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第〇五話「携帯」

「ブラックにする? それともレインボー? 贅沢微糖? 超もあるよ。ワタシのおすすめはカフェオレだけど」

「いえ。お構いなく」

 珈琲好き過ぎるでしょ、左右田さん。

 しかも全部BOSSじゃないですか。

 時は午後七時。

 所は六畳一間。

 夕飯を食べ終えたわたしと左右田さんは、仕事の話をする前に食後の一杯を楽しむこととしたのだった。

 わたしと左右田さんが夕飯を食べたのは、てんやわんやに一段落ついた頃である。てんやわんやというのは干于千素っ裸事件のことである。左右田さんと出鱈目な会話をした後わたしは洗濯された下着とスーツを着て(そのさい左右田さんが中々部屋から出て行ってくれなかったことは明記しておかなければならない)、それから親睦を深める意味も込めて左右田さんが夕飯を作る運びとなったのだ。

 腹へってるだろ、うまい手料理を振る舞ってやるよ――と。

 考えてみれば今日のわたしはごたごたがあったせいで昼食を抜いていた。朝ご飯しか食べていない。それまでは別に空腹を感じていなかったのだけれども、食べていないことに気付くと途端に腹はぐうぐうと鳴る。

 そうして卓袱台の前でしばらく正座していると、出てきたのは炒飯だった。

 胃袋が掴まれそうになるほど美味しかった。

 もしも黄色仕掛け作戦での立場が逆だったとしたら、つまりわたしが陥落させられる側だったとしたら、この炒飯を食べたというだけで呆気無く骨抜きにされていただろうくらいの美味しさだった。炒飯食べたさに組織を売り払うかもしれなかっただろう。美味し過ぎだ。法外な美味。左右田さんの炒飯には、堕落や誘惑が備わっていた。悪魔的な炒飯である。まったく闇の炒飯と言うしかない。恐ろしや。わたしは、その余りの美味しさに屈伏して肥満になることをも恐れずがつがつと食べ散らかしたかったのだけれども、流石に仕事の話が後に控えているので腹八分というところで匙を止め(ろと左右田さんに諭され)た。残りは明日に食べるためラップで蓋して冷蔵庫に仕舞われる。

 そしてその冷蔵庫の前に立って発言されたのが、冒頭の質問だ。

 わたしの返事に左右田さんは、「んじゃ偶にはこれ飲むか」と独り言のように言う。

 そうして左右田さんが冷蔵庫から持ってきたのは、UCCブラック無糖だった。

 BOSSじゃないのかよ。

 しかも二本である。

「ん」

 そのうち一本をわたしの前に置いた左右田さん。

 え? わたしもこれ飲むんですか?

