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邪神の使徒になった転生少女の冒険録  作者: 中毒のRemi
第二章 人形期 冒険者編
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第31話 商業都市ラスタベル

 馬車での移動を開始して、すぐに私はヴュステを空間から引き摺り出した。

 既にルルクとテレウスの両方には事情を大方話してあるため、混乱は起きなかったが――テレウスはヴュステの姿を一目見た瞬間、わずかに目を見開いていた。

 まぁそれほど気に求める内容では無いだろう。知り合いじゃなさそうだし。

 そしてヴュステには、私の目となって動くよう頼んである。

 

 ちなみに空間から出てすぐの言葉は「二度とあそこに閉じ込めないで」だった。

 あんまり神様とヴュステの絡みを把握していないが、よほど彼女の事が嫌いになるような出来事があったのだろう。

 でも、その願いはおそらく叶わない。


「見えてきたな、目的地が!」


 ルルクの弾んだ声に、ヴュステはゆっくりと馬車の幌を押し上げ、外の光景を目に映す。


「おぉ……」


 初めて目にする都市の姿に、彼女は心なしか瞳が大きく開いていた。

 

 商業都市ラスタベル――規模こそ王都ウルナには及ばないが、外壁は堂々と巡らされ、魔物の侵入を阻む防備は完璧と言っていい。

 城門へ向かう道には、行商人や旅人の列が流れのように続いている。


 だが、私の注意を最も引いたのは都市そのものではなかった。


「何ですか、あの――ありえないくらい大きな塔は」


 防壁の奥。

 都市のさらに奥に、それはあった。

 天を貫くどころか、雲を押し退けてなお伸びるかのような塔。

 今の私の視界はぼやけたモザイク状態だが、あの輪郭だけは鮮烈に見える。

 あまりに大きすぎて、嫌でも形を認識してしまうのだ。

 

 私の疑問に答えたのはテレウスだった。


「塔の形をした大迷宮だよ。……平原を進んでいる間にも見えてたと思うんだけど」


 その声音には、なぜ今さら訊くのか――という色が滲んでいた。


()()私に両眼はありませんよ」

「……す、すまない! あまりに普通に振る舞うから、完全に忘れていた」


 気まずさを隠すように短く咳払いし、テレウスは続けた。


「なんであそこに、あんな塔が建っているかは知らないけどね。……僕が孤児院から出たばかりの頃、師匠に放り込まれたことがあるんだ」

「その言い回しだと、迷宮というより修行場のようですね」

「そう。多分君の言うとおり、修行場が目的で作られたんだと思う。あそこに生息する魔物は塔から出てこないし」


 ――塔が迷宮。


 どうにも違和感が拭えない。

 私の中の迷宮のイメージは、地面の下、暗く湿った地下空間だった。

 それが天を衝く塔の姿で存在するなど、考えたこともない。

 

 いや、まぁ迷宮などに入るつもりはないので、こんな話はどうでも良いのだ。

 それより……


「ちなみに私とヴュステは一文無しです。なので入場料をお願いしたいのですが」

「おい、待て。お前さんと出会った時に結構な大金を渡した筈なんだが……?」

「それは貴方達、孤児院組を逃す時に紛失しました」


 もちろん嘘である。


「……そう言われると何も言い返せねえな」


 だが、事情は違えど、結局手元にないという事実は変わらない。


「僕が払うよ。というか、僕が払わない選択肢はないだろうね」


 物分かりのいい男が二人もいて、本当に助かった。


 


 そうこうしているうちに、馬車は商業都市ラスタベルの巨大な城門前へと辿り着いた。


 高くそびえる城壁の足元では、列を成した旅人や商人たちが検問を受けている。私たちも列の最後尾につき、ゆっくりと順番を待った。


 やがて、御者席のルルクとテレウスが若い門番二人に声を掛けられる。私とヴュステは馬車の中で大人しく待機していたが、外の会話が耳に入ってきた。


「中にいる人数を言え」

「四人だ」

「そうか。では荷馬車の人間が()()()()()していないか、確認させてもらう」


 ……ん?


 ……んんん……??


 それは、かなりまずい。


 今の私は両眼と右腕を包帯で覆っている。

 右腕の包帯を解けば、それはもう誰が見ても魔障患者のそれだ。

 誤魔化しようがない。

 

 そもそも、検問があるなら先に言ってほしかった。

 馬車で移動中に右腕の魔障についても話したのだから、そこは情報共有というやつをだな……。


「――君たちがそこまでする必要はない」


 そんな事を考えている矢先、テレウスが静かに割って入った。

 彼はグローブを外し、手の甲を門番たちに差し出す。


「こ、これは……最上位冒険者の紋章!?!?」

「まさか偽物じゃ……」


 訝しげな門番に、水晶のような検査具が押し当てられる。


「……ほ、本物!」

「しかも、この情報……救世主様ご本人だ!!」


 若い門番たちは興奮を隠せず、声が上ずる。

 だがテレウスはそれをやんわりと制した。


「君たち、この仕事に就いて日が浅いんだろう? あまり騒がれるのは好きじゃない……だから」

「そ、そうですよね! 他の検問は結構です、お通りください!!」

「応援してます!!」


 門番たちが慌てて敬礼する゙中、馬車はゆっくりとと城門を゙抜けた。

 


