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第〇七話「難題」

 不躾ながら少し自分語りにお付き合いを願いたい。

 わたしは自分が嫌いであり、

 わたしは自分を嫌っている。

 わたしは周囲から尊敬されたことが無い。わたしは十七歳という若さでありながらBクラスに就任していて、この黄色仕掛け作戦に成功すれば晴れてAクラスに昇進できる身なのだけれども、しかしそれを理由に尊敬されたことは一度として無い。自分で言うのも何だが干于千は若きエリートという目で周囲から見られていて、それゆえ他の団員からは強く嫉妬されてきた。根も葉もない噂を流されたり露骨に無視されたりするのは平生の事。わたしは組織で孤立していて、それは自らが望むべくして出来上がった地位であるが、仮にわたしが孤立を望まないとしていても結局は同じように孤立していたことだろう。組織内の誰一人もがわたしを好しと思っていない、その事実をわたしは潔く受け止めている。

 だからと言うべきなのかどうかは分からないが、わたしは交友よりも仕事に打ち込んできた。嫉妬されるのはもう仕方がない、そう自分に折り合いをつけて仕事に励んだ。嫉妬されていることを気に病んで何もしなくなってしまえばそれこそ惨めである。向上心のない者は()である。わたしは人生で()となることだけを避けてきた。惨めな()に成り下がるなど真っ平御免だから、せめてもの生きる目的として自分を高め続けることを選んだのだった。

 交友を省いたからエリートになったのか、エリートになったから交友が省かれたのかは定かでない。そこのところは鶏が先か卵が先かという話である。まあ過程がどちらだったとしても結果は変わらないので結論を出す必要はなかろう。

 どうしてわたしはこうなってしまったのか? 分からない。分からないが仮説を立てることは出来る。その仮説と言うのは――子供のころ親の愛情を受けずに育ってきたことが起因している、というものである。

 わたしは一歳の頃からコンフィデンスに育てられてきた。両親に育てられた覚えは全く無い。どころかわたしは両親の顔さえ記憶していない。物心が付く前に孤児としてコンフィデンスに引き取られた。顏さえ見たことが無いのにも関わらず、両親は既に死んだものと聞く。わたしが一歳以前だった頃の事は訊いても誰も教えてくれない。一歳以前のことが記憶としても記録としても空白なのである。

 わたしは、一歳から十七歳までの十六年間を組織で生きてきた。

 では、零歳から一歳までの一(、、、、、、、、、、)年をどこで何してい(、、、、、、、、、)たのだろう(、、、、、)

 孤児――孤独。

 わたしの出生は曖昧模糊なのである。人間としてこの世に生まれてきたのだから両親は存在するはずだ。だがわたしには居て然るべき当たり前が居ない。父親も母親も居ない。況んや兄弟姉妹も居ない。誰しもが当たり前に接している家族というものがわたしには無くて、天涯孤独の身であることを意識すると強烈な劣等感が腹の中で煮えたぎる。

 そうしてこう思ってしまうのだ――わたしがこんな風になってしまったのは、全て空白の一年のせいだ――と。

 自らの出生が不明瞭である事――それが全ての悪因となっているのだ。

 自分の起源を知っていて、自分に家族が居さえすれば、わたしはこんなにも屈折した人間には成らなかったはずなのだ。

 そう思いたくて、

 そう思っている。

 何故わたしに――わたしだけに家族が居ないのだ。皆が知っていて当たり前のことを知らないのだ、知れないのだ。普通という水準に生まれることが出来なかったのだ。

 自らが劣っていることを呪い、自らが欠けていることを憎む。

 謎に包まれた最初の一年がわたしの人生を黒く染めている――知らない・分からないという恐怖が何時も何時もわたしを襲う。

 思い出せないものの所為にして自分が嫌われていることを正当化する――けれども客観視してみるとそれは如何にも言い訳じみていて腹立たしい行為だ。わたしが嫌われているのはわたしのせいでしかなく、それを誰かや何かに責任転嫁することなど出来るはずがないのに、わたしは、わたしは――

