ギャル探偵 八代さん
「ねーオタクほんとにこの島で”めめ”撮影してたの?」
「そ、そうだよ八代さん! 後で海に面したブランコでインスタ映えする写真撮ろうね!」
「あ待ってBeRe○l来たー」
呑気に動画撮影を始める八代さんを横目に、ぼくは大きくため息をつく。
ある日ぼくの親戚の元に手紙が届いた。
手紙の差出人は親戚が小学校のころの友達の名前だったけど……なんとその友達は一年前に事故で亡くなっているという。
手紙には「話したいことがあるから集まってほしい」というメッセージと、無人島への連絡船のチケットが同封されていた。
親戚は小学校の頃に転校してしまったのでその子のことはよく覚えていないようで、「あんたこういうの好きでしょ?」と、ミステリ好きのぼくのもとにお鉢が回ってきたのだ。
まさか現実でそんなミステリみたいな展開があるなんてと舞い上がったのも束の間、ぼくは所詮ただのミステリ好き。
名探偵でも何でもないぼくが行って、果たして何が出来るだろうか。
さすがにそんな、無人島で殺人事件なんてフィクションの世界だけだろうと思いつつも、万が一、いや億が一、本当に事件が起きたら?
ぼくみたいな好奇心旺盛なタイプって割と序盤に見ちゃダメな何かを見て雑に殺されそうじゃない?
そううじうじ悩み始めたところに、クラスの友達が紹介してくれたのが「ミステリ殺しのギャル探偵」と名高い他校の八代さんだった。
ギャル探偵の辞書には「迷宮入り」の文字はないのだとか。
ぼくは思った。
ギャル探偵ってなんやねん、と。
その二つ名どうして誰も止めへんねん、と。
そう思いつつも、高校生で探偵、といういかにもな響きには勝てず、友達に引き合わせてもらってこうして一緒にこの島までやってきたんだけど……
八代さんと会ってからこっち、ギャルらしさはジリジリ焦げ付くように感じながらも、探偵らしいそぶりはひとつたりとも見ていない。
……まぁ、いいか。まさか本当に無人島で連続殺人とか起きるわけないだろうし。
それにしても、小さな離れ小島、そこに建つお金持ちが作った複雑な構造の洋館。ミステリオタクとしてはやっぱり、クローズドサークルっぽくてわくわくしちゃうなぁ。
そう思っていたのは事実だ。
だけど。
「大変です! 嵐で島唯一の港のクルーザーが流されてしまいました!」
「それに何者かに電話線が切られていて……」
「嘘でしょ?! この島携帯も圏外よ!?」
屋敷の支配人にメイドさん、ぼくたちと一緒に連絡船でやってきたおじさん、おばさん。それに20代半ばくらいの男の人と、年齢不詳のお姉さん。
島に集められた大人たちが大慌てを始めたこの展開には、さすがに焦るわけで。
自分のスマホを確認すると、確かに滅多なことでは見かけることのない圏外の2文字。
「も、もしかして……外部から完全に、遮断された、ってこと……!?」
思わず心の声が漏れてしまう。
まさか、本当にこんな、ミステリみたいなことが。
はっと顔を上げると、八代さんと目が合った。この場の誰よりも落ち着いた様子だった八代さんが、口を開く。
「えウチaham○だから繋がるよ〜」
「aham○繋がるんだぁ〜……」
八代さんがイェーイ、とお手本みたいなギャルピースでぼくに応じた。
なんだろう、なんか、すごく……気が抜けた。
キャリアによって繋がるとかあるんだ、こういうの。あっていいんだ。
基地局の問題なんだ。
「とりまなんか問い合わせしとくわー、みんな入って入って〜」
「助けを求めるのに集合写真いるかなぁ!!??」
八代さんがインカメで写真を撮り始めた。
戸惑いながらも皆が八代さんに従う。なにせ八代さんしか本土との連絡が取れないのだから仕方がない。
「インスタのストーリーあげといた〜」
「これで一安心ね」
「ほんとですか?」
「でも、電話線を切るなんて誰がこんなこと……」
「きゃあ!」
「今度は何だよ」
キッチンにお茶の準備に行ったメイドさんが、どこか怯えた様子でコンロの上を指差す。
そこには招待状と同じ便箋に……こう書かれた手紙が置かれていた。
『イナバサトコの死は事故ではない』
「何だよ、これ……」
男の人の手紙を持つ手が震えている。
このイナバサトコさんというのは、件の死んでしまった女性の名前だ。
やっぱりぼくたち、というか彼女の関係者らしい人物がこの島に集められたのは……その死の真相を明らかにするためなのか?
