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邪神の使徒になった転生少女の冒険録  作者: 中毒のRemi
第二章 人形期 冒険者編
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第22話 私にしか出来ない依頼

 予想の斜め上――という表現すら生ぬるい。

 ストゥルトの口から飛び出したのは、まさかの人殺しの依頼だった。


「正気かよ!ストゥルト!!」


 思わず隣で叫んだのはラックスだったが、その言葉は私の心の声とまるきり一致していた。

 いや、本当にその通りである

 頑張ってこの狂人を止めてほしい。

 

「正気に決まっている。俺たちや村の人間に出来ないことだ。だったら外の人間に頼むしかあるまい」


 ……あぁ、そう。

 村単位で狂人の集まりなのか。

 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。


「…………」


 ……どうしようかな。

 今の私の最優先事項は、エメアを見つけ出すこと。

 体が変わる前ならともかく、別に彼女以外の人間を殺す事に、今の私は…………おそらく躊躇ったりしないだろう。


 だが、一つ問題がある。

 この依頼を受けるメリットが全く無いことだ。

 私は何でも屋では無いので、金の取引無しで動いたりしない。

 そしておそらくエメアがこの集落にいないことも分かったので、私はもうここに用は無い。


 というか……


「自分でやれば良くないですか? 5歳の子共相手ですよね、大の大人が数人がかりで殺せない――なんてことはあり得ないでしょうし」

「それがあり得るんだ」

「えぇ……」

「これも少し話が長くなるが――」




 ---




 ストゥルトの話によれば、ヴュステの殺害を村として決定したのは、今から二年前のことらしい。


 決行は数十回に及んだ。

 しかし、いずれも失敗に終わったという。

 斬る、刺す、首を絞める……あらゆる手段で命を奪おうとしたが、いざ“決定的な一撃”を加えようとする瞬間、誰の身体も動かなくなるのだと彼は言った。


 殺意を持った刹那、まるで何かに腕ごと意識を凍りつかされるように、筋肉が硬直し力が抜けるらしい。

 ひどい場合には意識を失い、そのまま数時間動けなくなる者までいたという。


 そして村の大人達が全員で殺害を試みたが上手くいかず、それならば外の人間族であればどうだろうかという事で、私にお鉢が回ってきたわけだ。

 なんとも狂っている話である。


 あの獣人の子供もこんな村人達に付き合ってないで逃げれば良いのに。

 5歳児の頭ではそんな事も分からないのだろうか?


 私はストゥルトに視線を向ける。


「ちなみに報酬はあるんですか?」

「大銅貨3枚。これでどうだ?」


 大銅貨3枚。

 この男は仮に、他の種族の村が危機的状況で助けて欲しいと頼み込み、提示した額がこれで依頼を承諾するのだろうか?


 と言っても、私は肉体が変わり能力が使えなくなった関係で、手持ちのお金どころか所持品の全てをロストしたわけで……

 大銅貨3枚という端金であっても、これからの旅の資金的にはかなりありがたいわけだが。


「報酬は依頼を完遂した後、私が決めるというのでどうでしょうか?」


 返答に期待していなかったので、少し冗談めかして提案してみたが、反応は即座に返ってきた。

 

「はぁ!?舐めてんのかガキィ!!」


 怒号と同時に、ラックスがこちらに飛びかかろうとする。

 だが、その前にストゥルトが手を伸ばして彼を制した。


「良いだろう。ただし、俺たちの村に潤沢な資金があるわけではない。現実的な額の提示を頼む」

「もちろんです。私は子供に見えるかもしれませんが、そのへんは心得ていますから」

 

 値段の交渉は、双方の事情を加味しなければならない。

 とはいえ――さすがに最初の提示額では、中規模都市の関門すら通過できない。

 釣り上げる余地はある。

 むしろ、なければおかしい。

 

 『……本気であの子供を殺すつもり?』

 『さあ?どうでしょうか。今のところは流れに任せるつもりですけど」

 『流れ……ね。じゃあ流れついでに、目の前にいる人達から武術の基礎でも教わったらどう?』

 『えぇ。嫌ですよ、めんどくさい』

 『アイラ、あなたの記録を見る感じだと、たぶん()()()()()の権能の一欠片で、今までの戦闘が成り立ってたんだと思う。それが使えない今、これからどうするつもり?』


 ……おぉふ。

 ヴィーミルの権能というのはあまりに初耳だけど、それは一旦置いておこう。創世神の話は今は重要ではない。

 

 確かに現状の私は空にとどまる事もできない、完全な凡人だ。

 この状態であの時のような人攫いや魔物達に出会ってしまえば、私はきっとなす術もなく殺されてしまうのだろう。

 流石にここは神様の提案を受けておくのが良いかもしれない。


 『確かにゼレシアさんのいう通りです。私はそれに反論できる答えを出せません』

 『そうだよね』

 『なので頼むだけ頼んでみます』


 顔を上げると、ストゥルトがこちらを訝しげに見ていた。


「異常なくらい真剣に思考に耽る人間だな」

「癖なので。…………それとついでに何ですが、私に武芸を教えて頂けないでしょうか?依頼を達成する上でもきっと役に立つと思うんです」


 こちらの申し出に、ストゥルトは少し眉を寄せてから、顎を撫でるようにして言う。

 

「それは構わないが、お前の体にはほとんど魔力が通ってないように見える。たとえ技術的な才能があったところで、使い物になると思えんが」


 んん……?

