表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予知姫と年下婚約者  作者: チャーコ
特別編
117/125

二個のケーキとプレゼント

 毎年十二月二十五日にはケーキを二個作っている。知乃の誕生日ケーキとクリスマスケーキ。知乃が小さい頃ケーキが一個だと嫌がったので、二個作っているのである。


「だってわたしのおたんじょうびだし、クリスマスケーキとわけてほしい」


 それもそうかと納得し、毎年知乃の希望するケーキを作っていた。私が作ったフルーツミルクレープとブッシュドノエルを食べる知乃は幸せそうだ。


「わたし、おおきくなったら、おかあさまみたいなやさしいおかあさんになるの」


 嬉しいことを言ってくれたので、頭を撫でてあげた。プレゼントも二つ渡す。


「はい、絵本と新しいワンピースよ」


 ワンピースも私の手作りだ。大きなリボン付きワンピースを気に入ったようだ。


「いつかわたしも、ケーキやおようふくがつくれるかな?」

「作れるわよ。私が教えてあげるわ」


 そんなやり取りを、征士くんはにこにこ見守っていた。


 ♦ ♦ ♦


 知乃がオーブンの前で小さく悲鳴を上げた。慌てて近寄ると、中のシュークリームがふくらんでいない。


「お母様、どうしましょう。クリスマスパーティまでに間に合いません!」

「まだ大丈夫よ。今度は私が見ていてあげるから」


 今年は知乃の娘のえみちゃんの希望で、クリスマスにクロカンブッシュを作ることにしていた。しかし、不器用な知乃は失敗ばかりで、どうしても成功しない。時間に間に合わなくなりそうなので、四回目の挑戦はだいぶ私が手伝ってあげた。


「ありがとうございます、お母様……」


 自分一人で上手に作れなかったことで、知乃は落ち込んでしまっている。人には向き不向きがあるので、不器用だからと落ち込むことはないのに。


「私はお母様のように、何でも出来るお母さんになりたかったです……」


 下を向いて見つめているのは、これもまた上手に作れなかったワンピース。


「私は何でも出来るわけじゃないわよ。ちーちゃんには、ちーちゃんのいいところがあるわ」


 すると、知乃は不思議そうな顔をした。


「私のいいところ……?」

「そうよ。ちーちゃんの頑張り屋さんなところはいいところだわ。苦手なことでもちゃんとやっているじゃない」


 不得意でも頑張ってクロカンブッシュやワンピースをえみちゃんの為に作る知乃は、充分優しい素敵なお母さんだ。そう褒めると知乃は微笑んだ。


「お母様にはずっと敵いませんね」


 出来上がったクロカンブッシュを眺めている。シュークリームを積み上げて、苺とキウイで飾り付けたクリスマスツリーのようなクロカンブッシュは、きっと皆喜ぶだろう。センス良く飾ったのは知乃だ。

 他の料理とともにテーブルに並べる。楽くんの実家に行っていた夢乃も帰ってきて、家族全員揃った。思った通り、クロカンブッシュは大好評だった。


「きれいなケーキね。おかあさま、ケーキとワンピースありがとう」


 えみちゃんの手にはワンピースが握りしめられている。知乃はその言葉を聞いて少し複雑そうな、それでも嬉しそうな表情になった。


「わたし、おおきくなったら、おかあさまみたいなやさしいおかあさんになるの」


 そうえみちゃんが言ったので、思わず私と征士くんと知乃は顔を見合わせてしまった。小さかった頃の知乃と全く同じ言葉。笑みが浮かぶ。


「……ありがとう、えみちゃん」


 知乃は少しばかり涙ぐんでいる。夢が叶ったのは、クリスマスだからだろうか。──それもあるかもしれないけれど、知乃の努力が実ったのだ。


「お姉様、お誕生日おめでとうございます」


 夢乃がその様子を見ながら、楽しげに箱を取り出した。知乃が受け取って開けると、入っていたのはマーブルシフォンケーキだった。鮮やかなキャラメル色のケーキだ。ケーキの上には「知乃お姉様へ」と書かれたチョコレートプレートが乗っている。


「え……? 夢ちゃんの手作り?」

「はい。楽くんの家で作ってきました」


 失敗して楽くんのお母様に手伝ってもらったんですけどね、と恥ずかしげに夢乃は付け足す。私と知乃は吹きだしてしまった。


「似たもの姉妹ね」

「だけど嬉しいわ。ありがとう、夢ちゃん」


 シフォンケーキを前に、全員でバースデーソングを歌う。歌が終わった後、盛大な拍手で祝った。


「ハッピーバースデー! ちーちゃん!」


 それぞれが知乃に誕生日プレゼントを渡した。私も二個のプレゼントを渡す。誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント。我が家では毎年十二月二十五日は、二個のケーキとプレゼントと決まっている。

 えみちゃんは早速着替えに行ってしまった。ネイビーの少々不格好なワンピースは、それでもえみちゃんにぴったりサイズが合っていて可愛らしい。

 えみちゃんは知乃に笑いかけた。


「おかあさま、もうひとつのプレゼントありがとう」

「え?」

「もうすぐわたしにいもうとができるんでしょう? おかあさまとゆめのおばさまみたいに、なかよくできるといいな」


 いもうと……妹! えみちゃんの予知に全員が呆気にとられた。新しい予知姫が生まれるのか。

 真っ先に反応したのは、知乃のお婿さんの航平くんだった。


「え、えみちゃん、女の子が生まれるの?」

「うん、おとうさま。ゆめでみたよ」

「そうか……」


 えみちゃんの予知夢なら的中しているだろう。皆はしばらく黙り込んでいたが、知乃が口を開いた。


「女の子……どんな名前がいいかしらね」


 呟かれた言葉にえみちゃんが黒髪を揺らして言う。


「おかあさまみたいに、あたまがよくなるなまえがいいな」


 本をたくさん読んでいる知乃は、確かに知識が豊富だ。それを聞いて、航平くんがふと思いついたように、名前を述べた。


「……知尋ちづる、なんてどうかな。知識を探求する。ちょっと気が早いけどさ」


 照れたように頬をかく航平くん。知尋ちゃん、か。良い名前だ。えみちゃんも同意する。


「ちづるちゃん。いいなまえね。おかあさまににて、あたまがよくてやさしいおんなのこになるね」


 さて、いつ知尋ちゃんは生まれるだろうか。何となく遠くない未来に思える。隣に座っている征士くんと笑い合い、未来を想像した。


特別編9話目、知乃の誕生日&クリスマス話です。考えてみたら、知乃の誕生日はクリスマスでした。終業式などの突っ込みはなしでお願いします。

クロカンブッシュもミルクレープも何回か作ったことがあるのですが、今年はアップルパイを焼きました。クリスマスにケーキは付き物ですね。

ここまで御覧いただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