003 ナギ、降り立つ
お昼頃に書いたやつはやっぱ無しです。今後もこういうことがあります。
このお話は作者が読みたいドンピシャのお話がないから書いてるだけの自己満文章なので許してネ
──気がつくと、凪は地に伏していた。
背中に感じるのは、冷たくざらついた石の感触。苔むした湿気が衣服を通じて肌に染み込み、異様なほど静まり返った空間が、彼の耳を包む。
「……ここは……」
目を開ければ、天井の一部はすでに崩れ落ちており、その隙間からは抜けるような青空が覗いていたがどこか沈鬱で、風の気配さえ感じさせない。微かな光が差し込んでいるにもかかわらず、空気は沈みきっていて、まるで時間そのものが止まっているかのようだった。
あたりを見渡せば、そこは巨大な神殿の内部だった──あるいは、かつて神殿であった場所の成れの果て。
崩れた柱が無造作に転がり、壁は半ば崩壊して外の景色が覗いている。そこから見えるのは、果てしなく続く濃い緑の森のみだった。視界の果てまで木々が連なり、文明の影はどこにも見えなかった。
──あの神殿と、よく似ている。
ナスレスクと邂逅した、あの神秘的な空間。 だが、決定的に違う。
この場所には、あの神殿にあった“神聖さ”が欠片も感じられない。
空気は重く、空間は濁り、かつて神の声が響いたであろう祭壇は、いまやただの瓦礫の山だ。
だが凪の心は、なぜか澄んでいた。
そして──
「……あは……ははは……あははははっ!」
乾いた笑いが喉の奥から迸った。 喉が裂けるほど嗤い、腹を抱えて倒れ込む。
狂気にも似た嗤いだった。 それは絶望でもなければ、錯乱でもない。
──ようやく掴んだ、復讐の糸口。
怒りをぶつける相手がいた。
殺すべき相手がいてくれた。
そして、殺すべき相手に手が届くかもしれない。 それだけで、希望があった。
「ナスレスク……ナスレスクゥ……お前を……殺してやる」
凪の目は笑っていない。 その瞳に浮かんでいたのは、冷徹な怒りと、燃え上がる執念だった。
「この命……この魂……全部くれてやるよ。だから、殺させろ。絶対に、殺してやる」
その瞬間、彼の心に芽生えたのは“信仰”ではなかった。 それは“信念”でもなく──“執念”だった。
立ち上がると、軽く拳を握りしめる。 その手に力が宿る気配はなかった。 だが、彼の内には確かに、熱があった。
「……まずは、スキルの確認だ」
意識を内側に向け、頭のなかに浮かび上がる“契約の記憶”を探る。
1. 並列思考──複数の事象、複雑な計算、同時処理を可能とする思考の拡張スキル。
2. 魔法創造──この世界に存在しない魔法を、魔力を消費して創り出す能力。
3. 魔力上限無限──魔力の保持量に上限がないスキル。ただし、初期値は10。回復は、現在の保持量の1%ずつしか増えない。
「……保持魔力、10か。……笑えるな」
それは、まるで空の器。
満たされる見込みのない水瓶を持たされたような感覚。
「──いや、それでもいい」
最初はゼロだった。 だが今は、ゼロじゃない。
魔力というものの正体もわからない。 どこに存在するのか、どう感じるのかもわからない。 目を閉じ、耳を澄まし、指先を大地に押しつけてみても、何ひとつ掴める感覚はなかった。
けれど、構わない。
いずれ理解できる。 必ず、力を得る。
「そのためにも──まずは文明圏を探さないとな」
朽ちた神殿に、いつまでも留まっているわけにはいかない。 ここがナスレスクの意図によって配置された“スタート地点”であるなら、何かしらの意図や導線が用意されているはず。
「……見つけてやるさ。ナスレスクの作った“物語”の、綻びをな」
背後で崩れかけた石壁が音を立てる。 振り返らずに、凪はその一歩を踏み出した。
神殿の外、濃密な森の息吹が空気を変える。 風が、音を連れてきた。 木々がざわめき、鳥の影が一瞬よぎる。
生きている世界。
──だが、それは同時に、神の掌の上だ。
「ナスレスク……」
その名を呟いたとき、凪の胸に再び熱が灯る。
それは呪詛でも、祈りでもない。 ただの“誓い”だ。
必ず、この手で殺す。 この歪んだ神の物語に、終止符を打つのは自分だ。
踏み出した一歩は、まだ不安定だ。 だが、確かに始まった。
森が揺れる。 風が吹く。 そして、世界が、ゆっくりと彼の意志に呼応するように動き出した──。