 嗚呼。

 もっとまともな人間になりたい。

 理不尽くらい容易く受け入れられるような、そんな人間になりたい。

 怖いとも、辛いとも、言いたくない。

 自己嫌悪して、自己批判して、自己陶酔する。自分の世界に浸って、自分が被害者だと嘯く。そういった自分の行動や思考にも嫌悪して、どうしようもない悪循環に陥る。

 自分のことを考えると何時だって自分を嫌いになる。

 だからわたしは自分が嫌い、

 だからわたしは自分を嫌う。

 それでも()にだけは成り下がりたくないから、自分の気持ちをひたすら隠して二日目を始める――

「……んぅ」

 起床だ。

 意識を徐々に覚醒させる。

 目の焦点を定めて天井を視認した。

 昨日から始まった六畳一間での共同生活。起きても未だに見慣れない。ここは今まで住んでいたわたしの部屋でないので、布団の近くに時計はない。わたしは起きたらまず時刻を確認したい性格なので傍に時計がないと少々むず痒い気持ちがする。とは言え何時も午前五時に起きるよう習慣付けていた身なので大体の予想は付く。窓から差し込んでくる青白さを見てみるに現時刻は午前五時くらいで大差は無いだろう。

 体が重い。黄色仕掛け作戦という重役を任せられたからなのか中々安眠することができなかった。夢見も悪くて疲れが残っている。昨日は、気絶していた分まで入れるとむしろ何時もより多く睡眠を取っていたのだけれども、人間というものは肉体的な疲れよりも精神的な疲れの方が負担となるものだ。快眠生活を送るためには速くこの同棲生活に慣れなければ、とわたしは自分に言い聞かせた。

 しかしそれにしても体が重すぎる。何かが乗っかっているような――

 わたしは顔を横向けた。

「……むにゃん」

「…………」

 近い近い近い近い。

 顔が近いです左右田さん。

 ていうか乗ってます、お腹に腕が乗ってて重たいです。

 おやおかしいな。別々の布団で眠っていたはずなのだが何時の間にか同衾しているではないか。夢遊病者が如く眠ったままでわたしの布団に潜り込んできたのだろうか。もしもそうなら左右田さん、あなた寝癖の悪さが極まっているぞよ。

「……、……」

 鼻息が当たっている。

 生暖かい。

 他人と近距離で寝たのが初めての経験だからなのか、無性に顔が火照ってくる……。

「……、……」

 左右田さんから起きそうな気配は感じられない。

 まるで赤ん坊のようにすやすやと寝入っている。

 あの破天荒な左右田さんでも眠っている時は随分と人間らしい風情だ。安らかな寝顔を見てみると、やはりこの人もわたし達と変わらない人間なのだと実感させられる。こんなことを言うのもちゃんちゃらおかしいのだが、左右田さんの意外な一面を見られたようで少々得した気分になった。

 それにしても近い。わたしと左右田さんの布団は隣同士に位置しているので、どちらかがどちらかの領分に侵入してしまうだろうことは寝る前から覚悟していたことなのだけれども、よもやわたし側の布団のみ使用されることになるとまでは予想していなかった。これでは左右田さん側の布団が自らの存在意義に疑問を持ちかねない。

 余談だが、寝癖の悪さというものは前日にどれだけ体を動かしたかによるものだそうだ。寝ている間に体を動かすこの寝癖という行為は、体を解すことによって疲れを無意識的に取っているらしい。子供の寝癖が悪い事・年を取る毎に寝癖が落ち着く事はこれに起因しているのだとか。

 そう考えてみると左右田さんの寝癖が悪いのは昨日の内に体をだいぶん動かしたからだと推測できる。西雲西風や無人の町(ゴーストタウン)で始末したという男や何やかんやを相手にして体に疲れが溜まった。だからわたしの布団に潜り込んでくるほどの酷い寝癖を……。

 ん?

