第4話 エリオット様
翌朝、テオは起きて来ない。いつもの事だけど、久しぶりのダンジョンで疲れた事にしてあげようかな。
テオの朝ごはんを取り分けて木箱に入れておく。そして、昨日売れた薬を補充して店を開け、作業場でテオが採って来た材料で薬を作る事にした。今日は傷薬とポーション。
ガチャ、チリン~チリン~
あっ、お客さんだ。
「いらっしゃいませ~」
声をかけながら作業場から店に行くと、あのイケメン騎士様が立っていた。今日は顔色がちょっとマシね。
「すまない、錬金術師の先生は戻られているだろうか?」
うわ~、どうしよう。テオを起こしてもいいかな。
「はい。昨日、帰って来ました。まだ寝ていますけど、起こして来ますね」
「いや、それは申し訳ない。押しかけて来たのは私だから、起きられるまで待たせてもらっていいかな?」
えっ……「それは困ります」とは言えないから笑顔で答える。
「いえ、呼んで来ます。テオ……先生は寝起きが悪いだけなので、こちらで座っていて下さい」
騎士様にカウンター横にあるテーブルに座ってもらい、急いで2階のテオの部屋へ行った。
「テオ、起きて! テオ~!」
「ん~、アリス……どうかしたか?」
「テオ、起こしてごめん。昨日話したイケメンの騎士様が来ているの。テオ、お願い起きて~」
「う~ん。ふぁ~、分かった……」
テオの手を引っ張って1階に下りる。騎士様の相手をしてもらう間にテオの食事を用意して……仕方ない、昼からお酒も出してあげようかな。
「ふぁ~~。はい、何か御用ですか?」
テオは目をこすりながら店に出て、騎士様に話し掛けてくれた。私は奥の台所に行き聞き耳を立てる。
「錬金術師殿! お休みの所すみません。貴殿にお礼を言いたくて、居ても立っても居られず押しかけて来ました。私は、第一騎士団の副隊長をしているエリオット・フィリップス。ああ、エリオットと呼んで下さい」
「えっ、フィリップス……侯爵家!? はぁ、エリオット様ですか……」
こ、侯爵家! たしか、貴族の中でも王族・公爵家に次いで身分が高いんだよね。うわぁ~、粗相をしたら大変だ。テオは頭をポリポリかいている。
「貴殿が作られたポーションですが、その効果が素晴らしくて! ダンジョン産のポーションでも完全には痛みが取れなかったのですが、これは飲んだ瞬間に痛みが消えて痺れもないんです! あれから4日経ちますが、まだ効果が持続しているのです。嘘みたいだ……奇跡です!」
騎士様のテンションが高いよ……2人にお茶を出して、そばで会話を聞いた。
「エリオット様、俺はテオ。テオと呼んで下さい。ダンジョン産のポーションで消えなかった痛みが、うちのポーションで消えたのか……う~ん、よほど薬が体に合ったんですね」
「ええ、テオ殿! 痛みが無いのは3年ぶりで、お陰で夜もぐっすり眠れるんです。なんと礼を言ったらいいのか……これからも定期的に購入させて頂きたい!」
「「3年ぶり!?」」
テオと私は、びっくりして顔を見合わせた。顔色が悪いのは寝不足のせいだったのね……夜中に腕の痛みで眠れないって、かわいそう。
「そう、先のスタンピードで呪いを受けてこの通り、今では痛みと痺れで右手が使い物にならなくなりました」
「ああ、あの時のスタンピードですか……」
イケメン騎士様が右手の白い手袋を外すと、右手が……真っ黒くなっている。そこから黒と紫色の……つるが絡み合う様に伸びた”あざ”が、ひじの辺りまで伸びている。
「うわ~! その呪いは……聖女様にみてもらったんですか?」
痛々しい右手を見て、思わず声を出してしまった。
「ああ、教会の聖女でも、この呪いは解けなかった。最初の頃、痛みは治まっていたが、何度か聖魔法を掛けてもらっているうちに効果がなくなり痺れまで出るようになった。痣も広がってきて……」
それからエリオット様は、ダンジョン産のポーションを飲む様になったと言う。そうよね、高いお布施をしても痛みが治まらないなら、ポーションの方が安いし何時でも手に入るからね。
「聖女でも痛みを押さえられなくなったから、ポーションを飲んでも痛みが消えないのは仕方がないと思っていましたが……」
人から効き目が良いポーションがあると聞くと、ダンジョン産のポーションより痛みがマシにならないか試していたそうです。錬金術師によってポーションの効果は違うからね。
「呪いで痛むのか……ポーションで痛みが消えないのはキツイな」
「テオ、呪いって薬で治らないの?」
「う~ん、魔物にもよるが、悪疫みたいな呪いと言うか状態異常なら薬で治せるが、聖女様で治せない呪いなら普通の薬では難しいな」
「そうなんだ……」
うねうねと伸びた黒紫の”あざ”……広がったから聖女様の聖魔法が効かなくなったのかな?
「私は諦めてはいない。伝手を頼ってエリクサーを探している。それと、王都にいる聖女より、力のある聖魔法を使える者もね」
「エリクサーと大聖女? どちらも厳しいな……」