 魔力が通っていない?

 そんなことはないと思うけど……


 『そいつの言っている事は気にしなくても良いよ。妾という蛇口が存在しているせいで、アイラの魔力の殆どが外に漏れ出ないだけだから』

 『なるほど……それにしても今日はやけに喋るんですね、ゼレシアさん』

 『今の言葉にイラッとしたかも。戦闘中は魔力で身を固めるの禁止ね』

 『えぇ!?それは酷いですよ!!絶対怪我するじゃないですか!!!』

 『問題ないよ、妾の体を使ってるんだし、多少の基礎は体が覚えてるよ……たぶん。それに痛み無しじゃ学びにならないでしょ』


 確かに痛みで学ぶ事もあるだろう。

 神様の話に一理ある……と思いたい。


「問題ありません。お願いします」





 ---





 話はすぐにまとまり、私たちは再び外へ出る。

 訓練所のような設備は存在しないこの集落で、戦いの場となるのは村の中心部。

 広場と呼べるほどの空間がそこにはあり、すでに何人かの獣人たちがちらりとこちらを見ていた。


 そして、ストゥルトの教え方もまた、神様と似たものだった。

 基礎の姿勢や構えから叩き込むような手順はなく、初手からいきなりの模擬戦――木剣を握り、一対一で立ち合う形式を選ばされた。

 痛みをもって教えたいらしい。


 手渡された木剣を握りしめ、私は村の広場に立った。

 獣人の子供ですらそれなりに訓練された動きを見せていたこの場に、人間、それも子供の姿を晒すのは……思った以上に目立つようだ。


 修練の手を止めた何人もの視線が、私に向かって集中する。

 その中には好奇心もあれば、冷笑も、侮蔑もあった。


「人間の子供……?」

「なにあの服〜!きたな〜い」

 

 ……心に刺さる。

 獣の皮で体をくるんだ、かろうじて“布”と呼べるような服装では、たしかに文句を言われても仕方ないのだろうけど。

 でも、できればその言葉は聞こえないで欲しかった。


「おいストゥルト! 俺に人間の相手をやらせろ!!」


 間の悪いタイミングで、あの男――ラックスが声を張り上げて割り込んでくる。

 待ってましたとばかりに。

 

「それは構わないが……」


 ストゥルトがそう言いながら、無言の確認を込めて私の方に視線を向けてきた。


 相手は、こちらを見下すことに一切の遠慮がないタイプだ。

 手合わせの相手として、これ以上気分の悪くなる存在もそういない。

 けれど、今さら拒否して話をこじらせるのも面倒だった。


「私も大丈夫です。好きにしてください……」


 短く応じると、ラックスが得意げに大股で近づいてくる。

 木剣を肩に担いで、私の目の前に仁王立ち。


「おいこら人間!!」

「そんなでかい声出さなくても聞こえてますよ、ラックスさん。何ですか?」

「俺が勝ったら、ストゥルトが最初に出した条件で仕事をしろ!」


 そんな相手有利なこの条件で、YESとは頷きたくないけど『その条件で引き受けて』というまさかの神様からの茶々が入ってしまった。

 今日はどうやら暇な日らしい。

 神様の私から目を離してくれないようだ。

 

「良いでしょう。ただしこちらが勝ったら服を下さい」

「服だぁ?んなのどうでも良い――」

「私には、とても大事なことです」


 私は言葉を被せて断言した。


 ラックスは訝しげに眉をひそめるが、あっさりと頷いた。

 

「??……まぁ良いか」


 そして広場中に響き渡る声で、彼は吠える。


「みんな見ててくれよ!!俺は他種族にも負けない戦士だってことを証明してやるぜ!!!」


 ……暑苦しい。私に武芸を教える気が無いのが見て取れる。

 

 そしてその叫びの余波で、広場にいた者たちの向いていなかった視線が一斉にこちらへと集まってしまった。


 ただ流石に周りの反応は普通なようで「何を子供相手にそんな熱くなってるの?」と言ったのが半数、人種差別的な声を飛ばしてくるのが半数と言ったところのようだ


「双方準備は良いか?」


 ストゥルトの声が空気を引き締めるように響いた。


「当然だ!」

「はい……大丈夫です」


 返答するラックスの声音には、気負いと昂りが滲んでいた。

 対して私は、まだこの身体に慣れ切れていない。ようやくまともに歩けるようになったばかりの身で、これから一戦を交える。

 

 ここまできては仕方ないので、暫くは攻撃を必死に受け止めるとしよう。

 まぁでも――自分が怪我をするビジョンが全く見えないし、きっとどうにかなるだろう。


 そしてストゥルトは試合開始の合図をあげた。


「では――始め!」

 


 

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