 向かい側に座って、左右田さんは言う。

「干于たんブラック飲める? スーツと髪の毛が黒いから珈琲も黒がお好みだと予想するけれど」

 またも謎理論だった。

 その理屈なら日本のサラリーマンは殆どがブラック無糖を好きということになるぞ――いや実際に日本のサラリーマンはブラック無糖を飲んでいるイメージがあるけれど。

 ……ブラック無糖か。

 取りあえず差し出された缶珈琲を両手で包んで、手をひんやりとさせるわたし(意味は無い)。

 左右田さんは缶のプルタブを開けて、UCCブラック無糖を一気飲みした。

「おぅ、おぅ、こぅ……くぉぅ……ごぅっ……んっ……! っち、ぶぅあああぁー! まずい! もう一杯!」

「珈琲は体に良くないんですよ」

 青汁とは違うのだ。

 わたしも缶のプルタブを開ける。

 それからゆっくりと口元で傾けて、黒い液体を一舐めした。

 ぺろ。

「……」

 わたしは口元から珈琲を離して、さり気なく遠い場所に缶を置いた。

 うむ。

 先ほども言ったように珈琲は体に良くないのである。飲み過ぎるといけないのである。それにわたしはお茶の方が好きなのである。

 まあ左右田さんも「もう一杯」と言っているし、もしかしたらわたしの缶珈琲を要求してくるかもしれないのでその時のために残してあげるのが優しさだ。

 そんなことより。

「それでは左右田さん」

「おねーたまでいいよ」

「いえ左右田さん。それでは仕事の話に入りましょう」

 オフからオン。

 気分を切り替え。

 いよいよ本題に入る時分である。何時までも呆けた気分で居るわけにはいかない。こちらは仕事の真っ最中なのだ。

 新人としても、

 間諜としても。

 だから食後の一杯だとしても缶珈琲を悠長に楽しんでいる暇などないし、増してや炒飯に現を抜かしている暇は尚更ない。働くべき時に働いておかなければ人間は怠ける一方である。モチベーションの高い初日にこそ出来るだけ働いておくべきなので、今この時からは気持ちを切り替えてしっかりと仕事に臨むのだ。

 わたしは言う。

「左右田さん」気を改めるため居住まいを正す。「なにぶん新人の身ですので、まずはデフォ戦士がどんなことをする組織なのかのご説明を願います」

「ん? 何をやるのかってーのはマニュアルに書いてなかったっけ?」

「はい。確かにマニュアルにも一通り説明はありました」

 話がややこしくなるので予め注釈しておくと――まず左右田さんの言っているマニュアルとは、デフォ戦士を入団するに当たって渡される書類のことを差している。この書類は本来デフォ戦士に入団する者にしか手に入らない極秘のものなのだが、そこはそれ、三ヶ月前から水面下で進行されていた黄色仕掛け作戦の一環として既に入手済みの我が組織・コンフィデンスだった。勿論わたしは、その入手された書類を無人の町(ゴーストタウン)へ向かう最中のヘリコプター内で洗いざらいに読み切っている。だから左右田さんの差しているマニュアルをわたしはもう読んでいて、その上で質問を投げかけたという状態なのだ。

 何故そんなふうに二度手間を掛けるのかと言うと、マニュアルだけでは心許無いからである。マニュアルに書かれていることがどのくらい実践で通用するのかというと、これがけっこう当てにならないことが多い。組織の規模が大きくなるに連れて顕著化するこの弊害は、目まぐるしく変化する現状を纏めきれていなかったり仮想と実際が食い違っていたりすると言ったところから生じてくるものである。データに乏しい方法論や時代遅れの情報を頭に詰め込むだけではとても実践に臨めない。それゆえ実践で動いている人間から話を聞くのが最も手っ取り早く、尚且つ信用できる情報なのだ。

 わたしは言う。

「ただやはりマニュアルだけでは情報不足かと思いまして」

「はーん。なるほど。だから話を聞きてーってわけか」

「はい」

「んんー」

 左右田さんは、後ろに手を回して天井を仰いだ。

 それから言う。

「んじゃまあ軽く……。デフォ戦士ってのは、まあ鉄拳制裁を許された警察ってところだな」

「はい」

「以上」

「はい!?」

 わたしは声を荒らげた。

 てっきり説明と言うことだから例によって話が長くなるものと気構えしていたのだけれど。

 物の十秒でその気構えが無用の長物となってしまわれた。

 わたしは机に上半身を乗り出して抗議する。

「ちょっと待ってくださいよ。そんな馬鹿な。これだけで終わるわけ無いですよね?」

「いいや。これでジ・エンドだぜ」と言って親指を逆さに向ける左右田さん。

「いや何ちょっと格好付けて言ってるんですか。ぜんぜん決まってないですよ。ブーイングしないでくださいよ」

 左右田さんは、これ見よがしに大きく欠伸してから口をもぐもぐとさせた。

 明らかにやる気が感じられない……。まさかマニュアルに書かれたことが全てという訳で、本当に話すことが何もないのだろうか。それならそれでいいのだけれど、しかし見た所そういう風ではなさそうだ。単に物臭な様子である。

 新人の前でぐうたらな態度を惜しまないというのは一体どういう了見なのだろう。無論わたしは実のところスパイだし、名誉や体裁を気にしないのは好意的に捉えれば大物然とした立ち振る舞いだとも言えなくはないけれど、それにしたところで限度と言うものがある。教育する気概が微塵にも感じられないというのは、わたしが働く気でいることも相俟って温度差を強く感じてしまい不満の念を覚えて止まない。こんなことでは何ともならない。最強と言うくらいだから精力的に仕事へ励む人物像を描いていたのに、実像がこれではちょっと尊敬せざる。