いや、真相というより……真犯人、なのだろうか。
「分かった。あんたらこの招待状出したやつとグルなんだろ? それで俺たちのこと脅かそうとしてるってわけだ」
「いえ、そんな違います!」
「我々も雇われただけで……さっきまでこんなものは……!」
「ねー、それちょっと見せて」
言い合いを始めた客と使用人たちの間から、ぬっと八代さんが手を差し出した。そして便箋を手に取ると、裏返す。
そこには何やら数字と記号がびっしりと羅列されていた。
「なにこれ?」
「もしかして、暗号じゃ……」
「暗号?」
「そんな、馬鹿馬鹿しい。ドラマじゃあるまいし」
八代さんはおじさんの言葉を無視して、ぼくの「暗号」という言葉をぶつぶつと繰り返した。
その表情は真剣そのもので、ぼくは八代さんの肩書きを思い出す。
ギャル探偵。
ギャルはさておき、探偵。
暗号といえば探偵の得意分野。ここでその本領が発揮される、はず。
固唾を飲んで見守るぼくの目の前で、八代さんはおもむろにスマホを取り出すと、パシャリと写真を撮る。
「Gr○k、この暗号を解析して」
「暗号文Xに上げるのやめれる!!??」
ぼくの制止もむなしく、あっという間に画像がインターネットの海に流されていった。
いやなんか、こういうので暗号を放流するの、ダメじゃない?
ルール違反じゃない? これ作った人泣いてない??
「あ、回答きた」
「情緒もなにもない……」
「なんかB'○? のL○VE Phant○m? の歌詞らしいよ」
「そんなわけなくない!!??」
この世で一番そんなわけなくない!?
ミステリで歌が絡んでくるときだいたい見立て殺人とかだけどL◯VE Phant◯mに見立てられた側はどうすればいいの!? 化けて出ればいい!?
被害者が亡霊になる恐れあるよ!?
「何だ、いたずらか」
呆然とするぼくを無視して、どこか安堵した表情のみんながどやどやとリビングに戻っていった。
八代さんも答えが出たことで興味を失ったらしく、すたすたとみんなの後をついていく。
いたずら、なのかなぁ。
適当に放り出された便箋を眺める。
本当にいたずらだとしても、どうしてこんな手の込んだことを?
リビングに戻ると、若い男の人がどかりと足を投げ出してソファに腰を下ろしたところだった。
彼はその場の全員の顔を見回して、一つの提案をする。
「ここに集まった奴ら、全員サトコの関係者なんだろ。ここは一つ自己紹介といこうぜ」
しん、と部屋の中が静まり返る。
みんなどうしようか迷っている様子だ。
ここはそのサトコさんとほぼ無関係のぼくから行くべきだろうと、そっと挙手をして視線を集めてから口を開いた。
「ぼ、ぼくはサトコさんの小学校の友達……の親戚です」
「遠いな」
「ぼく、ミステリとか好きで。それを知ってた親戚が代わりに行かないかって声をかけてくれたので」
「不謹慎ねぇ」
「小学校の友達って、名前は?」
「エンドウユカリです」
「あ、ユカちゃんの」
年齢不詳のお姉さんが思い出したように声を上げた。
「私もサトちゃんとは幼馴染なの。ユカちゃんは途中で引っ越しちゃったけど、私は小中高校まで、サトちゃんと一緒だったのよ」
お姉さんがそう説明した。なるほど、高校までずっと一緒の幼馴染という関係ならば、サトコさんの死にはきっとショックを受けただろう。
彼女がどこか影のある表情で目を伏せたところで、次は若い男が話し始めた。
「俺はサトコと大学時代同じゼミで……付き合ってた。けど就職してからお互い時間が合わなくなって、結局別れた。もう3年前かな」
「あ、あたしはただの親戚よ。あの子片親だったでしょ。母親が死んで一人になったときに、まだ未成年だったから2年くらい、あの子が成人するまで一緒に住んでただけ」
