推しが隣で運転してるんですが…
バタン___
「あの…本当にいいんですか?もうこんな時間なのに…」
結局断りきれず助手席に座り携帯をチラッと光らせる。
「大丈夫っす!俺明日仕事昼からですし!」
ニコニコと暗いはずなのに眩しい笑顔を見せる推しが尊すぎてなぜか目の奥が熱くなる。
私…やっぱり飲むと涙腺緩くなるタイプなのかな…?
「あの…」
「は、はい…」
え…なに?太陽くんがめっちゃこっち見てくるんですけど…。え?私もしかしてまた泣いてる?頑張って堪えたつもりだったんだけど…。
と見つめられる大きな瞳にドキドキとパニックになりながら自分の頬を触るが濡れている感じはしない。
「あのシートベルト…」
「あっ!シートベルト!そうですね!すいません!」
あぁもう私何をやってるのよ!太陽くんを待たせるなんて…。
これ以上彼の時間を無駄にしてはいけないと急いでシートベルトをつけ彼にゴーサインを出す。
「あそんな急がなくてもいいんですけど…じゃ行きますね〜」
「ッ!…お願いします」
彼はふと笑ったかと思うとすぐに真剣な眼差しで周囲を確認し車を出した。
「………」
「………」
ダメだ…右を向けない…てか別に向く必要はないけどさ…
すぐ隣でハンドルを握る推しは想像の100倍心臓に悪く、それでも見たい気持ちを必死に抑え込み、窓の外を流れる光を永遠と数える。
「あの…」
「………」
200…よし、今度は赤い光を数えよう。1、2、3…
「あのっ!」
「ッ!?は、はい!」
推しの声でギュン!と車内に意識を戻された私は、思わず大きな声でそう返す。
「あっすみません!大きな声出して…」
「あいや…大丈夫っす…。てか俺の方こそさっきは急に押し掛けてすみませんでした…」
「えっ!…あ、いや!…ッ!」
推しの思いもよらない謝罪につい顔を右に向けてしまい、その姿に密かに食らってしまう。
「ほ、ほんと大丈夫です!そもそも大輔さんが行くって言ったわけですし!てかそうですよ!むしろ太陽くんは何も悪くないです!あんなに酔っ払った大輔さんを介抱して、おまけにこんなわけのわからないやつを家まで送る羽目になって…」
となぜか喋り出したら言葉が止まらず、自分でも何を話してるんだかわけがわからなくなる。
「あ、そういえばお名前なんて言うんですか?俺は園山太陽っていいます!」
「………」
名前を聞かれまた無意識に右へと視線を戻すと、そこには爽やかスマイルを振り撒きながらチラチラとこっちを見る推しがいて…。
いやそりゃフルネームもちろん知っていますとも!なんだったら身長に体重…は今現在のは知らないけど、誕生日だって知ってるしこの前の生放送もリアタイして録画したのももう何度も観ましたよ!
「あ、あの〜…」
「あぁ!すいません!私は満島 柚月っていいます!」
「満島さんは大輔の妹さんと同い年ですか?」
「はい!そうです!あ、なんで全然、敬語じゃなくていいですよ?」
「ならお互いなしでいきません?まだ家まで時間ありますし…」
「え!いや私はそんな…」
推しにタメ口とか無理!ちょっと太陽くんの方が上だし…。
「え〜俺だけタメは無理っすよ!」
「え〜そんな…」
なんて話しているとちょうど赤信号で止まり、チラチラではなくじっと太陽くんはこちらを見つめたが思うと、わざとらしく眉を落とし仔犬のような眼差しを向けてくる。
「ふっ…」
「あ、笑った!ひどい!人の顔見て笑うなんて〜」
「えぇ〜ごめんなさい!つい…」
つい可愛さに負けて…なんて続けようとした言葉を急いで飲み込むが…
「こっから敬語なしにするなら許す!」
「ッ!…」
あぁ、私の推しはなんて尊いのだろう…。
と向けられた推しのイタズラな笑顔にまた食いつつ、そんなのに勝てるわけもなく…
「じゃ、じゃあタメ…で…」
「よし!」
「ッ!…」
あぁ!今度はなんて爽やかスマイルを…無理…やっぱこんなシチュ心臓が持ちません!