 

 ---

 


 

 そして私たちは無事に都市内部へと足を踏み入れた。


 街路には人があふれ、活気に満ちた喧噪が押し寄せてくる。

 行商人が声を張り上げ、旅人が慌ただしく荷を抱えて行き交い、子どもたちが祭り笛を吹き鳴らして走り回っている。

 

 ちょうど帝都では、新たな皇帝の戴冠式が近づいており、ここラスタベルも帝都への経由地として人の往来が普段以上に多いらしい。

 前夜祭は二日ほど前から始まっており、戴冠式終了までの期間はおよそ一ヶ月だとか。

 

 ――確か馬車の中で、少し前にルルクがそんな話をしていた気がする。


 馬車の車輪が石畳を叩き続ける中、ルルクが口を開いた。


「いやぁ、身分を明かさせちまって悪かったな。だが、なんで自分から名乗ったんだ? 俺の身分証で充分だったろうに」

「そうもいかないみたいだったからね」

 

 テレウスはちらりとこちらへ視線を寄越す。


「おじさんの身分証明だけじゃ、彼女が魔障患者として引っかかってた。――そうだろう、盟友?」

「魔障に感染してる人は通れないって、私は聞いてませんよ。普通に肝を冷やしました」

「そういや腕まで侵されてるんだったな。『問題ない』って言ってたから、つい忘れてたぜ」


 もし強行突破が必要になったら、私の右腕を焼き潰し痕跡を消す……なんて手段を頭の片隅に用意していたが、使わずに済んで本当に良かった。


 テレウスは小さく首を振り、淡々と続ける。


「感染の程度が軽ければ通れるさ。ただ重度で足すら動かなくなっていれば……隔離され、処刑だ」

「なら私はセーフでしょう。焦る必要なんて――」

「いや、今の君の格好を客観的に見てみなよ」

 

 私自身を客観視?


「ちょっと薄汚れた服に、両眼と右腕を包帯で覆った少女――」


 横からルルクが割り込んできた。


「アウトだな。普通の人間からすりゃ、お前は弱々しい子供にしか見えねえ。そこに魔障感染の疑いが加わりゃ、隔離はされなくても、念のために魔術でマーキング(条件式魔術)を刻まれる可能性は高いだろうな」

 

 ……魔障にかかった人間の扱いって、そういうものなのか。実に面倒だ。

 早く治ってくれないだろうか。


『わざわざ患者に条件式魔術を埋め込むとか、この街は随分と資金に余裕があるんだね』


 条件式魔術。

 魔術の勉強会をした時に聞いた気がする。

 確か名前の通りに一定の条件に達すると、発動するものだ。


 マーキングとはどう言う意味か、ルルクに聞き返さなかったけど、私の解釈通りなら時限爆弾を持たされるような物なのだろう。

 

『その言い方だと、他の街がどうなってるか知ってる言い方に聞こえますね』

『知らない、興味もないし。でも漂う空気的に、魔障の規模は世界中に及んでるだろうね。ここで疑問なのは、何で龍が動いてないのかってとこなんだけど……』


 思考の隙間を縫うように、テレウスが声をかけてきた。


「そう言えば君達二人は帝都まで来るつもりないんだろう?」

「ないですね」

「私は……アイラと行くって決めたから……」

「じゃあ、お金はどう集めるつもりなんだい? 僕と一緒に来ないと一文無しのままだけど……」


 鋭い指摘である。


 ……その問題、確かに深刻だ。

 だが、口調や仕草の端々に「一緒に来てほしい」という下心が透けて見えて、どうにも鼻につく。

 ここまで来ると、逆に意地でも行きたくなくなってきた。


 そんな私の胸中を見透かしたように、隣のヴュステが静かに口を開いた。


「……私達は旅人」

「? えぇ、そうですね」

「そこの人間族も旅人でお金を稼いでる。それも、旅をしながら」


 ああ――そういうことか。


「つまり、私達も冒険者になれば金の問題は解決する、という事ですね」

「ん」


 理屈は単純だが、筋は通っている。

 どうせエメアを探すために、各地を転々とすることになる。

 ならば冒険者という肩書きを持つのも、悪くないかもしれない。

 知識は乏しいが、冒険者の門はそこまで狭くないはずだ。


 だが、テレウスは露骨に顔を歪めた。


「えぇ……冒険者なんて碌な仕事じゃないよ。危険だよ??」

「もう危険な事は充分やってきてます。そんな気味の悪い引き止め方をしたって無駄ですよ。帝都に行くつもりは毛頭ありません。それに、貴方は私に借りがあることをお忘れなく」

「うっ、そうだった。……仕方ない、冒険者ギルドまで案内するよ」


 その時、御者席のルルクがこちらを振り返った。


「ギルドならすぐ近くだ。俺は他に寄るところがある。冒険者として活動するつもりなら、3人共ここで一旦降りてくれ」


 私達は頷き合い、馬車を降りる。

 石畳に靴底が触れた瞬間、都市の喧噪が一気に肌に流れ込んできた。


「さて、それじゃあギルドに向かおうか」

「はい」

「ん」

「…………君たちって、なんかこう……感情の起伏が薄いよね」

「そんなことはないと思いますけど」

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