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邪神の使徒になった転生少女の冒険録  作者: 中毒のRemi
第二章 人形期 冒険者編
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第33話 守銭奴な人形少女

「アイラ様とヴュステ様で、名前は間違いはございませんね?」

「はい」

「ん」


 受付嬢は頷くと、カウンターの上に薄い水晶板を二枚、静かに滑らせるように置いた。


「それでは、この水晶の上に利き手を乗せてください」


 言われるままに私とヴュステは手を伸ばす。

 ひやりとした感触が掌に広がり、次の瞬間、私の右手には淡く光る刻印が浮かび上がった。


「それが冒険者ギルド所属の証です。刻印には依頼の達成記録や身分情報が刻まれていきます。そして――」


 彼女の説明をまとめれば、冒険者の歩んできた道がすべて刻印に形となって積み重なっていくのだという。

 階級が上がれば紋様はより複雑になり、達成した依頼の種類や数によっても姿を変えていく。

 

 高ランクになれば、それだけ待遇は上がり、門戸を閉ざされた場所にも入れるようになるらしい。


 私とヴュステの冒険者ランクは最下位のF。

 お金はあればあるほど良いので、出来る限り急ぎで階級を上げていきたい物だ。


「それでは早速、依頼を一つ受けたいのですが……何かお勧めはありますか?」


 尋ねると、受付嬢は手際よく紙束を差し出してきた。

 

 だがそこに並んでいたのは、掃除や荷運び、草木の採取、小動物の駆除といった雑務ばかり。

 報酬は銅貨がせいぜい数枚。


 これでは、とても日々を支えることすらできない。

 そう思ってどうにか出来ないかと、声をあげようとした、その時――


「やってくれたなッ、糞アマァ!!」


 まさかのさっきぶっ飛ばしたおじさんが、血走った目でこちらを睨みつけ、立ち上がってきた。


「知ってるか?! 冒険者同士の殺し合いは、ギルドが容認してるんだぞッ!」

「……そうなんですか。初耳です」

 

 事実なのかは知らないが、それが本当だった場合、何気に凄いルールである。

 いや、ここで嘘を吐く理由もない。

 という事はギルドというのは、国が決める法の外側にある組織なのだろうか。

 

 男は荒い息を吐きながら剣を抜き放つ。

 刃に映る光がいやに下卑て見えた。


「ただのまぐれ当たりで調子に乗るな! てめぇみたいな薄汚い女は、今ここで殺してやるッ!」


 ……相手をするだけ時間の無駄だ。

 私は横に立つヴュステの肩を軽く叩いた。

 

「ヴュステさん。ゴミ処理、お願いします」


 この言葉に呼応するように彼女のお腹が、大きく唸り声をあげる。

 

「私、お腹空いた」


 ……そういえば、この街に来てからまだ何も食べていなかった。

 ヴュステにとって人の多い都市で食事をとるのは初めてだ。

 ならば先輩らしく、まずは一緒に腹を満たしてやるのも悪くない。


 もっとも、手持ちの金はゼロだ。

 必然的にテレウスの財布を、当てにすることになるのだが。


「そうですね。では登録が終わったら、一度食事にするとしましょう」

「ん」


 まさにヴュステが小さく頷いた刹那、乾いた破裂音が私達の鼓膜に伝わる。


 ――――バンッ!


 耳をつんざく音と同時に、私へ詰め寄ろうとしていたおじさんの頭が弾け飛び、肉片と血が床に散った。


 今の音……もしかして銃声なのだろうか。


 ――反射的に音の方へ視線を向けると、階段をゆっくりと降りてくる影があった。


 九十歳近くに見える老人。

 背は高く、骨ばった巨躯に年齢を感じさせない威圧感をまとっている。

 右手には黒光りする片手銃を携え、その銃口はためらいなく私の頭へと向けられた。

 

 引き金が絞られ、火花が散る。

 飛翔する鉛の塊を、私は無意識のうちに口で挟み取っていた。

 歯と歯の間に衝撃が走り、鉄の味が舌に広がる。


「うおっ!凄いな……!!」


 老人の口元が緩む。

 称賛と愉悦が入り混じった声。


「ぺっ!ぺっ!……汚い」


 弾丸を床に吐き捨て、唇を拭う。

 

