37 初詣で
やらかしてしまった。私は自室のソファに座って、クッションをぎゅうっと抱きしめた。
先日あしかに釣られて、征士くんと水族館に行った帰りの新幹線の中で酔ってしまって……、恥ずかしい言動の数々を……。今思い出しても、かあっと顔が熱くなる。
今回は酔い潰れてはいないので、記憶も鮮明に残っている。尚更恥ずかしい。
次に征士くんと会うとき、どんな顔をして会えというのだろう。幸い、冬休み前は高等部の学期末試験で勉強していたらしく、征士くんはサークルにも家にも来なかった。
冬休みに入ってからも寒いのでサークルはお休みになり、父が年末年始の企業パーティへ出かけているので征士くんも経営学を勉強する機会なく、会わなくて済んでいる。
そんな折に征士くんから、年始に初詣でへ一緒に行きませんか? とお誘いメールが届いた。
私は溜息をついた。
別に征士くんのことが嫌いな訳ではない。むしろ、あんなに真っ直ぐに好意を向けられて、意識するなという方が難しい。私は携帯を手に取った。
三が日は外しているけれど、テニスサークルの同期六人で、大学近くの神社へ初詣でに行く約束をしていた。悪いけど二人で会う勇気はないので、征士くんもそれに巻き込んで、お茶を濁してしまおう。
サークルメンバーへ征士くんも一緒でいいか確認し、征士くんへもメンバーと一緒に初詣でに行きませんか、とメールした。
征士くんはそれに了承し、初詣では七人で行くことになった。
♦ ♦ ♦
女子陣は、皆で成人式のときの振袖を着て行くことにしていた。
私もお手伝いさんに着付けてもらい、待ち合わせの大学の門まで車で送ってもらった。既に皆は揃っていた。
「月乃、遅ーい。一番最後だよ」
「えへへ。ごめんね」
皆、色とりどりの振袖を着ていた。玲子ちゃんは可愛い桃色の振袖だ。すらりとした黒のコート姿の征士くんが、私へ声をかけてきた。
「明けましておめでとうございます、虹川先輩。綺麗な振袖姿ですね。濃い紫色に大輪の花々の着物がすごくお似合いで、美しいと思います」
「……明けましておめでとう、瀬戸くん。褒めてくれて、ありがとう」
「ちょっとー、瀬戸くん。いくら月乃の友達だからって褒めすぎだよ。玲子の方が可愛いじゃない」
友達の言葉に征士くんは苦笑した。
「神田先輩は綺麗というより可憐な感じですね。桃色の振袖が大きな瞳に似合っています」
「あ、ありがとう。瀬戸くん」
「若竹、聞いた? ちゃんとこうやって女の子を褒めないから、モテないんだよ」
若竹くんは、むっとした顔で言った。
「そんなに甘ったるい台詞なんか、言える訳ないじゃねえか。まあ、でも瀬戸が来てくれて良かったよ。男が俺一人じゃ肩身狭いもんな」
皆でわいわい言いながら神社へ向かう。三が日を外したおかげか空いていた。
若竹くんが私達へ振り返った。
「何だっけ、何か参拝の作法とかあるんだっけか?」
「若竹先輩、まずそこで手を洗って口をすすぎます。その後拝殿の前で鈴を鳴らして、二礼二拍手一礼です。その後、お願い事をしましょう」
「高等部生に教わって、私達が恥ずかしいじゃん。若竹のせいだよ」
早速皆で水舎で手を洗い、口をすすいだ。それから拝殿で鈴を鳴らして二礼二拍手一礼。私は就職活動と卒論が上手くいくよう、お願いした。征士くんも何事か、熱心にお願いしていた。
「瀬戸くん、熱心にお願いしてたね。何をお願いしていたの?」
「秘密です。言ったら効果がなくなってしまいそうです。先輩方、おみくじを引きませんか?」
「そうだね。初詣でといったら、おみくじだね」
おみくじを順番に引く。私は大吉だった。皆でおみくじを見せ合った。
「虹川先輩は、どうでしたか?」
「私は大吉だったわ。一年間、運がいいといいわね」
「僕も大吉です。恋愛のところに、この人なら幸運ありと書いてありました」
若竹くんが、ぎゃあと叫んだ。
「どうしたの、若竹くん」
「……俺、凶だった。初詣でで凶なんて珍しいよな」
「若竹先輩。凶なら、これから運勢が上がっていくということですよ。そこの縄へ結びつければ、凶が吉へと転じます」
若竹くんは、そうかと言って、凶みくじを結びつけていた。私達は大吉だったので、持って帰ることにした。
「当たるといいですね、虹川先輩」
「そうね。取り敢えず、就活と卒論が順調にいくといいわ」
その後、私は学業成就のお守りを買った。卒業論文が通らなければ、内定をもらえたとしても卒業は出来ない。征士くんは、恋愛成就のお守りを買っていた。……実にわかりやすい。
「じゃあ、お参りも終わったし、近くの喫茶店へ行こうか。折角皆振袖だし、少し歩いたところの和風喫茶へ行こうよ」
友達の言葉に、それはいいねと歩いて行くことにした。
七人でぞろぞろと神社を後にして、和風喫茶へ歩いて行った。