 待てよ。そうなると黄色仕掛け作戦の目的・左右田さんを疲れさせる作戦というのは地味ながら効果が表れているということか? 西雲西風戦は直で見たわけでないから推し量れなかっただけで、左右田さん本人は実のところ疲れている……?

 希望が見えてきたか――左右田さんにも疲れが通用しているらしい。

 いやどうだろう。確かに疲れていることは分かったけれども、所詮それは眠ってしまえば回復する程度の疲れでないか。これではまだ作戦の成功が見えてこない。

 それに寝癖が悪いからわたしの布団に潜ってきたのだとばかり決め付けているが、これも仮定の域を出ていない。無意識的ではなく意識的にわたしの布団へ潜り込んできた――言ってしまえば左右田さんが夜這いに来たという可能性もある。というかその可能性の方が高いような……。

 むう。

 いやいい。これ以上は考えても仕方あるまい。寝起きに難しいことを考えたって堂々巡りするのが落ちだ。

 起きよう。

 わたしは、左右田さんの腕を除けて布団から出た。自分の布団を片付けたいところだが左右田さんが寝転んでいるので仕舞えない。代わりに左右田さんが元々寝ていた布団を仕舞うこととした。こんなことをする義理はないが、起きたら布団を仕舞わないと気が済まないわたしなのである。

 それから朝の習慣を済ませる。左右田さんを起こさないよう静かな動作で淡々と行う。こんな気遣いも必要ないのだが、気持ち良く寝ているときに騒音で起こされるのは人類における最大の不幸だとわたしは考えているので、そこまで酷いことをするのは自然と気が引けるのだ。自然に行動が静かになるのだ。

 わたしは箪笥を開いて、ぶかぶかのYシャツ(寝巻きが無いので昨日の晩に左右田さんから貸してもらった。これがあるなら気絶してた時にも着せてろよと言いたかったが物を借りる態度でもなかろうので黙って着替えた)を脱ぐ。そうして昨日の帰りに購入しておいた黒いスーツ(普段わたしが着ているのと全く同じもの)に着替える。

 朝の習慣をあらかた終えたところで冷蔵庫を開く。昨日の夕飯・絶品炒飯を取り出してレンジでチン。大体それくらいの時分で、

「ふああぁぁ……。あ。ん……? あっれ……? 干于たん……? あ、おはよ……。早いね……。……んぅ。……おはようのちゅーしよ……」

 と妙に色っぽく左右田さんは起床した。時刻は六時前である。残念ながら言動は何時も通り(というほど共に生活してないが)だったが、丁度いい頃に起きたので左右田さんの分もレンチンしておいた。食卓に並べて、朝食を一緒に食べる。

 昨日と比べても炒飯の味は落ちていない。この世には無数の炒飯が蔓延っているが、群を抜いた恐ろしき美味しさは日を置いても健在だった。本当に美味しくて匙が進む進む。

 あっという間に平らげた。

 食後、わたし達はどこへ出かけるでもなく適当に話をする。六畳一間における日常。今まで非日常に身を置いていたわたしに取ってそれは、凄く新鮮味のある体験だった。

 スパイということを忘れそうになるほど、

 左右田さんと居るのが落ち着けてしまう。

 こんなことを思う自分自身に驚いているし、こんなことを思ってはならないと分かっているのだが――左右田さんには不思議な魅力がある。ただ一日を過ごしただけだというのに何故こんなにも心を開けるのだろう。言葉を交わす度にわたしの気持ちが安心してくるのだ。

 どうしてそう感じるのか自分でも分からない。分からないが――だけどこの気持ちは()だ。わたしと左右田さんは決して相容れない。コンフィデンスとデフォ戦士という二つの対立した組織に属している。わたしはスパイ。仲良くなるのは表面上のみ。心まで左右田さんに絆されては――裏切り者(、、、、)なのだ。

