第6話 ポーションの納品
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光の曜日は『テオの薬屋』の定休日。テオは昨日からダンジョンに行って、今日の夜には帰ってくると言ってたから、午前中にエリオット様のお屋敷に向かう事にした。
フィリップス侯爵家のお屋敷は、貴族街――貴族ばかりが住むエリア――にあるってテオから教えてもらった。貴族街なんて初めて来たけど、高い石壁が続いて大きな屋敷ばかりだ。
「テオから聞いたフィリップス侯爵家のお屋敷は、この辺りのはずなんだけど……えっ、ここ!? うわ~、大きなお屋敷!」
石壁が途切れると、2台の馬車が余裕で通れそうな大きな柵の門があった。門の横に小さな小屋があって門番さんが立っている。柵の奥には大きなお屋敷が見えた。
「おはようございます。フィリップス侯爵家のお屋敷でしょうか? 私、『テオの薬屋』のアリスと言います。エリオット様のお薬をお持ちしました」
にっこり笑顔で門番さんに伝えると、
「おお、『奇跡の薬屋』か! 待っていたぞ。お嬢ちゃん、門を開けるから付いておいで」
「えっ!? あ、はい……」
何か……スゴイ店の名前でかえされた。
門番さんに付いて行くと、屋敷の端にある勝手口みたいな扉に連れて行かれた。そこから門番さんが屋敷の人を呼ぶと、黒い服を着た年配の執事さんみたいな男の人が出て来た。
「アリス様ですね。お待ちしておりました。応接室にご案内致しますので、私に付いて来てください」
「は、はい」
年配の執事さんが、庶民の私に丁寧な言葉で話しかけてくれる、こそばゆいんだけど。
「アリス様、こちらでお待ちください」
「はい……」
通された応接室は上品な部屋で、高級そうな家具が並べられていた。
「うわ~、ステキな部屋!」
思わず声に出してしまった。動いて何かを壊してしまうと大変だから、じっと座っていよう――長椅子に座ると、ふんわりと体が沈む……お尻にやさしいな。
執事さんと入れ替わりに、メイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。甘い香りがして、テーブルに並べられたお菓子はどれも美味しそう。食べた事がないフルーツ? が乗っているクッキーもある。
「わぁ~! 美味しそうですね!」
「うふふ。どうぞ召し上がってください」
そう言って、メイドさんは2枚の小皿に全種類のお菓子を乗せてくれた。なんて、ステキなメイドさん! こんな人がテオの彼女になってくれたらいいのにな~。
「ありがとうございます!」
気になったクッキーを口に入れると、う~ん……美味しい! もくもくとお菓子を食べていたら、ノックの音とともにエリオット様が入って来た。
「アリス、待たせたな。ん? もう少し後の方が良かったかな?」
「! いえ、エリオット様、モグッ……こんにちは。ゴクッ」
口にお菓子が入ったまま返事をしてしまい、慌ててお菓子を飲み込んだ。
「フフ、お菓子は気に入って貰えたかな?」
「はい。とっても美味しいです! こちらのメイドさんに、とても親切にしてもらって嬉しいです」
エリオット様の顔色がずいぶん良くなっているな。眼の下のクマもなくなって、良かった~。
「あははは! アリスは可愛いね。そのお菓子は持って帰っていいからね」
「えっ、いいんですか? 嬉しい~。あっ、そうだ! エリオット様、ポーションを持ってきました」
危ない……ポーションを届けに来たんだった。
「エリオット様、自家製ポーションを2本持ってきました。どうぞ、お納めください」
バッグから2本のポーションを出して、テーブルに並べる。
「アリス、確かに2本受け取ったよ」
エリオット様がポーションを確認して執事さんを見ると、執事さんはキレイな布をのせたトレーを私の前に置いた。そこには、金貨が1枚。
「えっと、代金は銀貨6枚と銅貨6枚なのでお釣りは……」
「アリス、テオ殿が作られるポーションはとても価値があるんだ。だから、2本で金貨1枚だよ」
「えっ? エリオット様、これは……もらい過ぎです」
1本で銀貨5枚はダンジョン産のポーションと同じ値段だ。私が成人したら値段を上げるつもりだけど……。
「アリス、これでも安い。このポーション1本が、金貨1枚だと言われても納得する程、私にとって価値のあるポーションなんだ。だから、配達の手間賃込みだと思って受け取って欲しい」
エリオット様の言う通りにもらった方が良いのかな? チラッと執事さんを見たら微笑んでいる。
「分かりました。テオ先生に伝えますね。エリオット様、ありがとうございます」
「ああ、テオ殿によろしく伝えてくれ」
優しく微笑むエリオット様の顔がキラキラしているよ。
「ところでエリオット様、ポーションの効果はどれだけ続いたのでしょうか?」
「それが凄いんだ! アリス、まだ効果が続いているんだよ!」
「ふええっ~! そんなに!?」
うぅ、びっくりして変な声が出てしまった。ダンジョン産のポーションで効果は3日って言っていたのに、もう1週間は過ぎているんじゃ……。
「それは長いですね……普通、相性が良いと言われる方で、ダンジョン産と比べて+3日から倍の効き目なんです」
あっ、ナタリーさんの旦那さんは、更に効き目が伸びたって言ってたかな~。
「そうなのかい? 私はまだ、初めの1本しか飲んでいないんだよ。フフ、本当に素晴らしいポーションだ!」
壁側に建つ執事さんとメイドさんが、嬉しそうに話すエリオット様を見て涙ぐんでいる。
「よっぽど……エリオット様とポーションの相性が良かったんですね」
「私もそう思うよ! 痺れもないから剣も振れる様になって、騎士団の者達にも驚かれるんだ。皆から、呪いが解けたのかと聞かれるんだよ。フフ」
それなら、週に2本のポーションは余ってくるかな。
「エリオット様、次からポーションのお届けは週に1本にしましょうか?」
「いや、何が起こるか分からないから2本のままでお願いする。アリス、良いかな?」
「はい、分かりました」
私は売り上げになるから良いんだけどね。そう言えば、人によっては体が薬に慣れて効き目が下がる人もいるって、どこかの本に書いてあったな。エリオット様も、聖女様の時みたいに効き目が下がるかも……。
お土産にお菓子をもらって、門番さんと執事さんに見送られ屋敷を出た。
買い物して店に戻ると、ん? 誰かの気配がする……もうテオが帰って来たのかな? そっと勝手口から台所をのぞくとテオがいた。
「テオ、お帰り~」
やっぱりテオだった。泥棒だったらどうしようかと思ったよ~。
「おう! ただいま。アリス、どこに行ってたんだ?」
「エリオット様のお屋敷に、ポーションを届けに行ったの。おみやげに美味しいお菓子をもらったよ」
「ああ、そう言えば屋敷に届けるって言ってたな。土産に旨いお菓子か、どれ、味見しようか」
「うん、お茶をいれるね」
ふふ、テオも甘い物が好きだからね~。2人で美味しくお菓子を食べながら、屋敷にステキなメイドさんがいた事を話した。
「そうだ、テオ! エリオット様がね、ポーション2本で手間賃入れて金貨1枚で買ってくれたよ」
「ほお~、エリオット様は上客だな!」
金貨1枚あれば、2人で10日は食べられる。そう考えると、エリオット様は確かに上客ね。
その後、エリオット様のお使いで執事さんがお店に来て、ポーションの効果は10日間だったと教えてもらった。効き目が下がらなければ良いな。




