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「お前ら全員クビ」って言い渡す王子が正義の話

作者: 葦原エイ
掲載日:2026/10/06

「お前ら全員クビだ」


 俺がそう言い渡すと、臣下は全員ポカンとした。


「ウォルター王子! おそれながら、我々に何のご不満が!?」

「王子! お戯れも程々になさいませんと……!」

「あーあー、うるさい。一度ゼロにすると言ったろ? 実行したまでだ」


「ほっほっほ。まあまあ、皆様」


 アクバー特務官が臣下をなだめた。


「王子様には何かお考えがあるご様子。結果が出てからでもよろしいのでは?」

「ほお……意外だな、アクバー」

「いえいえ。ワシらはウォルター王子の味方。忠実なる僕にございます」

「そうか。じゃあ、全員の解任に異論はないな?」

「はい」


 俺は書記官に頷いた。


「今の返事も記録しとけ。あ、お前もクビな」



 ◆  ◆  ◆



「ほーっほっほっほ! ボンクラ王子のおかげで、ますます私腹が肥やせそうですな~!」

「まこと、まこと」


 アクバーを始めとする元特務官たちは、でっぷり太った腹を揺すって高笑いをしていた。


「どぉんな改革をするかと思えば、まさかの全員クビとは!」

「料理も掃除も、誰が差配すると思っとるんじゃ。王子が鍋でも振るうつもりか?」

「困った臣下が泣きつけば、ワシらを呼び戻すしかありませんなあ」

「その際には、手当も増やしていただきましょう!」


 人員も予算も、特務官を通さなければ動かない。それが、この王宮の長年の決まりだった。


 それを黙って聞いていた若い元特務官が口を開いた。


「――そのボンクラ王子が、料理人と清掃員を再雇用したという話は聞いたか?」

「もちろんじゃとも、ベリル。休業分も支払うとか抜かしておるが、泥縄で慌てているのも筒抜けじゃよ」

「雇い直した連中は、誰の下についた?」

「ほ?」

「フレッド第二王子だ。部署の責任者から、直接報告させている」


 ベリルは静かに席を立った。


「俺は消えるぞ」

「何を大げさな」

「お前らは好きにしろ。だが残るなら、もう殺すしかなくなるぞ」


 立ち去ったベリルを、アクバーは大笑いした。


「ほっほっほ。何を恐れているんじゃろうなあ」

「あの若造は元から気に食わなかったんじゃ」

「しかしこれで、甘い汁は独占ですな」



 ◆  ◆  ◆



「――ということだ、ウォルター王子」

「ありがとう、ベリル」


 俺は元特務官をねぎらった。


「ところで、今なら俺だけだぞ? 暗愚な王子を討つ大チャンスだ」

「よく言う……。手土産の情報だけで、見逃してくれ」

「暗部でなら再雇用するぞ」

「寿命が溶けそうなので止めておきますよ、ウォルター王子殿」


 ベリルを見送った俺は、再雇用の名簿に目を落とした。


 料理人に清掃員、衛兵に書記官。特務官以外には、クビの前に話を通してある。休業分の補償も含めてだ。


 特務官だけ外しても、奴らの許可が要る古い決まりは残る。だから一度、全員の役職と指揮系統を切った。


 戻ってきた連中は、もう特務官の顔色を窺わなくていい。必要な金も人も、部署の責任者が直接フレッドへ申請する。


 あとは、情報を持ってきたベリルをどうするかだったが、本人が辞退した。


「で、では」


 名簿を届けに来た料理長が、おずおずと尋ねてくる。


「厨房に五人雇えば、五人分の給金が届くのですね?」

「当たり前だろ。今まで届かなかった分も、調べて取り戻す」


 料理長は、名簿を抱えて深々と頭を下げた。


「よし。新体制、完了!」



 ◆  ◆  ◆



「ぬぁに~!?」


 アクバーは机を叩いた。


「ワシらを抜きに、予算まで通したじゃと!?」

「誰も文句を言わんとは、情けない!」

「休業分を受け取って喜んどるそうですぞ。きゃつら、王子の犬じゃ!」


 そこへ、王宮からの使者が来た。


 旧体制の支出を調べるため、保管している帳簿を提出せよとのお達しに、アクバーたちは顔を見合わせた。


「――王子は、明日また旅へ出るそうですな」


 アクバーが低く言った。


「ならば、道中で不幸があっても不思議ではありますまい」



 ◆  ◆  ◆



 俺が隣国への偵察に向かっていると、街道の木陰から男たちが出てきた。


「ウォルター王子とお見受けする」

「おう、遅かったな。アクバーの差し金か」

「お覚悟を!」


 十人がぐるりと囲んできた。


 お付きが剣を抜こうとしたので、俺は手で制した。懐から、一枚の札を取り出す。


「いいか。【ぼんくら】ってのは、この札のことでな」


 ビリッ。


 札を破ると、男たちの剣先がストンッと下がった。


 俺は正面の一人へ歩み寄り、顎を殴る。


 倒れた男を、隣の奴がぼんやり眺めている。そいつの腹にも拳を入れた。


「破ると、周りの人間をぼーっとさせちまうのさ。ほれ、俺がドツくまで、ぼーっとしてただろ?」


 殴られた二人は正気に戻ったが、もう立てない。


 残る八人も、順にのしていく。


「ちょっと実力差がねえと効きづらいんだが、効いてよかったぜ」


 お付きに縄で縛らせ、最後の一人の懐を探った。


 金貨の入った袋に、アクバー家の封蝋。前金ごと持ってきたらしい。


「よし。こいつら連れて戻るぞ」



 ◆  ◆  ◆



「な! わ、ワシらは何もしとらん!」

「そうだな。何も国のためになることをしちゃいなかった」


 金袋を机に置くと、アクバーは口を閉じた。


 刺客は既に、依頼主も報酬も洗いざらい喋っている。生かして捕らえた甲斐があった。


 押さえた帳簿からも、抜いた金がぞろぞろ出てきた。財産は没収。今後の衣食住は、牢屋で面倒を見てもらえ。


「ウォルター兄さんは荒っぽいねえ」


 連行されるアクバーたちを見ながら、フレッドが溜め息を吐いた。


「恨まれる役を引き受けたんだろうけどさ」

「おう。こういう掃除は、また出ていく奴がしたほうがいいんだぞ? お前は残るんだから、働く連中と仲良くしとけ」


 親父がぼちぼち隠居するというので、俺を呼び寄せた。少しは改革で汗を流せと言いたかったのだろう。


 お生憎様。俺は俺のやり方で大掃除だ。


「じゃあな、フレッド王子。あとの執務《ざつむ》は任せた」

「はーい、ぼんくら王子」

「この野郎」


 お付きを王宮に残し、俺は一人、街道に出た。


 悪ぃが親父、待ってるのはガラじゃねえ。俺は俺のやり方で、国の役に立たせてもらうぜ。


 向かうのは、きな臭い噂の立つ隣国だ。

 なんでも、不老不死と名高い女王様がお隠れになったそうな。


「――向こうも『代替わり』する気かねえ」

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