「わしはイナバくんの上司だ。イナバくんが亡くなった後、その穴埋めに必死で……気づいたら線香のひとつも上げられていなかった」
次々にイナバサトコさんとの交友関係を話していく。
若い男は元恋人、おばさんは少しの間同居していた親戚、そして上司。
あんな怪しげな招待状で集まるくらいだから、それなりに関係が深かった人たちばかりのようだ。
そう思うと、ぼくの親戚だけちょっと場違いな気もする。
「彼女を弔うことができるならと思って参加したのに、こんなふざけたことに巻き込まれるとは」
「ふざけたことって言うけどよ」
呆れた様子でソファに身体を沈み込ませたおじさんに、若い男が鋭い視線を向けた。
「俺はあんたのこと怪しいと思ってるぜ」
「何だと?」
「サトコから聞いてたんだよ。上司が厳しくて仕事がキツいって。もしかしてサトコが死んだのってアンタたち会社の人間が、サトコのこと追い込んだからなんじゃねぇの?」
「ふざけるなよ! それならお前のほうがよっぽど怪しいだろう! 痴情のもつれってやつなんじゃないのか?!」
「はぁ!? 別れたって言ってんだろ!!」
目の前で言い合いが始まってしまった。
この場に揃っているのは全員が赤の他人だ。誰も割って入る勇気などなく、おろおろすることしかできない。
おじさんが大きな音を立てて机を叩くと、立ち上がる。
「もういい。犯人扱いされるなんて真っ平だ。わしは部屋で休ませてもら、」
「ねーお風呂めっちゃ広かったんだけど!!」
ミステリらしい定番の流れになりかけたところで、それを壊すように飛び込んできたのは八代さんの声だった。
そういえばさっきから妙に静かだなと思っていたけど、まさか部屋にいなかったのか。
いなかったどころか風呂見に行ってるんですけど。
あのね八代さん、と苦言を呈しかけて、八代さんの方を振り向き……一時停止した。
八代さん、見に行くどころか風呂入ってる。
髪は濡れててちいさかったりかわいかったりするあのキャラクターのヘアターバンを巻いて、ふわふわもこもこで洗濯したら一発でボソボソになりそうな素材の、パーカーとショートパンツのルームウェア。
顔のメイクはそのまま、スラリと魅惑の生足が輝いていた。
あまりの攻撃力に、ひゅっと息を呑む。
制服のスカート姿と同じくらいの素肌比率かもしれないけど、いやでも、ダメじゃない? これ?
「てかドライヤーRef○なの神すぎん? 余裕で住めるんだけど」
「こういうタイプの洋館で備え付けのドライヤーR○faなことあるんだ……」
「みんな集まってるなら人狼しん? あーしアプリ入れてっからさ〜」
完全に思考停止しているぼくを無視して、八代さんは朗らかに笑いながらみんなに向かってスマホを振っている。
部屋から出て行こうとしていたおじさんも呆気に取られて、いつのまにかソファに着席していた。
これは仕方がない。
ジェラ◯ケギャルの生足に抗える男なんかこの世にいないんだ。
「で、でも、こんな時にゲームなんて……」
「さっき警察から電話来たし。明日には迎えくるから大丈夫っしょ」
あっけらかんと言う八代さん。
普通に警察と連絡取れちゃうんだね、aham○。明日には来ちゃうんだね、迎え。
呆然としながら八代さんを見る。
場の空気は完全に、八代さんに掌握されていた。
「お前人狼だろ!」
「ち、違いますっ」
「よーし、あーしは信じちゃうからね〜!」
和やかに人狼ゲームに興じること、数時間。
電話線が切られたとか暗号とかそういう話はどこへやら、まるで合宿の夜のような雰囲気だった。
おじさんもおばさんも、お兄さんもお姉さんも、執事さんもメイドさんも。
みんなにこにこと笑っている。
ぼくは薄々気づき始めた。
ミステリ殺しって、こういうこと?