 仕方がないのでこちらから話を掘り下げることにした。

 正座の状態に戻ってわたしは言う。

「じゃあお聞きしますけれど、鉄拳制裁を許された警察というのはどういう事を差すんですか?」

「言葉の通り。そのまんまみーやだよ」

「……じゃあもっと具体的にお聞きしますが」

 先に言っておくと。

 勿論これから問うこともマニュアルには明記されていた――緊急の場合は容認する、と。

 特にこの事については事細かな注意がいくつも記されていた。それはこの国が日本だからということが大きく関わってくるからだろう。実際アメリカなどでは必要な状況になるとあっさりとやってしまうのだが、日本ではそう思い切ったことをしない傾向にある。それの重要性はわたしもよく分かっている。

 だからことさら確認する必要なんて無いのかもしれないけれど、しかしそれでも事が大事だから何らかの勘違いが生じぬよう入念に訊いておきたい。

 左右田さんが遅刻した原因・ビルディングが振動した原因・わたしが裸にならなければならなかった原因。

 それを――

「――鉄拳制裁というのは、つまり人殺しの容認(、、、、、、)を差すわけなんですよね?」

 血。

 血塗れの姿でわたしの前に現れた左右田さんには何としてでも答えて貰わなければならない質問である。

 何故ならこの質問に対する答えは、そのまま左右田さんの残虐性をも表すのだから。

 左右田さんは答える。

まあな(、、、)

 重さのない、むしろ軽ささえ感じさせるくらいの浮世離れした語調だった。

 意識してみれば、それは却って不気味さを呈している。

 これは異常なのだ。

 忘れてはならないのだ。

 人格のフランクさに惑わされて左右田さんを単なる気のいいお姉さんだと錯覚してしまいそうになるが――決して忘れてはならない。左右田さんは、我が組織・コンフィデンスにとっての天敵であり、壊滅にまで追い込もうとしている忌むべき天敵なのである。どんな笑顔を飾り立てていたとしても人殺しであることに変わりはないのだ。わたし達の仲間だって殺されたかもしれない。例えばそれが世界への貢献に繋がっていたとしても人殺しは人殺しである。

 彼女が最強であるという事。

 彼女が悪魔であるという事。

 彼女が彼女であるという事。

 その凶悪性を一時だって忘れてはならないのだ。

 彼女――左右田さんは言う。

「と言っても無暗に殺していいってわけじゃあねーぜ。殺すのは緊急手段で最終手段。それしか方法がねーって時にだけ許される秘中の秘だ。出来ることなら生きて捕えること。避けて避けてそれで駄目なら仕方なく使う選択肢。ワタシらの仕事は処刑人じゃなくって正義の味方なんだからな」

 正義の味方。

 臆面もなくそう自称できる姿は――やはり表側の人間だ。

 わたしとは違うところで生きている。

 言葉が続く。

「逆接の接続詞を連続で使うのは好きじゃねーが――だけどワタシに回ってくる仕事ってのは大抵が悪人退治ならぬ極悪人退治になっちまうから、その最終手段を取るってことも少なくはねーんだよなぁ。残念なことに、さ。――マニュアルを読み込んでるっつーなら言う必要ねーかもしれねーけれど、助手の干于たんは殺そうなんて思っちゃ駄目だぜ。そこんところの措置はワタシがやる」

「……分かってますよ。当たり前です。人殺しなん(、、、、、)て悍まし過(、、、、、)ぎてとても出来ません(、、、、、、、、、、)から(、、)

 嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。

 醜悪な嘘。

 どの口が言うのか。

 悍まし過ぎるのはわたしの方だ。

 わたしは裏側の人間なのだから。

 まったく。

 己の言葉に胸糞が悪くなって、

 卓袱台の下で手の甲を抓った。

 痛い。

 左右田さんは、後ろへ回していた腕を前へ戻して言う。

「成る程ね」

 何が成る程ねなのかは感得できなかったが、そこはかとなく意味深な口振りだった。

 体を支えていたから疲れたのだろう、上や横へと腕を伸ばしてストレッチしながら左右田さんは言う。

「習うより慣れろ」

「?」

「まー深く考えるのは止そうぜ。人生なんて考えたってどうにもならねーことばっかりだ。そーゆー時は考えねーに限る。案ずるより産むが易し。考えるな感じろ。失敗は成功の母。明日やろうは馬鹿野郎。何でもいーが、とにかく実際にやってみるのがいっちゃん手っ取り早いってこった」

