「お前ら全員クビ」って言い渡す王子が正義の話
「お前ら全員クビだ」
俺がそう言い渡すと、臣下は全員ポカンとした。
「ウォルター王子! おそれながら、我々に何のご不満が!?」
「王子! お戯れも程々になさいませんと……!」
「あーあー、うるさい。一度ゼロにすると言ったろ? 実行したまでだ」
「ほっほっほ。まあまあ、皆様」
アクバー特務官が臣下をなだめた。
「王子様には何かお考えがあるご様子。結果が出てからでもよろしいのでは?」
「ほお……意外だな、アクバー」
「いえいえ。ワシらはウォルター王子の味方。忠実なる僕にございます」
「そうか。じゃあ、全員の解任に異論はないな?」
「はい」
俺は書記官に頷いた。
「今の返事も記録しとけ。あ、お前もクビな」
◆ ◆ ◆
「ほーっほっほっほ! ボンクラ王子のおかげで、ますます私腹が肥やせそうですな~!」
「まこと、まこと」
アクバーを始めとする元特務官たちは、でっぷり太った腹を揺すって高笑いをしていた。
「どぉんな改革をするかと思えば、まさかの全員クビとは!」
「料理も掃除も、誰が差配すると思っとるんじゃ。王子が鍋でも振るうつもりか?」
「困った臣下が泣きつけば、ワシらを呼び戻すしかありませんなあ」
「その際には、手当も増やしていただきましょう!」
人員も予算も、特務官を通さなければ動かない。それが、この王宮の長年の決まりだった。
それを黙って聞いていた若い元特務官が口を開いた。
「――そのボンクラ王子が、料理人と清掃員を再雇用したという話は聞いたか?」
「もちろんじゃとも、ベリル。休業分も支払うとか抜かしておるが、泥縄で慌てているのも筒抜けじゃよ」
「雇い直した連中は、誰の下についた?」
「ほ?」
「フレッド第二王子だ。部署の責任者から、直接報告させている」
ベリルは静かに席を立った。
「俺は消えるぞ」
「何を大げさな」
「お前らは好きにしろ。だが残るなら、もう殺すしかなくなるぞ」
立ち去ったベリルを、アクバーは大笑いした。
「ほっほっほ。何を恐れているんじゃろうなあ」
「あの若造は元から気に食わなかったんじゃ」
「しかしこれで、甘い汁は独占ですな」
◆ ◆ ◆
「――ということだ、ウォルター王子」
「ありがとう、ベリル」
俺は元特務官をねぎらった。
「ところで、今なら俺だけだぞ? 暗愚な王子を討つ大チャンスだ」
「よく言う……。手土産の情報だけで、見逃してくれ」
「暗部でなら再雇用するぞ」
「寿命が溶けそうなので止めておきますよ、ウォルター王子殿」
ベリルを見送った俺は、再雇用の名簿に目を落とした。
料理人に清掃員、衛兵に書記官。特務官以外には、クビの前に話を通してある。休業分の補償も含めてだ。
特務官だけ外しても、奴らの許可が要る古い決まりは残る。だから一度、全員の役職と指揮系統を切った。
戻ってきた連中は、もう特務官の顔色を窺わなくていい。必要な金も人も、部署の責任者が直接フレッドへ申請する。
あとは、情報を持ってきたベリルをどうするかだったが、本人が辞退した。
「で、では」
名簿を届けに来た料理長が、おずおずと尋ねてくる。
「厨房に五人雇えば、五人分の給金が届くのですね?」
「当たり前だろ。今まで届かなかった分も、調べて取り戻す」
料理長は、名簿を抱えて深々と頭を下げた。
「よし。新体制、完了!」
◆ ◆ ◆
「ぬぁに~!?」
アクバーは机を叩いた。
「ワシらを抜きに、予算まで通したじゃと!?」
「誰も文句を言わんとは、情けない!」
「休業分を受け取って喜んどるそうですぞ。きゃつら、王子の犬じゃ!」
そこへ、王宮からの使者が来た。
旧体制の支出を調べるため、保管している帳簿を提出せよとのお達しに、アクバーたちは顔を見合わせた。
「――王子は、明日また旅へ出るそうですな」
アクバーが低く言った。
「ならば、道中で不幸があっても不思議ではありますまい」
◆ ◆ ◆
俺が隣国への偵察に向かっていると、街道の木陰から男たちが出てきた。
「ウォルター王子とお見受けする」
「おう、遅かったな。アクバーの差し金か」
「お覚悟を!」
十人がぐるりと囲んできた。
お付きが剣を抜こうとしたので、俺は手で制した。懐から、一枚の札を取り出す。
「いいか。【ぼんくら】ってのは、この札のことでな」
ビリッ。
札を破ると、男たちの剣先がストンッと下がった。
俺は正面の一人へ歩み寄り、顎を殴る。
倒れた男を、隣の奴がぼんやり眺めている。そいつの腹にも拳を入れた。
「破ると、周りの人間をぼーっとさせちまうのさ。ほれ、俺がドツくまで、ぼーっとしてただろ?」
殴られた二人は正気に戻ったが、もう立てない。
残る八人も、順にのしていく。
「ちょっと実力差がねえと効きづらいんだが、効いてよかったぜ」
お付きに縄で縛らせ、最後の一人の懐を探った。
金貨の入った袋に、アクバー家の封蝋。前金ごと持ってきたらしい。
「よし。こいつら連れて戻るぞ」
◆ ◆ ◆
「な! わ、ワシらは何もしとらん!」
「そうだな。何も国のためになることをしちゃいなかった」
金袋を机に置くと、アクバーは口を閉じた。
刺客は既に、依頼主も報酬も洗いざらい喋っている。生かして捕らえた甲斐があった。
押さえた帳簿からも、抜いた金がぞろぞろ出てきた。財産は没収。今後の衣食住は、牢屋で面倒を見てもらえ。
「ウォルター兄さんは荒っぽいねえ」
連行されるアクバーたちを見ながら、フレッドが溜め息を吐いた。
「恨まれる役を引き受けたんだろうけどさ」
「おう。こういう掃除は、また出ていく奴がしたほうがいいんだぞ? お前は残るんだから、働く連中と仲良くしとけ」
親父がぼちぼち隠居するというので、俺を呼び寄せた。少しは改革で汗を流せと言いたかったのだろう。
お生憎様。俺は俺のやり方で大掃除だ。
「じゃあな、フレッド王子。あとの執務は任せた」
「はーい、ぼんくら王子」
「この野郎」
お付きを王宮に残し、俺は一人、街道に出た。
悪ぃが親父、待ってるのはガラじゃねえ。俺は俺のやり方で、国の役に立たせてもらうぜ。
向かうのは、きな臭い噂の立つ隣国だ。
なんでも、不老不死と名高い女王様がお隠れになったそうな。
「――向こうも『代替わり』する気かねえ」