 ……最悪だ。

 反射的とはいえ、手じゃなく口で止めるなんて。


 老人は銃を下ろし、私を値踏みするように目を細めたあと、ゆっくりと血溜まりへ歩み寄る。

 頭を失った死体の傍らに立ち止まり、低く呟いた。


「おい。ギルド内で喧嘩を始めたら、俺が撃ち殺すって誰か説明しなかったのか?」


 ぎらつく眼光で周囲を舐め回すように見渡す。

 その声に、受付嬢が小さく悲鳴を漏らしながら答えた。


「ギ、ギルドマスター……! わ、私はそんな説明、受けておりません!」

「あァ?……そういや最近雇った受付は全員新人だったか。なるほど、なら仕方ねえな」

「…………すみません」

「今の時代、人の入れ替わりが早すぎる。一人一人にギルド内の掟を叩き込む暇なんざねえ……」


 そう言いながら老人は、ふと視線をこちらに向けて止めた。

 私がしゃがみ込み、死体の服をまさぐっていたからだ。


「あぁ?……お前、何してやがる?」

「いえ。この人死んじゃってるみたいなので……お金だけ貰っておこうかなと思いまして」


 そう事務的に答える。

 

 この死体は私に喧嘩を吹っかけ、殺意すら向けてきた相手だ。

 情けをかける理由は一つもない。

 

 というか、そんな事以前に金が無さすぎるので、少しでも徴収できる機会で徴収しておきたい。

 

「俺の目の前で、堂々と死体漁りか?」

「一応確認しますが、冒険者同士の殺し合いは許されてるんですよね」

「その通りだ、本部がそう定めてる。俺達は国の法じゃなく、ギルドの掟に従う」

「なら、死体の持ち物の扱いは?」

「早い者勝ちだ」

「……では遠慮なく」


 そう口にした途端、場の空気はさらに凍りついた気がした。

 周囲の冒険者達が一斉に息を潜め、視線を逸らす。

 私は硬貨の入った革袋をつまみ上げ、手の中で重さを確かめる――その瞬間、世界が反転した。


 体がふわりと浮き、次の瞬間には宙づりになっていた。

 片腕で私を易々と持ち上げたのは、他ならぬギルドマスター。

 皺に覆われた顔に、底の見えない笑みが刻まれている。

 

「死体に群がる乞食は数知れず……だが俺の隣で漁る子供は、お前が初めてだ。――そんなに金が欲しいか?」

「欲しいですね。そんなことより降ろしてください」

「ふん……面白い根性をしている」


 ギルドマスターはニヤリと笑い……

 

「よし気に入った。金が欲しいなら俺と話をしろ。依頼を引き受けるなら前金も出す」


 ……まさかの展開だ。

 冒険者ギルドのマスターから、直々の依頼。

 渡りに船とはまさにこの事だろう。

 依頼の内容はどんな物か分からないが、流石にFランクの依頼をチマチマやって、信用の積み重ねなどしたくなかったので丁度よかった。


「分かりました、内容を聞きましょう。なので早く降ろしてください」


 私の言葉に、ギルドマスターはくぐもった笑いを漏らし、ようやく私を床に下ろした。


「いい返事だ。――二階へ来い」

 

 片手を軽く振り上げて、彼は歩み出す。

 

「……ああ、それと。暇してる奴らは死体を片づけとけ。血臭で紅茶が不味くなる」


 そう言い捨てて、ギルドマスターは背を向け、悠然と二階へと歩み去った。

 私はヴュステを連れてその後を追おうとしたが……


「ヴュステさん、行きまs――あれ、いない?」


 隣にいたはずの彼女の姿が見えない。

 まさか食欲に負けて外へ出たのだろうかと首を傾げ、周囲を探した瞬間――


「うわぁっ!何勝手に俺の肉食ってんだお前!!!」


 視線の先、冒険者たちの卓に堂々と腰掛けたヴュステが、皿の上の肉を頬張っていた。

 呆然とする被害者を尻目に、彼女は口いっぱいに肉を詰め込みながら小さく呟く。


「……これ、美味しい」

「ちょっとヴュステさん。それは流石にルール違反が過ぎますよ」


 私は慌てて駆け寄り、彼女の後ろ襟を掴み上げる。


「だって今からあの人と話するんでしょ。流石にお腹空く。我慢できない」

「食事をするのは構いませんが、勝手に人の物を奪うのは駄目です。……外に出たら、貴女が満足するまで好きなものを買ってあげますから」

「分かった」


 しぶしぶながらも頷くヴュステを引き離し、私は気まずそうに皿の持ち主へ視線を向ける。

 そして詫びの代わりに、食事代よりも幾分多めの金を卓へ置いた。


 そうしてようやく場を収めると、私はヴュステを伴い、二階へと階段を上がっていった。

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