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かざなぎの記  作者: 藤原ゆかり
遭難日記
4/29

お気に入りに登録して下さった方、ありがとうございます。

自分の書いた文章が誰かに読んでもらえるということが、とても嬉しいです。

まだまだ序盤ですが、これからもよろしくお願いします。

 まずは、ここがどこなのか知らないと。


 辺りは濡れていないし、カッパに水滴が残っていたことから考えて、ここに来てからそう長い時間は経っていないはずだ。

 気合を入れて立ち上がり、周囲を眺める。


 さっきは動転していて気がつかなかったが、背後に背丈ほどの高さの崖があった。

 露頭の中ほどから突き出た木の根に、見慣れた黒いパンプスが引っかかっている。

 ということは。

「ここから落ちたってこと?」

 崖の下に一抱えほどの岩が半分地面に埋まっているのを見つけて、頭を打ちつけなかったことに心底安堵した。


 ひとまず両足に靴を取り戻し、探索をはじめる。

 パンプスが引っかかっていた木の枝には濡れたカッパを干し、目印に濡れたタオルを結びつけておいた。


 周囲のうっそうとした森に比べ、今いる場所は木も比較的背が低くまばらで、やや開けているようだ。

 耳を澄ませると、微かに水音が聴こえる。

 自分が倒れていた地点を見失わないように気をつけつつ、音がする方向へと歩く。

 捻った足とパンプスのヒールに苦労しながら、木の根や岩を迂回して行くと、それほど離れていない場所に小川があった。水量はそれほど多くなく、歩いて渡れそうだ。


 来た方向を振り返ると、崖の目印が見える。

 この開けた一帯は、以前川だったのかもしれない。

 ここまで歩いてくる途中にあった植物は名前のわからないものが大半だったが、ヨモギや、ヤナギの仲間であろう低木など、河原によく生えるものも見受けられた。


 流れに手を浸すと、冷たさに思わず声があがる。少しためらってから口に含めば、乾いた咽喉をすっきりとした水が伝い落ち、胃に納まるのがわかった。

 岩に腰掛けて、痛めた足首を冷やしながら考える。


 私が今住んでいる街には、こんな清流を抱える森はない。

 物心ついてから、高校に入るまでの期間を過ごした施設のある田舎でさえ、よほど山奥まで分け入らなければならないだろう。

 一体どうやってここに来たんだろうか。

 ベランダで気を失ったことは確かだ。そして目覚めると崖から落ちて倒れていた、と。

「う~ん・・・・・・」

 その間の記憶がさっぱりない。


 無理やり仮説を立ててみよう。

 その一。

「台風で飛ばされた」

 そんなに風が強くなかったことを差し引けば、ありえなくもないかも?欧米では竜巻で飛ばされた家畜が無傷で見つかることもあるらしいし。

 そういえば、オズの魔法使いのドロシーは竜巻で飛ばされたんだっけ。私もどうせなら家ごと飛ばして欲しかった。

 飛ぶといえば、メリー・ポピンズもそうだ。でも私が持ってたのは傘じゃなくてカッパだしなぁ。

 その二。

「誰かに連れてこられた」

 雷に驚いて気絶した私を誰かが発見して・・・・・・普通は森の中に連れてこないだろう。

 いや待てよ、仮死状態になった私を死体だと勘違いして、動転して山中に遺棄したとか。

 苦しいか。

 恨みを買ったり邪念を持たれるような人どころか、知り合いすらあんまりいないし。

 あんなボロアパートにいる時点で貧乏に決まってるから、金銭目的の拉致ということも考えにくい。

 大体、あんなに低い崖からわざわざ私を落とす意味がないだろう。


 ひとつ確かなことは、帰る方法がわからないということだ。

『道に迷ったときは、その場から動かないこと』というのが常識だが、待っていても私を探してくれる人はいない。

 唯一捜索願を出すとしたらアパートの近所に住んでいる大家さんだが、生憎三日前に家賃を支払ったところだ。あと一月はセールスマン以外誰も尋ねてこないだろう。

 私をここに連れてきた犯人(仮)でもいいから、今すぐ出てきて状況を説明して欲しい。


 遭難、という言葉が脳裏に浮かんだ。

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