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15 大好きなあしか

 水族館に着いて早々、征士くんに連れられて、あしかとの記念撮影の整理券をもらいに行った。早くに出発したのはこれが目的だったらしい。


「あしかと写真が撮れるのね」

「はい。月乃さんなら絶対喜ぶと思って」


 あしかと写真が撮れるショーまでは、少し時間がある。私達は先に館内を見回ることにした。


「熱帯魚も見たいし、ペンギンもラッコもあざらしもセイウチも見たい……」

「欲張りさんですね。順番に見ていきましょうか」


 順々に見ているうちに、ペンギンのところで餌やりタイムが始まった。お魚を美味しそうに食べている。地面をぺたぺた歩き回っているところは可愛いのに、一旦プールに入ると弾丸のように泳ぎまくっている。

 見ていて飽きなくてガラスにくっついていると、征士くんに手を引かれた。


「ほら、月乃さん。あしかのショーが始まりますよ」

「え? もうそんな時間?」


 夢中であちこち見ているうちに、結構な時間が経っていたようだ。そのまま征士くんに手を引かれて、あしかショーの場所まで歩き出す。人目のある中、手を繋がれているのはかなり恥ずかしい。


「あの……手、繋がなくても、はぐれないから」

「僕が繋ぎたいんです」

「でも、何だか恥ずかしいし……」


 征士くんは人が悪そうに、にやりとした。


「何言っているんですか。この間はおぶったりしたし、タクシーの中では僕に思いきり寄りかかってきたし。髪の毛もほっぺも触っても何も文句言わなかった人が、手くらいで恥ずかしがらないでください」

「な……何ですって?!」


 私は呆然とした。おぶわれたというのは……もしかしなくても酔っぱらった日のことだろうか。寄りかかった上に、髪や頬に触られた?! 初耳だ!


「何、それ……まさか本当の話じゃないでしょう? 冗談よね?」

「冗談なんかじゃありませんよ。あのときの月乃さんは可愛かったなあ」


 あ、今日も可愛いですよ、なんて言いながら指の間に彼の指を絡めてくる。所謂恋人繋ぎだ。


「やだ、これ離して」

「嫌です。ほら、もう着きましたよ」


 前面にプールのついた、あしかショーの舞台。征士くんは舞台がよく見える中央に、手を繋いだまま座った。仕方なく私も隣に腰を下ろす。


「ほんっとーに髪とかに触ったの? 全く覚えていないけれど」

「本当ですよ。月乃さんの髪の毛は綺麗だから、前から触ってみたかったんです。覚えていないなんて薄情すぎます」

「…………」


 覚えていないかと言われれば、黙り込むしかない。あの日は一生モノの失態だ。

 黙っているうちにショーが始まった。大好きなあしかが飼育員さんに従ってボールに乗ったり、フープを追いかけたり。たちまち夢中になってしまった。

 特に前足一本で全体重を支えて立ち上がったのは、圧巻だった。いつの間にかお互い手を離して拍手をした。


「どうぞ写真を撮ってきてください。僕はデジカメで撮りますから」


 ショーが終わって撮影タイム。私は征士くんに背中を押されて、るんるんと列に並んだ。ややして順番が回ってきて、あしかとともににっこり。こんなにあしかに近づいたのは初めてだ。


「あー、楽しかった。ねえ、デジカメ見せて」

「本当にあしかが好きなんですねえ。笑顔が満面ですよ」


 確かにデジカメに映っていた私は、でれでれの笑顔だ。征士くんは、どこかの県であしかと触れ合い出来るらしいですよ、と話してくれた。それは是非行きたい。



 気が付けば、もうお昼の時間だ。


「お弁当を作ってきたの。その辺で食べましょう」

「そこのベンチが空いていますね。眺めもいいし、ここにしましょうか」


 ベンチに座り、お弁当を広げる。今日は朝から張り切って天麩羅を揚げてきた。後はアスパラのベーコン巻きに、野菜炒め。たこさんとかにさんのウィンナも作ってきた。


「今日は天麩羅ですか。エビ天がいっぱいありますね」

「征士くんがエビ好きかと思って。水族館だから、ウィンナもたこさんとかにさんにしちゃった」

「ああ、そういう意図ですか。可愛いたことかにですね。じゃあいただきます」

「はい、どうぞ」


 二人で並んでお弁当を食べる。五月の風が気持ち良い。


「美味しいですね。特にエビ天」

「やっぱりエビが好きなのね。作ってきて良かったわ」

「エビも好きですけど、他のも美味しいですよ。やっぱり月乃さんはお料理上手ですね」


 褒められれば早起きした甲斐もあるものだ。征士くんは食べるスピードが速く、あっという間にお弁当箱は空になってしまった。


「お弁当の量、足りた?」

「充分ですよ。お腹いっぱいです。もうすぐシャチのショーが始まるみたいですから、そっちに行きましょうか」


 シャチは私もあまり見たことがない。ふとサークルの先輩の話を思い出した。


「サークルの先輩がね、シャチにキスしてもらったことがあるんですって。キスって言うよりも、顔にドカッてぶつかってきたーとか言っていたけれど」

「顔にぶつかるキスですか……激しいですね。僕なら、もっと優しくしますけど」

「何言ってるのよ。シャチのキスなんてすごいわよね。羨ましいなー」


 シャチのキスも、あしかとの触れ合いも、私にとってはすごく憧れだ。

 まあ今日は、あしかと写真が撮れただけでも満足するとしよう。


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