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邪神の使徒になった転生少女の冒険録  作者: 中毒のRemi
第二章 人形期 冒険者編
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第27話 山では負け知らず、一騎当千の人形少女

 陽は既に傾き、木々の隙間から漏れる光が赤みを帯びていた。

 私は山道を走る。息を殺し足音を抑えながら。

 だが、追手の気配は消えていない。むしろ、じわじわと距離を詰めてきている。


 ――まぁ来るとは思っていた。

 来ない理由がない。


 昔の魔術が使えず索敵が出来なくなっても、流石に数年間の山暮らし経験があるので、敵に囲まれているくらい分かる。

 このまま走っていても逃げきれない。

 ヴュステを捨てる……もしくは自分の空間に格納出来るなら、この体調でも逃げれない事も無いのだが、あの空間に人を招くなら流石に誰かで、人体実験をした後にしたい。


 私は走るのをやめた。

 そして、息を吐きながらヴュステを腕から下ろす。

 そっと、木の根元に横たえた。

 そのまま腰を下ろし、追手が姿を現すのを静かに待つ。


 ほどなくして、木々の間から現れたのは――ラックスだった。


「なんだ、もうギブアップか?」

「えぇ……このまま走っていても逃げきれないのは分かっているので」

「へぇ、潔いじゃねえか」


 追いかけて来たのは彼だけでなく、ラックス率いる軽装備の獣人が四人。

 武器を構え、私達を囲むようにエリアを取り、こちらに圧を掛けている。


 対してこちらは戦闘不能寸前のヴュステと、私の空間内にある短剣が一つ、そして同じく中にある赤い石ころが一つである。

 赤い石ころの方は何故か、ポツンといつの間にか置いてあったが、

 おそらく色合いからして神様が私の体内にある魔障を、結晶にでもして抽出したものだろう。

 神様と前回出会った時に片手でなんか持ってたし。

 

 ……う〜ん、この条件で戦うのは少し怠いかもしれない。

 

 この状況での戦闘は、相当な消耗を覚悟しなければならない。

 何より――不殺でいくのは、まず無理だ。


「さあて。どうしてこんな馬鹿な真似をしたか話してもらおうか」

「話しませんよ。貴方みたいな頭が悪い相手と会話したくないんです。時間の無駄なので」

「そうかよ!じゃあテメェはこのまま足を切り落として連れ帰ってやる!痛くしないでやるから、動くなよ!!」

 

 彼らが私を殺せないのは分かっている。

 癒し手である私は、魔障に蝕まれた獣人族にとって唯一の希望だ。

 ヴュステにしても、彼女の血に対する制約がある以上、手は出せない。


 彼らにとって優先すべきは、おそらく私の肉体。

 生きたまま連れ帰ることは最優先事項だろう。


 ラックスが吠える。


「お前ら!かかれ!!」


 その一声で、彼の背後に控えていた獣人たちが動く。半円を描くように私を包囲しながら、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

 

 私は木に背を預け、片手で幹に触れながらゆっくりと立ち上がる。

 かすかに息を整え、視線だけで獣人たちの位置を把握する。


 ラックスの口角が歪む。


「やる気か?」

「――一つ忠告です」


 言い終えると同時に、空間から短剣を抜き出し、そのまま腕を振りぬく。

 鋭い風切り音と共に短剣は真っ直ぐ――獣人たちの足元へと飛び、地面に突き刺さった。

 

 ピクリと動きを止める者が数人、だがそれは一瞬だけ。

 彼らはすぐに、牙を見せたような笑みを浮かべる。


「それ以上、踏み込むなら――死ぬ覚悟をしてきてください」


 私はそう言い切る。


 静寂。

 風の音すら止まったような、冷たい空気が流れた。

 だがそれを破ったのは、やはりラックスだった。


「んな言葉に構うな!ソイツは一度俺に負けてんだ!!手柄が欲しいんなら進め!!!」


 その言葉に彼らは再び足を進める。

 短剣の刺さったラインを、ためらいもなく越えた。


 ……本当に仕方のない人達である。

 自分の命が惜しくないのだろうか。

 私も疲れているので、お互い見なかった事にしてwinwinと行きたかったものだ。


「…………はぁ」


 私は木から手を離し、わずかに腰を落とす。

 その瞬間、空気を裂くように踏み込み、獣人の間合いへと突入した。


 速さに反応できた者はいない。

 短剣を抜き返すと同時、目の前の男の喉元を横に薙ぐ。


「――まずは一人」

 