夜も更けてきたところで、微かにばらばらという音が近づいてきたのに気がついた。
島の上をヘリでも飛んでいるのかと思ったけど……その音は遠ざかるどころかどんどんと近づいてきて、やがて風で窓ガラスが揺れるほどになった。
何かと思ってみんなで屋敷の外に出てみれば、屋敷の庭に煌々と光が降り注ぎ……ヘリコプターが、今まさに着陸しようとしているところだった。
風圧から腕で目を庇いながら、何とか踏ん張って立つ。
なに、なんで、ヘリ?
もしかして八代さんが呼んだ助けって、ヘリ????
「やしろー!!」
ヘリから女の子がまろび出てきた。
見るからにギャルだった。
絶対に八代さんの知り合いだった。
「りな? 何で?」
「インスタ見てたっくんに頼んで迎えに来たんだって! あんた大丈夫!?」
「えーたくとくんもありがとー」
「ったく、ウチのりなにあんま心配かけんなよ」
「ごめーん、うちマジでりなに愛されてっからさー」
明らかにヤリラ……ヤカラっぽい男も現れる。おそらくヘリからまろびでてきたギャルの彼氏だろう。
まさか「びっくりするほど金持ちの友達」まで実装されているとは。
ギャル探偵、本人はさておき肩書だけ見たらめちゃくちゃ探偵の素質がある。
ぼくはといえば、そのやりとりを遠巻きに眺めることしかできなかった。ギャルはまだ鑑賞する分にはいいけどヤカラは本当に無理だ。ジャンルが違いすぎる。できるだけ関わりたくない。
向こうからしてもぼくなんか見ててイライラするだけだろう。
というか、八代さん昨夜警察と連絡取れたって言ってなかったっけ?
ヘリ来たけど、勝手に帰っていいもの?
「や、八代さん。警察は?」
「えなんか、北海道県警からだったんだけどー」
「北海道は県じゃないねぇ」
「向こうからかかってきたじゃん? 出たらシュットーして? って言われて。まだ映えスポット回ってないから無理〜つかこっち来てきて〜みんなでこれから人狼するし絶対盛り上がるかんねーって言ったら、切れたから。フツーに来るんかと思ってた」
「…………」
絶句した。
詐欺電話かよ。
そしておそらく本人の意に染まない形で撃退してる。
え、つまり、これってこのまま八代さん信じて警察待ってたら、誰も助けにこなかったってこと?
たまたまリール見たギャル友達と彼氏が迎えに来なかったら……詰んでた?
呆然と八代さんを見る。
いやこんなの分かんないって。
こんな殺され方したんじゃミステリが浮かばれないよ。
かわいそうだよ、ミステリが。
がっくりと肩を落として、ヘリに乗り込む一向の列に並ぶ。
まぁ、いいか。普通に帰れるんだもんね。大した事件もなく。
そういえば……招待状とか、手紙とか。あれの犯人って結局、誰だったんだろう。
今となってはもう、誰も気にしてなさそうだけど……
「てかさー」
八代さんが振り返る。
てっきり僕が最後尾かと思っていたけど、そのさらに後ろ。イナバサトコさんの幼馴染のお姉さんを見つめていた。
「おねーさんだよね、あの手紙。あとたぶん、招待状も」
「え」
「みんなで撮った写真に、おねーさんだけ入ってなかったもん」
八代さんがスマホの画面をこちらに向ける。
さすがiPh○ne17pro、画面が馬鹿でかいのでよく見えた。
あの時。この島について割と早々に撮った……電話線騒動の時に、八代さんがインカメで撮った集合写真。
そこには、お姉さんの姿だけが入っていなかった。
「そんな、たまたまじゃ」
「んなわけないよ。絶対あそこにいた全員入るようにしたし。あーし仲間外れが一番嫌いだかんね」
八代さんが当たり前のように言う。
人狼ゲームで全員のCOを信じてた八代さんが言うと説得力がすごい。
「全員が本当のことを言ってると仮定して〜」とか言ってた。それなんか別の頭脳ゲームじゃない?
