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かざなぎの記  作者: 藤原ゆかり
遭難日記
3/29

「ぶぇっくしょい!」


 おっさんのようなくしゃみで、目が覚めた。

 目の前には水平に地面。そして草のドアップが。

 このエノコログサが、私の鼻腔を攻撃したようだ。

 あれほど吹き荒れていた風雨はやんでいる。


 ベランダが崩れて、アパートの裏庭に落ちたんだろうか。


 全身を少しずつ動かしていく。

 懐中電灯を握りしめたままの右手をにぎにぎ。

 続いて時計をはめた左手、問題なし。

 首、鞭打ちになっていない。

 左足首を動かすと、鈍い痛みが走る。靴はどこかへ行ってしまったようだ。

 その他あちらこちらがズキズキしたが、二階から落ちてこれぐらいで済んだら儲けもんだろう。

 割と無事みたいだな、と思いながらどうにか上半身を起こした次の瞬間、ぎょっとした。


「はぁ――?」


 木だ。木がいっぱいある。

 それも裏庭にあるはずの、貧弱なビワの木ではない。

 ぐるりと見渡した周囲には、様々な高さの木々や潅木が生い茂り、見通しがきかなかった。

 あっけにとられて見上げた空は、田舎でも見たことがないほど青い。

 空の色だけを見れば台風一過と思い込むこともできた。

 しかし、周囲にその爪痕は残されていない。

 私が横たわっていた部分の地面のみが、ビニールガッパの水滴を受けてわずかにぬかるんでいる。


 少なくともアパートの敷地内に、こんな場所は存在しない。


 真っ白になる頭をなだめながら、必死で考える。


「ここはどこですか?」

 ――どこかの森の中です。

「私は誰ですか?」

 ――清原凪子、十九歳、無職です。

「私はどうしてここにいるんですか?」

 ――全くもってわかりません。


 自問自答をするも、虚しく終わる。


 とりあえず片方だけパンプスを履いているとぐらぐらするので、濡れたカッパ共々脱いでしまう。

 どうやら左足首は軽い捻挫程度で済んだようだ。

 足を庇いながら草の上に腰を下ろす。


 まあ、記憶喪失という最悪のパターンに陥らなかっただけ良しとしよう。

 そうでも思わなくては、やってられない。


 さて、これからどうしよう?




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