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売約

『続きましては本日の目玉商品!黒髪!黒目!女!リジュール人!』


「リジュール人?」

「おいおいリジュール人が目玉とか何の冗談だよ。」


『ケー・ジョンス氏直々の紹介です!』


「何だって!?」

「嘘だろ!?ケーってあの伝説の…」

「引退したんじゃ無かったのか!?」


 ケーさんに引かれて、僕はステージに立たされた。

 僕の前に此処に立ってた子は等しく皆泣いてたけど、僕に関しては、悲しいとかそう言う気持ちは相変わらず一切湧かなかった。

 むしろ、少し好奇心みたいな物さえ感じる。


「調教歴一切無し!然しこの通り、奴隷としての運命を自ら心から受け入れております!」


 皆お金持ちそうだ。仮面で顔を隠しているけれど、僕でも知ってる有名な人もいっぱいいる。大抵はドールだった頃に見聞きした情報ではあるけど。


「非処女と言う欠点を補い余りある品位!そして愛らしい美貌!これほどの最上級品は早々お目にかかれるものでも無いでしょう!」


 もしかしたら僕は、人間扱いされない事に慣れきってしまったのかもしれない。


『おおっと早速4番フロアの紳士が800万ロイス!次いで9番テーブル850万!これは凄い!値段がどんどんつり上がっていきます!』


 既に僕が一生働いても稼げない様な額になってる。

 お金ってすごく不思議だ。


『1億ロイス!大台に乗りました!』


「僕…高級品だ」

「貴女は実に幸運ですね。この額に行けばもう、人肉愛好家や剥製コレクターは手を出せません」


『まだまだ上がります!1億250万!1億500万!』


 凄く、複雑な気持ちになった。

 僕以外に捕まってた子達の中には、食べられたり剥製にされたりする子も出るのだろうか。

 幸せに暮らしてて、でもある日攫われて、家族にも二度と会えないまま、暗い地下室かどこかで、暗くて深い絶望と苦痛と一緒に…


「…ジュル」


 …え?これ、唾?僕の?何で。


『何という事でしょう!今の一瞬で突然10億に跳ねました!提示者は10番テーブル。ウェリウス・ランドリー氏!』


 それ以上値段は上がらなかった。

 つまりウェリウスってが、これから僕のご主人様だ。



 ………



 そこから先は割とあっという間だった。

 オークションが終わったら直ぐにウェリウス…ご主人様がケーさんと軽い手続きをかわして、僕の首輪に対応してる命令用魔導具を受け取って僕を連れ帰る。それだけ。

 今はご主人様の車の助手席に乗ってる。カーナビとかエアコンがあるので帝国産の高級車だ。


 そしてとうのご主人様は。


「嗚呼神よ。私にこの出会いを授けてくれた事に感謝します。」


 上下黒スーツに黒髪、そして赤い瞳ととんがった耳。

 魔族だ。


「ふっふっふ。人間を飼うのは久々でね。もし何か不備があったら遠慮なく言ってほしい。ああ後は、僕の事は気軽にご主人様かウェリウス様で良い。いや、パパとかでも良いなぁ。上目遣いでこう。ふっふっふ。」