 呻きもなく崩れ落ちた獣人の手から、即座に槍を抜き取る。

 触れた瞬間、私はそれを自らの空間へと収納し、反動を利用して一気に木々の上へ跳ね上がった。


「は、はぁぁ!?!?」

「速すぎる!?」

「……見えない」


 ざわつく視線の中、私は枝から枝へ、

 軽く跳ねるように移動していく。


「もしこのまま逃げてくれるのなら、これ以上手出ししません――大人しく手を引きなさい」

「はっ、誰が引くかよ!! 一人殺ったくらいで調子に乗るな!!!」


 言うなり、一人が地を蹴ってヴュステへと向かい、その身体を前に引き寄せるようにして立ちはだかる。


「こ、これなら手を出せないだろ?!」


 ヴュステの肩を掴んで押さえるその様子に、私は軽く息を吐いた。


 彼女はあんな事を言っておいて、のっけから足手まといである。

 まぁ、今回のはノーカウントしておこう。


 木々の影から、私は一人の獣人へと狙いを定める。

 次の瞬間、腕の奥で生まれたしなりと共に、槍を放つ。

 風を裂く音の後、金属が肉にめり込む濁った音――槍は、まっすぐにその額へと突き刺さっていた。


 その刹那。

 残った一人、ヴュステを盾にしている男の死角へ、私は木の幹を滑り落ちるように高速で接近。

 後方に立った瞬間、男の背に手を添え、ふっ、と音もなく彼の姿が空間に沈む。


 ヴュステの身体がぽとりと地面に落ちた。


「問題なく生きている人も、収納できるようですね」


 とはいえ、魔障そのものをジャストで吸い込んだように、なんでもかんでも空間内に引き入れると私の命が危ない。

 触れた感じだとこの獣人もかなりの少量だが、魔障を患っているようだ。

 すぐに吐き出さないと。


「さて――残るは貴方一人です」


 雪煙の向こう、ラックスが目を見開いていた。

 

「……ルナークが消えた?」

「心配しなくても私が持ってますよ」


 私は空間を裂き、ルナークと呼ばれた男の身体を引き摺り出す。

 現れた瞬間、その首筋めがけて短剣を投擲。

 刃が肉を裂く、鈍く湿った音が響いた。

 

「くっ……!?やってくれたな、クソガキがぁ!!絶対に許さねえぞ!!」

「仲間を想う気持ちがあるなら、追撃なんかせずに村の中で籠ってて欲しいものです」


 私は淡々とした声音のまま歩み寄り、男の首から突き出た短剣を引き抜く。

 

「殺した側がそれを言うのか!」

「……ラックスさんは人と殺し合うのは初めてですか?」


 ――私とこの男の会話が噛み合う事はない。

 彼と私の熱はどうしようもないくらいに違いすぎる。

 

 これはもう少し、頭の良い人間相手なら幾許かの選択肢もあっただろう。

 私の言葉をしっかり聞けて、関係をある程度築こうとする相手に、選択肢は限るが。

 

 私はこれ以上病を癒すのは不可能で、ヴュステ自身は直接的な魔障の発生源では無いのだから、戦うだけ無駄なのだ。

 だが、この件をそのまま伝えても、絶対に信じて貰えない。

 というかお互いに信頼関係が欠け過ぎている上に、価値観が違いすぎる。


 やはり話し合いという選択を、取る事はできないのだろう。

 

「私はさっき忠告までしてあげたんですよ。それを無視して掛かってきたのは貴方達の方です」


 ラックスの怒声が空を裂いた。


「敵討ちがしたいのなら――どうぞ。死ぬ覚悟を決めて、かかって来て下さい」


 彼の剣閃が火花を散らすように私へ迫る。


 私は半歩だけ身を引いて、彼の腕の動きに合わせて軸を滑らせた。

 手の内から力が抜ける瞬間を見逃さず、彼の剣柄を指先で弾き、奪い取る。

 

 言葉の終わりと同時、私は空いている足で、彼の腹部に膝を叩き込んだ。

 重い衝撃音。ラックスの身体が曲がる。

 呻き声すら上げきれず、そのまま背後の木へと叩きつけられた。


 私は奪ったその剣をくるりと回し、迷いなくそのまま――彼の胸をめがけて投げ放つ。


 ぐしゃりと音がして、ラックスは木の幹にもたれかかるように崩れ落ちた。

 

「終わりですね」


 口から漏れたのは、呆れるようなため息だった。

 

 思ったより初めての殺人は何も感じなかった。

 

 まぁ、まともに人肌を斬ったのは一度だけ。

 他は武器を投げつける形で、終わらせたのもあるかもしれないが。

 

 それに、学んだ魔術を戦闘で使う機会は無かった。

 今度から余裕がある時に、意識して使わないといけない。

 じゃないと、余裕がない時に咄嗟に出るわけがないのだから。


 私は血溜まりを避けながら、倒れているヴュステへと歩み寄る。

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