「どういうことですか?」

「だからよ」飲み掛けだったわたしの缶珈琲を奪い取って左右田さんは言う。「これから現場に向かお(、、、、、、、、、、)うぜ(、、)ってことだよ。実は先達てデフォ戦士本部から出動の命令があってな」

「は……? えっ!?」

 わたしは再び机に乗り出した。

 左右田さんは言う。

「何だ? どうしたんだ?」

「どうしたんだって……。いや、どうしたもこうしたも無いですよ」

「あ。もしかして缶珈琲まだ飲むのか?」

「いやそれは要らないんですけれど……」

 わたしは内心でたいへん焦る。

 意識を集中させて作戦に取り込んでいたつもりだったのに、気付かなかった。

 わたしは、さり気なさを装ってスーツの上から胸の辺りを確かめる。

 無い。無い。無い。

 伊行会長から渡された携帯電話が――無い。

「あ。あの」

「ふお? どしたの? 胸なんて弄っちゃって、心臓でも痛いのん? 今まさに心筋梗塞中(シンキングタイム)?」

「い、いえ」――さり気なさを装えてなかった。ていうかシンキングタイムって何だ――「あの。ところでわたしの携帯電話は……? あの。な、無いようなんですけれど」

「携帯……、あー! そういやあ忘れてた! 洗濯するとき出してたわ! ごめっ、言うの忘れてた!」

「いえ。それはいいんですが、その……」

「ああ。携帯がどこかって? そりゃあ卓袱台の上にあるぜ」

「え?」

 言われてみて卓袱台の上に視線を向けてみると、ものの一秒で携帯電話の在り処を発見した。

 わたしが缶珈琲を置いていた場所の近くだった。

 えー!? なんでこれ気付かなかったのわたしー!?

 今ようやく携帯電話に意識が上ったからとは言え、流石にこれは見て気付こうよ!

 わたしは携帯電話を急いで手に取って、それを開いて、パスワードを入力してロックを解除して、それからメールの有無を確認した。

 着信あり――一件。フロム喇叭叱咤(らっぱしった)

 ……どうして左右田さんが「これから現場に向かおうぜ」と言ったことで携帯電話が無いことに気付いたのかと言うと――その二つがわたしにとって繋がっている事柄だからである。

 黄色仕掛け作戦の主意は裏切りであり、わたしが為すべき仕事というのは左右田さんと仲良し小好しな関係になることなのだが――それだけが黄色仕掛け作戦の動きではない。黄色仕掛け作戦によって実践的場面に立つのは何もわたし一人というわけでなくて、もう一つ要となる役割の部隊が参加しているのだ。

 それは、コンフィデンスのAクラス戦闘部隊。

 彼らを派遣するのは、左右田さんの体力を削ぐためだ。「コンフィデンスにおけるAクラスの人間を動員しても彼女には傷一つ付けられぬだろう」と言った伊行会長ではあったのだが、しかし傷一つ付けられぬからと言って体力を削げないという訳にはならないと考えたらしい。この体力を削ぐ行為が積み重なれば、いずれは「弱みを漏らすだろう」と言うのだ。

 痛みが無くても疲れは堪る、左右田さんだって人間なのだから。

 どこで聞いたのかは忘れてしまったけれど、人間にとって最も精神的に来るのは単純な疲れなのだという。疲れだとか面倒だとかやる気が削がれるだとか、そういう風に心を擦り切らせることが何よりの弱らせ方なのだとか。