 裏切り者には死あるのみ――それがコンフィデンスの掟。

 その掟を忘れた訳では無いが――

「え!? そうなの!?」

 チョコ菓子を食べながら左右田さんは言う。

「あー。だから干于たんちゅーしたがらないんだ。なーるほーどにゃー」

「別にそういう訳じゃありませんよ。そもそもの話、女同士で接吻するなんて普通に考えておかしいことじゃないですか」

「ひゃははははん! 普通とかおかしいとかは重要じゃーねーだろ。大事なのは自分の気持ち! お互いが好きって思い合ってるなら同性愛だって認められるべきだぜ? 薔薇も百合も華があっていいじゃねえか! じっさい同性結婚を認めてる国なんて今じゃごまんとあるしよんっ!」

「その中に日本は含まれてないでしょう。それにお互いはって言ってますけど、別にわたしはそんなんじゃありません」

「うっそでぇー! ワタシにゃ分かってんだぜ? ほーら! 自分の気持ちに訊いてみなよ、胸に手を当てみなさいさぁ!」

「嫌です」

「んじゃワタシの触る?」

「嫌です!」

「もみもみする?」

「絶対に嫌です! そういう方に話を持っていかないでください!」

「わーったわーった! ひゃははんはん! 純情可憐ちゃんなんだもんな、干于たんは! ワタシぁそーいう干于たんが大好きなんだぜ! だからちゅーしよーよー! ファーストキスをワタシに捧げておくれよー!」

「こっち来ないでください! しかも口! 珈琲臭い! こんな初めて絶対に嫌ですー!」

「いやーん! もっと臭いって言ってー!」

「変態っ! 変態っ!」

 ……些か羽目を外し過ぎな感じではある。わたしがここまで大声を上げるのは、もはや異常事態と言ってもよい。コンフィデンスでは冷酷として通っているというのに……こんな姿を他の誰かに見られでもしたら恥ずかしさで卒倒してしまいそうだ。

 そんな馬鹿話を遮るようにふと――六畳一間に電子音が鳴り渡る。

 わたしの携帯電話にメールが着信したのだ。

「あ。済みません。ちょっと失礼します」

「あーん。何だよー。せっかくいいとこだったってのに畜生。ったく。何だ何だ? 無粋すぎるぜ携帯電話。こんなとこで止めに入るなんて、もしかして誰かが監視してんのか? ワタシが危ない行為に出ようとしたのを止めたってことなのか? そーなのか?」

 危ない行為という剣呑なフレーズを聞き流しつつわたしはメールを確認する。

 フロム喇叭叱咤。

 わたしはその名を見て、ああ、と思った。

 自分がいま仕事をしている最中だということを強く思い知らされた。

 左右田さんとは敵同士なのだと再認識させられた。

 ――見失ってはならない、自分の役目を。

 瞬き強く。

 切り替え。

 わたしは複雑な心持ちのままでメールの内容をチェックする。

 すると、そこに書かれていたのは、

「…………!」

 目を疑うべき内容だった。

 寝耳に水だ。

 今のわたしの情況を精確に伝えると、あたかも叱られたような心持ちである。作戦上必要不可欠とは言え左右田さんと仲良くなることに感け過ぎてやいないか。左右田さんと仲良くなるのは、弱音を聞くためだ。仲良くなるのは手段に過ぎないのだぞ、左右田さんと仲良くなることが作戦の目的ではないのだぞと、そう言い咎められたような心持ちである。

 自分の置かれた状況を今いちど見直させるため――むろん左右田さんの言ったようにこの部屋を監視でもしていない限りそういった意図を込めてメールすることなど出来ないのであるが、受け取ったわたしとしてはそう感じてしまうほどに衝撃的な通知が与えられた。