「サトコさん? のこと。気になって調べたら、サトコさんのインスタの鍵垢見つけたんだよね」
八代さんがスイスイとスマホを操作する。
馬鹿でかい画面に映し出されたのは、空をアイコンにしたアカウント。こういうとき自撮り上げないタイプは空とか風景アイコンにしがちだよね。分かるよサトコさん。
でもインスタってストーリーの投稿とかだと時間経過で消えちゃうし、あれってキラキラした投稿しか残ってない気がする。
「鍵かかってたけど友達の友達が相互だったからそっから辿ってXの裏垢も見つけた」
世間が狭い。
それともギャルの交友関係が広いのか。
八代さんがTwitt○rのアカウントを表示させる。アイコン黒い。フォロー5、フォロワー5。これは間違いなく裏垢。
サトコさんのものと思われる呟きが並ぶ。
仕事の愚痴、元彼の愚痴。
そういうものがつらつら並んでいるが……最後のポストは、「聞いてくれる相手いるのだけは恵まれてる。今度会ったら絶対奢るわ。使う暇なくて貯金だけあるし笑」というものだった。
それを見て、ぼろりと、お姉さんが涙を流す。
「私、疲れてて……サトコからの電話……冷たく対応しちゃったかもって。そのあとすぐ、サトコが亡くなって。それが、ずっと気がかりで」
「あーね」
「私以外の誰かのせいだって、思いたくて。会社のこととか、彼氏のこと、親戚のこと……あの子、すごく愚痴ってたから。だから、わたし」
お姉さんが俯いた。
ぽたぽたと溢れた涙が地面に落ちる。
「その中の、誰かのせいならよかったのにって。最悪ですよね」
日本の警察は優秀だ。重要犯罪の検挙率は85%くらいあるとか、ないとか。
その警察が事件性なしと判断したなら、それが真実。
本来なら一介の探偵が出る幕なんてない。それこそ、物語の中だけだ。
夢のない話だけど……現実ってそんなもんだと思う。
絶海の孤島で取り残されても、aham○が通じるみたいな。そういうしまらないのが現実ってものなんだろうな。
僕は一つ、大人になったのかもしれない。
「普通に、事故みたいですし。誰も悪くないんじゃ」
「それじゃあ、私が、したことは? こんなにたくさんの人を巻き込んで、時間もお金も使って! なんだか、馬鹿みた」
「楽しかったよねー!」
お姉さんの言葉に被せるように、八代さんが言う。
にーっと歯並びの良い白い歯を見せつけるように……言葉通り、ひどく、楽しそうに。
「なんか、脱出ゲームみたいで。しかも超豪華、超リアル」
「へ……?」
「何も起きなかったしさ」
八代さんが、お姉さんを見つめて言う。
そうだ。確かに、何も起きなかった。
重大な事件に繋がるようなことは、何も。
だってそんなこと起きたら……警察が来ちゃうじゃないか。
優秀な、日本の警察が。
「誘ってくれてありがとね、おねーさん」
八代さんの言葉に……お姉さんが胸の前で抱きしめるように……身を守るかのようにぎゅっと握っていた手が、ゆっくりと解けていく。
その手を掴んで、八代さんが言う。
「今日の写真上げるし、インスタ繋がろ?」
晴れやかに笑う八代さん。
ミステリ殺し。
それはつまり……彼女の前では、事件が起きない。
起こさない。
そういう意味、だったのだろうか。
お姉さんとインスタで繋がった八代さんが、そのままスマホを構えて僕のところまで駆けてくる。
「ほら、オタクも」
「ぼくインスタやってない」
「マジで〜〜???? 今から始めて、ほら」
「で、電波ないし」
「じゃーこれ」
八代さんがぼくのスマホを奪い取って、勝手に連絡先に番号を入力する。
「インスタ番号検索で出るから、約束ね」
「えーっと」
「この写真アイコンにして、はい」
八代さんが突然インカメでぼくと2人の写真を撮って、即座にエアドロで共有してくる。
あまりの展開の速さについていけない。
ていうか普通に他人のスマホ触れる人なんなの? 自分の触られても平気なの?
……平気そうだな、八代さん。
ぽかんとしているぼくに向かって、八代さんがなんだか照れくさそうにはにかんだ。
「番号教えんの久しぶり。なんか恥ずいね」
その表情に、がつんと後頭部をバールのようなもので殴られた気分になる。
強すぎるだろ、ミステリ殺し。
ラブコメになったらどうしてくれるんだ。




