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49 新婚旅行

 新婚旅行の行先は、私は前々から、北ヨーロッパを希望していた。

 小さかった頃、父に連れて行ってもらったことがある。他のことは全部忘れたけど、とにかくエビが美味しかったことを覚えている。ノルウェーで食べたエビは、私の人生の中で一番美味しいエビだった。


「北欧ですか……。新婚旅行の定番は南の島ですよね。でも月乃さんが望むならば北欧にしましょう」


 ♦ ♦ ♦


 結婚式の翌日、準備していた荷物を持って、私達は国際空港へ行った。

 さすがの征士くんも日本語と英語以外は話せないので、少人数のツアーへ参加することにしていた。ツアーならばあますところなく名所が観られるし、名物の料理も出るだろう。

 ツアーには優しそうな老夫婦も参加していた。


「可愛いカップルさんね。春休みの旅行?」

「いえ。昨日結婚したので、新婚旅行です」

「まあ、それはおめでとう。いっぱい写真撮ってあげるわね」


 しばらくしてから飛行機に乗り、まずはフィンランドを目指す。まだ疲れが抜けきらなくて、私は眠っていた。

 フィンランド経由でデンマークへ。首都のコペンハーゲンへ着いた頃には、時差の関係でとっぷり日が暮れていた。

 最初のコペンハーゲン泊まりは重厚な高級ホテル。添乗員さんに従って、部屋のキーをもらった。

 あまりにも高級感溢れるホテルなので、私ははしゃいでしまった。飛行機でしっかり眠ったので体調も万全だ。


「すごく高級なホテルね。街並みも歴史的で素敵だったわ」

「月乃さん。疲れていませんか?」

「飛行機でたくさん眠ったから、ちっとも疲れていないわ」


 すると征士くんは、にっこり笑った。


「では今夜こそ、初夜ですね」

「え、しょ……」


 私は真っ赤になってしまった。

 その夜コペンハーゲンの高級ホテルで、私と征士くんは初めて結ばれた。


 ♦ ♦ ♦


 翌日。

 昨夜の征士くんのせいで、へとへとになりながらも、北欧神話の泉など回った。

 宮殿へ行ったときは、すごく格好良い制服の衛兵さんがいて見惚れてしまった。


「あの衛兵さん、とても格好良いわ」

「……僕とどっちが、格好良いですか?」

「馬鹿ね。同じ制服を着たら、征士くんの方がずっと格好良いわ」


 その言葉に機嫌を良くした征士くんは、衛兵さんと一緒の写真を撮ってくれた。仕事中の衛兵さんに悪くて、私はあまり近寄れなかった。


「月乃さん。こんなに離れて写真を撮って、どうするんです。他の観光客の方は、ちゃんと近くで写真を撮っていましたよ」

「だって、何となく怖かったんだもの……」

「だから月乃さんは思い切りが悪いんです。外国では特に主張しないと」

「…………」


 その後デンマーク名物料理の、スモーブローを食べた。ビールにとてもよく合う料理で少し酔ってしまった。

 自由行動中、街中を本物の馬で回っている警備隊の方を見かけた。


「征士くん~。本物の馬よ。すごいな~」

「月乃さん。また酔っていますね」


 征士くんが睨んできた。


「月乃さんは酔うと素直になってとても可愛いですけど、僕以外の前では酔わないでください。隙がありすぎます」

「可愛い~? 私が~?」

「そうですよ。可愛すぎて僕は心配です。あまりお酒を飲まないでくださいね」


 私は笑い転げた。


「私のこと可愛いなんて言うの、征士くんだけよ。やきもち焼きやさんね~」

「僕は本当に可愛くて綺麗だと思っていますから、嫉妬するんです。あまり、はらはらさせないでください」

「わかったわ~。あまり妬かせないようにするわ」


 デンマークから船に乗ってノルウェーまで行く。約十六時間の船旅だ。海は凪いでいて船室の窓から見える景色も穏やかだ。夕焼けの中、征士くんと甲板へ出た。


「何だか船首まで行ったら、某有名映画の真似が出来そうね」

「僕が映画みたいに支えましょうか?」

「止めておくわ。あの映画、悲恋じゃない。悲恋にはなりたくないわ」


 船室まで戻る。夜になると、船室には二つ寝台があるのに、征士くんが同じベッドでくっついてきた。


「ちょっと。狭いわよ」

「くっついていれば大丈夫です。僕の奥さんにくっついていてもいいでしょう?」

「……ま、まあ、結婚しているしね」


『奥さん』と呼ばれると赤面する。

 何だか、とても甘やかしている気がする。

 そのまま船旅は続き、翌日にはノルウェーの首都、オスロに着いた。

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