 多分変態さんだけど、とりあえず僕の事を剥製にしたり食べたりする様子は無さそう。


「………」

「ん?遠慮なくしゃべって良いよ。私の事は家族と思ってくれていい。」

「あ…それじゃあ…」

「かーっ!なんて美しい声だ!はかなげで、それでいて凛としている!…あ、ごめんね!続けて!」

「僕の名前は…」

「ぐっふ!良い!尊い!実に素晴らしい!えこれ本当に僕が貰って良いの?てかさっき僕10億しか払ってなかったっけ?5000億とかじゃなかったっけ?」


 魔族って事は、きっと僕は一生この人に飼われる事になる。寿命的に。

 そのことを思うと凄く不安になってきて、でも同時に淡い期待もあった。

 此処が僕の居場所なのかも、ていう。


「僕はジルって言います。これからよろしくお願いします。ウェリウス様。」

「え…今私の事を名前で…キャ―――――!」


 ともかく、僕を気に入ってくれたなら何よりだ。



 ………



「え…これ…」

「遠慮なく入って!こう…隙間から!」


 どうやら、僕のご主人様はゴミ集積場に住んでるらしかった。


「ごめんねぇ。最近は動けない患者さんばかりを相手にしてたから、掃除する時間が無くってね」

「分かりました」


 最初の仕事が決まった。


「掃除します。」

「え?良いよ良いよ。とても人間に、ましてやボウフラ並みに貧弱とか言われてるリジュール人に出来る量じゃ…え、できるの?」

「なのでご主人様。僕にそう命令して欲しいです。」


 あくまでも、僕とこの人は主従関係。

 この要求どちらかと言えば、僕の心の為だ。


「あ、そっか。そうだよね。分かった。オホン。"主の名において命ずる。僕の家を綺麗にせよ!"」


 それを聞いた瞬間、不思議な感覚が僕を襲った。

 強制的に僕の身体の主導権を奪われる感触。凄く、馴染み深い。慣れた感覚。

 でも完全サイボーグだった頃のそれよりかは比べ物にならない程緩い。この程度であればむしろ、迅速に仕事をこなすための追い風にできる。


「御意。」


 そこから先はもうめっちゃくちゃだった。

 先ず目に入るゴミを手当たり次第に家の前に出して、掘削しながら奥へ進んでいく。


「うわ、思ったよりすごい量だ。ジルの為にもいつもの業者さん呼ばなきゃ。」


 だんだんとゴミ袋に入ってないゴミが目立つようになってきたら、まだ余裕のあるゴミ袋を手に詰め込んでいく。

 丁度トラックが来たので、家の前のと合わせて全部持って行ってもらった。凄く古びているのを見るに、遠い昔に帝国から買ったのをずっと使っているんだと思う。少しけなげだ。


 ゴミがあらかた片付いたら、次は小物整理の時間。

 ご主人様はお医者さんらしい。散乱する道具が全部外科手術用の奴だ。あちこちには多分帝国産の凄い機械が揃っている。

 もし僕なら、拾ったメスでお腹を切られるのとか絶対に嫌なので、道具は全部それらしい場所に纏めていった。

 後はベッドを整えて、一先ずは完成。


「ふぅ…終わりました。ご主人さ…」


 おかしい。

 急に視界がぐわんぐわん揺れて、平衡感覚が分からなくなってくる。

 そうか、首輪の強制力で動いてたから、僕の身体のキャパシティが…考慮されて…な…



 ………



「………ん…?」

「あ。目が覚めたかいジル。ごめんねぇ。この首輪、対象が命令に従いたくないの前提で作られてるみたいでさ。」

「構いません…これも学びです…」


 僕は、それはもうふっかふかのベッドで目を覚ました。

 集落は愚か、村で普通の女の子だった頃でさえこんなに良い所では寝た事は無かった。


「えっと、じゃあじゃあ、君が嫌がりそうな事を頼むときだけ使う。で合ってるのかな。」

「そうなりますね。」

「じゃあ…例えば………ご…ごご…ご奉仕しろ…とか…?」

「構いませんよ。いつでもどうぞ。」

「えぇ!?嘘でしょ!?君本当に人間!?上手い事作られたゴーレムとかじゃないよね!?」

「作られた…ゴーレム…」


 そうかもしれない。

 思えば、あの日勇者に土下座をした時から、僕の心の中で何かが変わったのかもしれない。

 体はもうすっかり隷従に慣れていて、でも心は自由を求めてて、でも。

 自由なんてないって知って、この世界はどうしようもなく理不尽だって理解して、僕は。

 諦めた、のかも。


「従順な奴隷はお嫌いですか?」

「いや別に?そんな事はないけど、少し珍しいかなって。」


 自分に付いている隷従の首輪をさする。

 これがある限り、僕はもうどんな命令にも逆らえない。

 盗みでも、殺しでも、ご奉仕でも、自害さえも。


「ご主人様…もし、僕の事に飽きたらどうしますか?」

「ん?その時は殺して新しいのを飼うかなぁ。どして?」

「もしその時が来たら、僕の事を…」


 胸が高鳴る。

 体が火照る。

 違う。

 諦めなんかじゃない。


「今までの人生全部を後悔する程、痛くて辛くて苦しくて、むごたらしい殺し方でお願いします。」

「うげー。君ほんとに変わってるねー。おっけー」


 僕は堕落に、破滅に恋をした。

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