表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
予知姫と年下婚約者  作者: チャーコ
閑話・別視点
115/125

月乃さん視点・征士くん視点

● 月乃さん視点


 月が美しい晩に、友達を家に招いてパーティをした。

 たくさんの友達を呼んだので、張り切って料理を作り、おめかしした。


「月も綺麗だけれど、月乃ちゃんも綺麗ね」


 玲子ちゃんの褒め言葉に、ちょっと照れてしまう。


「ありがとう。玲子ちゃんも可愛いわ」

「そうだね。玲子ちゃんも可愛いけど、月乃ちゃんも可愛いよ」


 弥生さんまで褒めてくれた。嬉しくなって私は笑う。


「ありがとうございます。弥生さんも素敵ですよ」


 珍しく、若竹くんまで感嘆したように私を眺めてきた。


「いや、今日の虹川の格好は、月と似合っていていいと思うぜ」


 今日の服装は、月に合わせて月色ワンピースだ。若竹くんまで褒めてくれるとは思いもしなかった。

 そんな風に賑やかに過ごしていると、不意に征士くんが私を引っ張って部屋の外まで連れ出した。ベランダで月を見上げる。


「今日の月乃さんは、月に映えて一段と美しいと思いますが……」

『かつ見れどうとくもあるかな月影のいたらぬ里もあらじと思へば』

(月を美しいと賞美する一方で、うとましいところもありますね。月の光が照らさない里などないのですから)


 征士くんが口にした歌に、笑ってしまった。

 私を月の美しさにたとえているのだろうか。私には、皆を魅了する月の魔力などはない。


「私はあんなに美しいお月様じゃないわ。私が照らすのは、征士くんだけよ」


 私は美しくないけれど、照らすのは愛する征士くんだけだ。

 月色ワンピースが風に舞う。そんなワンピースごと征士くんは私を抱きしめ、キスをした。


「月乃さんの輝きは、僕だけのものです」

「あら、私だってそう思っているわよ。征士くんの美しさは私だけのものよ」


 誰もいないベランダで、もう一度キスを交わした。


 ♦ ♦ ♦


● 征士くん視点


 僕は、月乃さんの長い黒髪を指に巻きつけた。

 何度見ても触っても、美しい長い黒髪。かぐや姫のようだ。

 かぐや姫から『竹取物語』のあらすじを思い出す。


「少し月乃さんは、かぐや姫に似ていましたね……」


 どんなに迫られても決して誰とも恋愛をしなかったかぐや姫。

 あらすじを思い返すと、男達に無理難題を吹っかけていたなあと笑ってしまう。


「かぐや姫……? 似ているかしら」

「そうですね。僕を試していた感じです」


 五人の公達に宝物を持ってきて、と頼んだかぐや姫は、男達に自分を諦めようとさせる気持ちだったのだろうが、試しているようにも感じられる。


「でも結局、僕の奥さんになってくれたから、月乃さんはかぐや姫ではないです」


 かぐや姫に似ているようで似ていない月乃さん。

 もう一度髪に触れる。さらさらの長い髪。


「かぐや姫は、帝のお召しにも応じなかったわね」

「そうですね、頑なでしたね。月の住人だったからでしょうか」


 熱烈な公達や帝にも靡かなかったかぐや姫は、月に帰ってしまった。


「天の羽衣を着て全てを忘れてしまったかぐや姫は、思うと少し悲しい人ですね」


 地球に未練はなかったのだろうか。月の世界の人のことは、僕にはわからない。


「月乃さんは、僕を忘れて離れていかないでくださいね。何だか月へ行ってしまいそうです」


 切実に僕を置き去りにしないで欲しい。月乃さんは笑った。


「忘れるはずないわよ。離れてもいかないわ。ずっと征士くんと一緒よ」


 僕の頭を撫でてくれる。

 優しい月乃さんが愛しくなり、長い黒髪を手に取り口付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