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004 神託

設定盛り盛り説明回です。

この世界の北端、吹雪と霧が交錯し、凍てついた風が大地を裂くように吹き荒れる辺境の地に、マグナ王国の最果てにして最後の城塞都市──シュトラーがある。


シュトラーはただの雪に閉ざされた孤立した街ではない。数世代にわたり築き上げられた高楼と防壁、精緻な防衛魔法陣が張り巡らされた砦は、北方の守護都市としての機能と信仰の拠点としての荘厳さを併せ持っている。


この街に暮らす者たちは、剣を振るい、魔法を操り、祈りを捧げ、そして何よりも“語り”を信じていた。語りの神ナスレスクが紡ぐ物語の一節として生きることこそ、彼らの日常であり誇りであった。


その名を冠する最大の脅威が、北に広がる“シュトラー大森林”である。


この広大な森林地帯は、かつて“樹の神”シャーレヌスの加護を受けていたとされる聖域であった。豊かな自然に満ち、季節の移ろいが繊細に表現される森は、人々にとって憩いと信仰の象徴だった。


だが、時代の流れと共にその森は変貌を遂げた。


無貌魔──理性も感情も持たず、本能のみで動く恐るべき魔物たちがその地に巣食い始めたのである。木々の根の間から這い出で、夜の帳とともに現れては人々の暮らしを襲うその存在は、次第に森の神聖さを侵食し、やがて誰も足を踏み入れぬ禁忌の地と化した。


三柱の神がこの地を見限り、遠く別の世界へと旅立つとき、それぞれが呪いを残したとされる。その結果生まれたのが無貌魔だという説は、今や多くの人々に信じられている。


争いを憎んだ神は、他者を傷つける者たちへの罰として。

自然を愛した神は、均衡の破壊者への浄化として。

自由を司った神は、乱れた流れを正すための鎮めとして。


こうして異なる起源を持ちながら、無貌魔という災厄が生まれた。


だがその中でも、特に恐れられている存在がある──“エルフ”。


無貌魔の中にごく稀に現れる、知性と意志を持った個体。

彼らは言語を操り、道具を使い、他の無貌魔たちを指揮する。時には策略を弄し、時には人語を囁きながら人々を騙し、滅ぼす存在。その存在の目撃談は極めて少なく、しかし語られるたびに、その恐ろしさは幾度となく強調された。


そして今、シュトラーの街ではその“エルフ”が再び姿を現したのではないかという噂が、風のように広がっていた。広場で商人たちが囁き、学び舎で師が筆を止め、教会では祈りが一層長くなった。


最近、北の森に派遣された紡遣者の帰還が途絶えていた。


紡遣者とは、語りの神ナスレスクの啓示を受け、世界に新たな物語の道筋をつける者たちである。

彼らは辺境を拓き、魔物を討ち、失われた伝承を拾い集め、人々に語りをもたらす存在として知られている。


その紡遣者たちが、ここ最近、不可解な形で次々と姿を消していた。依頼から戻らない者、報告の途絶えた者、あるいは装備だけが焼け焦げた状態で発見された者もいた。


彼らの記録魔道具は無力化され、装備は灰となって帰ってきた。まるで“語り”そのものから抹消されたかのような痕跡だった。


そんな折、老司教トゥルパンのもとに神託が下された。


『トゥルパン、導きの司よ。北の森に、言葉なき者の中に、語りを宿す影が現れる。その影こそ、物語を継ぐ鍵となる』


その言葉は、紛れもなく幼い頃のトゥルパンの声であった。

それは祝福であり、啓示であり、同時に──新たな試練の幕開けであった。






神託が告げられた直後、その光が消えるか消えぬかの刹那。


どこか別の場所──神々の見下ろす虚無の座にて、ナスレスクは玉座に膝を抱えながら、にやにやと嬉しそうに笑った。

「これで舞台は動き出すのさ。……楽しみだなぁ。どんな悲鳴が、どんな涙が、どんな物語が待ってるのかな……うふふ」


彼は自らの頬を叩いて整え、満面の笑みで言った。

「さあ、続きを語るのさ──」


嗜虐と愉悦がないまぜになったその声は、まさしくこの世界の“語り”そのものだった。






この神託を受け、教会は緊急に調査隊の編成を決定した。だが慎重を期すため、まずは斥候として数名の紡遣者のみを森へ送り込んだ。

福音騎士たちは街に留まり、斥候たちの報告を待つ態勢をとった。


騎士と紡遣者たち──両者には古くから根強い確執があった。


教会に所属する騎士たちは“聖なる義務”を担う存在として無償での加護と治療を受けられる一方で、紡遣者たちは怪我をすれば多額の寄付金を支払って治療を受けなければならなかった。そのため、紡遣者たちはしばしば傷を抱えたまま森へ赴き、命を落とすこともあった。


騎士は紡遣者を「神の威光を借りて荒野を食い荒らすならず者」と見下し、紡遣者は騎士を「戦闘力に乏しく、装備と家柄の七光りだけで威張るいけ好かないボンボン」と鼻で笑う。そうした互いの認識のずれは、日常の小さなやりとりの端々にも現れていた。


表向きは協力関係にある両者だが、その裏には静かな敵意が燃えている。街の広場では、装飾過剰な鎧を身にまとった騎士が、ぼろぼろのマントと実用一辺倒の装備を身に付けた紡遣者を見下し、紡遣者は鼻を鳴らして無視する。だが、どちらも無貌魔の脅威に抗うという一点では一致しているのだった。

まとめ。

無貌魔──いわゆる魔物。いろんな形だけど共通してるのは、のっぺらぼうなことだけだよ。

エルフ──理性のある無貌魔。この世界のエルフはエロフではない。

紡遣者──いわゆる冒険者。

騎士──上位の序列からそれぞれ天律騎士、聖典騎士、福音騎士。福音騎士でもめちゃエリート。福音騎士1人でも中位の紡遣者3人くらいと互角くらい。

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