれるんだ」


 瀬戸くんはそう言って、僅かに頬を染めた。

 何だか無性に悔しかった。


「年上なんだ、その人。どのくらい上?」

「五歳上。美苑の大学に通っている。虹川月乃さんっていうんだ」

「五歳上!? 大学生!?」


 信じられない言葉の数々に、唖然としてしまう。

 彼はご丁寧にも、私のノートに『虹川月乃』と書いた。


「虹川……」


 何となく聞き覚えのある苗字だ。

 ちょっと調べてみよう。


 ♦ ♦ ♦


「虹川……。企業グループ、虹川会長!?」


 家に帰ってから、苗字をネットで検索した。聞き覚えのある苗字だと思っていたら、何社もの会社を運営している、企業グループ会長の苗字だった。そうそうある苗字ではないし、美苑はお金持ちの人ばかりだし、この人だろう。

 きっと政略結婚とか。それか、その五歳年上のお嬢様が、瀬戸くんを見初めたんだと思った。あんなに格好良いから、そうかもしれない。

 瀬戸くんは頭もいいし、格好良いし、多分企業グループに強引に婿入りさせられるんだと、そう考えた。


 ♦ ♦ ♦


「瀬戸くん~、やっぱり付き合おうよ」

「だから、婚約者がいるって言っているだろ。志野谷はクラスメイトとして、好きだけれど……」


 瀬戸くんは困った顔をした。

 困っている。しかも私と比べていた。考えた通り、強引な婚約だと思った。そうでないと、私を好きとは言わないだろう。

 瀬戸くんが行ってしまうと、隣の席の山井さんが話しかけてきた。山井さんは中等部からの内部生の、おさげの気の弱い女の子だ。


「志野谷さん……。瀬戸くんは、やめた方がいいと思う」

「どうして?」

「だって中等部の頃から、婚約者のことが好きって噂だし……」


 私はむっとした。強引な企業グループの、五歳も年上お嬢様相手だ。噂は間違っているに決まっている。


「噂なんでしょ? 間違っているかもしれないし。婚約者がいても、将来の話でしょ。今付き合ったって構わないと、私は思う」

「志野谷さん……」


 山井さんからの噂話は、本気にしないでおこう。



 瀬戸くんを眺めて観察してみる。彼は高価そうな腕時計を大切にしているようだ。後、時々パスケースを見ている。パスケース見て、何が楽しいんだろうか。

 ふと、彼がパスケースを机に伏せて、立ち上がった。仲良しの友達の深見くんが、廊下から手招きしている。

 瀬戸くんが深見くんに誘われて廊下に行った隙に、思い切ってパスケースを見てみた。すると女の人と一緒に、瀬戸くんが写った写真が入っていた。

 この人が婚約者に違いない。そう思った私は、瀬戸くんが戻ってこない内に、そっと写真をパスケースから抜いて、ポケットにしまった。



「何だ。思ったより綺麗じゃないじゃん」


 写真の女の人を見て、感想を漏らした。長い髪は綺麗だけど、それ以外は案外普通の人だ。やっぱり、瀬戸くんの容姿目当てではないだろうか。そうでないと、この普通の人が、あの格好良い瀬戸くんと結婚出来ないだろう。

 好きだという噂も、この人では、やはり間違いだ。


 ♦ ♦ ♦


「さっきの政経の授業、わからないところがあったの。後で瀬戸くん、教えてくれない?」

「お前、この間も同じこと言ってただろ。先生に訊いてこいよ」

「やだよ~、政経の先生わかりにくいんだもん。瀬戸くん、政経得意じゃん」

「……はあ。じゃあ、昼休みな」


 優しい瀬戸くんは、私の付き合いの申し入れを断った後も、授業のわからないところを教えてくれる。

 それに付け込んで、それとなくアピールだ。


「やったー! いつもありがとう。今日は瀬戸くんへお礼にお弁当を作って来たんだよ。いつも購買か学食でしょ?」

「いや、今日はお弁当が届くはずだから……」

「お弁当が届く?」


 私は目を丸くした。デリバリーなんて、聞いたことがない。

 高等部に出前なんて、届かないはずだ。

 少し経ってから瀬戸くんは携帯を取り出した。メールが届いたようだ。何のメールだろう。彼は溜息をついた。


「志野谷。やっぱりお弁当もらうよ。折角作って来てくれたんだし」

「本当!? ありがとう! 一緒に食べよ?」

「まあ……政経教える約束しているし」


 一緒に食べるとき、なるべく近づいてみようか。

 チェックのプリーツスカートは、ミニ丈にしている。足を見せてみよう。

 一緒に寄り添ってお弁当を食べた後、政経を教わった。


 ♦ ♦ ♦


「瀬戸くん。やっぱり、ちょっとだけでも私と付き合ってみない? 婚約していても、ずっと先の話でしょ?」

「…………」


 瀬戸くんは、また困った顔で黙り込んだ。じっと私を見る。


「……志野谷は、可愛いと思うけど。でも……、婚約者、いるから」


 ごめん、と言って彼は立ち去った。隣の席で、携帯ゲームをしていた山井さんが顔を上げた。


「志野谷さん……瀬戸くんのことは……」

「また諦めろって言うわけ? 今、私のこと可愛いって言ってくれたんだよ。この間もクラスメイトとして好きって言われたし。絶対、脈ありだよ。……そう、もし、婚約者がいなくなったとしたら……」


 言いながら、我ながら良い案だと思った。そうだ、婚約者さえいなければ、きっと私と付き合ってくれるはずだ。

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