 そしてそこまで弱ってしまったなら、仲間(スパイ)に心を開いてしまう――と。

 だから今回の黄色仕掛け作戦で派遣される戦闘部隊は、かなりの大人数に上る見込みとなっているらしい。立て続けに戦闘をさせて左右田さんをじわじわと弱らせていく寸法。それを可能とするためにどれだけの人数が生贄(、、)とされるのかは予想が付かないが……何にしても左右田さん側からしてみれば相当えぐい作戦だとは思う。何というか、好きな男を精神的に弱らせて寄る辺が無くなったところに漬け込み彼氏を物にするという悪女みたいなやり方だ。むろん作戦なのだからそれをずるい等と言うつもりはないが。

 まあわたしにとってもハードスケジュールとなることだろうから、左右田さんにも我慢していただきたい。

 そういうわけでコンフィデンスから戦闘部隊が派遣される訳となっているのだが――その際わたしの携帯電話には、誰が派遣されて何時に事件を起こすのかというのがメールで通知されるようになっている。繋がっている事柄というのはこういう意味である。伊行会長の言った「作戦中の動きはこれで指示する」という言葉の大部分は、この派遣の通知を差していたのである。デフォ戦士が事件をキャッチして左右田さんが出動される前に、わたしはメールで予め事件の内容を知ることとなる……はずだったのだ。

 だが今回はそうならなかった。何故ならわたしは気絶していたからだ。メールが着信していたことを今まで知れなかったのである。

 いや言い訳はもういい。肝心なのは着信した一件のメールである。このメールに事件の内容が記されているのだ。

 わたしは言う。

「えっと。メールちょっと見てもいいですか?」

「あーん? 何だ何だ。干于たんってば現代っ子だなー。別にいいけれどさー、話の腰を折ってメール見るとかまじ勘弁してくれよ。ちゅーしちゃうぞ?」

 後半の言葉は無視して、わたしはメールを確認した。

 その無視に対抗する無視なのかは知らないが、携帯電話を見ているわたしを無視するように左右田さんは喋る。

「今から現場に向かうわけだけども、今回の相手ってのがまたどうしようもねー極悪人らしくてよ。上の方からは『何としてでも仕留めろ』って言われててさ。そんくらい極悪な奴なのか――そんくらい重要な奴(、、、、)なのか。それとももしかして(すげ)(つえ)ー奴なのかな」

 左右田さんの言葉を耳に入れながら、メールの文章を読む。

 わたしは――恐怖せずに居られなかった。

 メールに記されていた内容――派遣された人物の名を見て、わたしは思った。

 どうやらコンフィデンスは人員を無駄死にさせる気が一切ないらしい、本気で左右田さんを殺しに来ているようだ。

 左右田さんを弱らせる作戦? 違う――この人を派遣するということは、左右田さんを倒すことさえ視野に入れているということだ。

 凄ー強ーどころでは全くない。

 西雲西風(さいうんならい)というその人物は、コンフィデンスの戦闘部隊で実質的なトップを握っている――言わばコンフィデンスにおいての最強なのだ。

 最強対最強。

 初っ端から西雲西風が来るという事態に何とか動揺を隠すが……実際に二人が戦う場面に立てば、一体どうなることやら。

「さあてそろそろ向かうとすっか。ひゃっはー! 干于たんとの初出動だぜー! どんな敵が来よーとも軽く捻り潰してやっからよ、干于たんはワタシの勇姿をとくとご覧しとくんだね。ひゃははははん。もしワタシが勝ったらその時にこそちゅーしてくれよ? とか言って、全然もしじゃあねーか。こんなんじゃ賭けは不成立だもんな」

 これから起こる激闘を全く予見せず左右田さんは飄々と言った。

 これが相手が誰になるのか分からないときに言った台詞なら頼もしく思えたかもしれないけれども、対戦相手が西雲西風と知った今ではむしろ不安を煽る材料にしかならない。

 ……いやどうしてわたしが左右田さんを慮っている風に考えているのだろう。仲良し小好しな関係は表面上のみでいいのだ。何も心配や同情をしてやる必要は無い。

「どんなに強え奴が相手でもワタシが勝利することは見えている。何故かと言うなら――」

 缶珈琲を再び一気飲みして左右田さんは言った。

「ワタシが最強だからさ」

 そしてわたし達は、初めての実戦へと赴く。

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