 伊行会長の判断がこちら側に傾いたという事。

 メールの内容を要約して言えば――あの馬〆兄弟(まじめきょうだい)が派遣されるというのだ、しかも今日、しかも正午。

 これの差すところは――コンフィデンスとデフォ戦士の因縁に決着が付くということだ。

 彼らより強い者はコンフィデンスに残っていないのだから、ここで何らの成果も出なければ絶対に先は無い。

 しかし――まさか二日目に彼らが来るとは……。

 わたしは考える。もしや伊行会長は焦っているのだろうか。西雲西風でさえ一分も持たなかったという圧倒的な戦力差から切羽詰って、まだ二日目ながらダブルトップを派遣しなければならないものと踏んだのだろうか。間に雑魚を挟むくらいなら西雲西風から馬〆兄弟へと連戦させた方が良いとお考えか。左右田さんの最強さが度を越して規格外だった故に、混乱しているのか。

 いや。伊行会長が判断を間違うものか。何か思惑があっての決断に違いない。だが思惑とは何だ? 西雲西風は一対一だったから惨敗したのであって、二体一ならばそうならないと考えているのか?

 分からないが、兎に角こうなってしまえば覚悟を決めることしかわたしには出来ない。

 左右田さん――馬〆兄弟。

 二日目にして六畳一間の同棲生活が終わるのか――コンフィデンスにとって本当の最強である馬〆兄弟(ダブルトップ)が失われるのか。

 望むべからざる――どちらにしても。

 ……どちらにしても?

 おや、おや。

 おい、おい。

 わたしは……おかしくなってしまったのか? 同棲生活が終わるのはむしろ望むべきことではないか。左右田さんが敵だということを本当に失念したのか? 物事の分別が付いていないぞ。馬鹿か。本分を見失うな。わたしがここに居る理由は何だ? 六畳一間の生活が終われば晴れて昇進できるのだぞ? 左右田さんが殺されたらわたしは大いに喜ぶべき身だろう? それなのに何がどちらにしてもなのだ。毒されるな。毒されたら裏切り者だぞ。

 何時まで寝惚けているつもりだ。

 好い加減に目を覚ませ。

 豚が。

「…………」

 わたしは携帯電話を閉じて、胸ポケットに仕舞った。

 もっと自分の心を厳しく律さなければならない。左右田さんと仲良くなり過ぎては駄目なのだ。そのことを肝に銘じる必要がある。

 尤も今日の正午に馬〆兄弟が勝ってくれればその必要も無くなるが――どうだろうか。

 正直なところ不安だ。

 わたしは言う。

「失礼しました。用件は済みました」

「ふん? 返信しなくていいのん?」

「はい。そういう内容のメールではなかったので」

「はあん」

 左右田さんは、チョコ菓子を咥えながら興味無さげに相槌を打った。

 それから言う。

「そんじゃ何かゲームでもして遊ぼーぜ! お菓子でも食いながら和気藹々しよーぜ!」

 現在時刻・八時――残り四時間でお互いの命運が決するというのに全く予見しないで無邪気なことだ。予見は出来なくとも立場が立場なのだから危機感くらい持っていても良さそうなのに――

 きっと――この人のこういう所がわたしを惑わすのだろう。

 無邪気さを以てして人を蠱惑する――まるで悪魔のように。

 もう決して心を奪われないように気を付けないとな……。

 クールで居るのが何時ものわたし。

 これ以降は何があっても大声を出さないと誓おう。

 わたしは、平常の自分を見失わぬようきっぱりと落ち着き払った調子で言う。

「ゲームって、そんな呑気していい立場じゃないでしょう。だいたい道具が無いじゃないですか」

 この六畳一間にはテレビこそあるもののゲーム機といった類の物は一つも見当たらない。据え置き機も携帯機もどこにもない。ボードゲーム等も置いてない。

 それともどこかの部屋にトランプでもあるのか?

 そこまで思ったところで、左右田さんは言う。

「ひゃは! ちょこっとくら構わねーじゃねーか、ここに道具があんだからよぅ!」

「……? どんなゲームですか?」

 咥えているチョコ菓子をわたしの顔に向けて、左右田さんは言った。

「ポッキーゲーム」

「だから嫌ですってば!」

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