と急いで目線を逸らし真っ直ぐ前へと向く。
「あ!太陽くん!青になってる!」
「あ!本当だ!」
とふたりで慌てふためき笑い合いながら車はまたゆっくりと進み出した。
「ねえねえ?」
「な、なに?」
すぐに太陽くんは私に話しかけてくる。
「その、違ったらめっちゃ恥ずかしいんだけどさ…」
「え…?」
「柚月ちゃんって…スマイリー(ファンネーム)だったり…する?」
「えっ!?な、なんで…」
なんでわかるの!?ってか名前呼びヤバっ!って私も勝手に下の名前で呼んでたか…とまた胸がうるさくなる。
「いや…そのカバンにぬいぐるみ付いてたから…俺の」
「え!?あ、いや…その…はい…そうです…」
え!?バレてたの?いつから?と膝に抱えていたカバンをチェックするが今はしっかり中に隠してある。
「やっぱ?いや妹さんの家入った瞬間に目についてさ…」
「あ、そうなんですね…」
え、もう最初からバレてたの?恥ず…
「いやでも自分で自分のやつ真っ先に見つけちゃうとか俺ヤバくない?」
と笑う彼に、きっと彼なりに場を和ませようとしてくれてるのかな…なんて思う。
あぁ、太陽くんなんていい人なんだろう…
「てかもう敬語に戻ってるし…さっきみたいに話そうよ。俺的にはその方が楽なんだけど」
「あ…うん」
と言うと彼はまたこっちをチラッと見て笑った。
「最初から俺って気づいてた?」
「いや…途中から…」
「えいついつ?」
「一緒にソファーで落ちそうになる大輔さん抑えてた時…かな?太陽くんのお気に入りのピアスが見えたから…」
「あぁ〜これね」
太陽くんは片手をハンドルから離し耳で揺れるピアスを触る。
「別にお気に入りってわけじゃないんだけど…」
「え?そうなの?いつもつけてるからそうなんだと思ってた…」
「ん〜どっちかって言うとお守り…的な?これSDsmileのオーディションの時にたまたまつけてたやつで、なんかもう外すの怖くなっちゃってさ…」
と笑った彼からほんの少しの哀愁を感じ、私はその続きが気になってしまった。
「なにが…怖いの?」
「ん?あ〜俺それまでずっとオーディション落ちまくってたからさ、なんか外したらダメになりそうで怖いんだよね…ただ勝手にそう思ってるだけなんだけどさ」
「そう…なんだ…」
初めて見る悲しげな彼に、それでも頑張って頬を上げようと力を込めている感じに私は胸がキュッとなった。
「でも…ピアスがあってもなくても…太陽くんは太陽くんだよ?」
「え…?」
「歌もダンスも…いつもめちゃくちゃ頑張ってるのはスマイリーのみんなが知ってるし、ピアスがなくたってそれが全部なくなるわけじゃない…」
「………」
「ってなに偉そうに言ってんの?って感じだよね、ごめん…はは…」
と咄嗟に誤魔化した笑い声が車内に一人響く…
「いや…ありがとう…」
「ッ!…いや、その…太陽くんにはスマイリーのみんながついてるから!大丈夫!…で、でもそういうジンクス?みたいなのってあるよね!私は元気ない時とか、ダメかも〜って思う時にエディーの曲を聴くんだ…あ…」
またなんか勝手に口が動き出して言葉が止まらなくなり、気づくと余計なことまで話していた。
そして隣を見るといつもの笑顔に戻っている彼がいて…
「そっか…それは嬉しいな…」
「ッ!…」
いやもうこちらこそです!と心の中で泣きながらグッと頬に力を込めた。
「た、太陽くんは普段どんな曲聴いてるの?」
「俺?俺はこれかな…」
とハンドルの横に並ぶ画面に指を伸ばし、すぐにある曲が流れた。
〜〜〜♪___
「え…これって………」
私は最初の一音で何の曲かわかった。
何度も何度も聴いてる曲。
「俺ルナさんの歌声好きなんだよね…takuyaさんの作る曲も好きだし…」
「へ、へぇ〜…」
思わず声が裏返る。
そ、そんな…太陽くんが私の曲を聴いてくれてるなんて…え、なに?これなんなの?今更だけど、夢とかじゃないよね?え?ドッキリとか?
なんてまたプチパニックが始まる。
「俺ファンクラブにも入ってるんだよ?しかも会員番号一桁代だからね!あ、これ一応ナイショね?」
「あ…うん…」
口元に人差し指を当てながら笑う彼に、打たれたかのような衝撃が身体の芯に走る。
って待って…うそ!ファンクラブ入ってくれてるの?しかも一桁代!?かなり初期から聴いてくれてるってこと?
「柚月ちゃんは好き?聴いたりする?俺のオススメはね〜」
そこから太陽くんの話は止まらず、だんだん聞くのも恥ずかしくなってくるけどそれを表には出せず…
「そ、そうなんだ〜」
としか答えられない私…。
「一回ライブにも行ってみたいんだけどなかなか行けなくて…あ、知ってる?ライブの時しか売ってない会員証ホルダーがあってさ!あのルナさんがつけてるお面のデザインなんだけどめっちゃ可愛いの!あれ俺欲しいんだよなぁ〜」
「ッ!あれは確かに可愛い!全部揃えたくなっちゃうよね!」
それはライブごとにデザインを変えているお面をそのまま会員証サイズで忠実に再現しているグッズで、私自身もかなりお気に入りで家の壁には全種類飾ってあるのだ。
「え?もしかして柚月ちゃんもお月民(ルナのファンネーム)なの?」
「え…?あ…」
「え〜マジで!?うわ…そうなんだ!え、柚月ちゃんはどの曲よく聴くの?」
「あ、いや〜…」
太陽くんのテンションがなぜかさらに上がり、今更違うとも言えなくなってしまう。いや…まあ、違くもないのか?私自身たっくんが作る曲はみんな好きだし…。
なんて話をしていたらあっという間に私の家へとついた。
「あ、もう着いちゃった…ここら辺でいい?」
「え?あ、ありがとう…ってもうこんな時間!?ごめんなさい送ってもらっちゃって…」
「いいのいいの!いろいろ話せて楽しかったし…帰りはルナさんの曲このまま聴いて帰るから」
となぜかルンルンでテンション高めの太陽くん。
「ほんとにありがとう。私も楽しかった…じゃあ…帰り気をつけてね…」
「それはよかった…じゃあおやすみなさい」
「お、おやすみなさい…」
最後の最後に推しからもらった特大の爆弾を抱え、私はふわふわと夢心地で家へと帰ったのだった。
多分もう二度とないであろう夢のような時間を何度も思い出しては…
「あぁ、もう今死んでも悔いはないかも…」
とつぶやき、ベッドに潜り込んだ。




