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第32話勇気を出して甘えてくる幼馴染

 ナース服に着替えた葵がリビングに戻ってきた。

 葵はナース服の短いスカートの裾を引っ張りながら、恥ずかしそうに聞いてきた。


「へ、変じゃないよね?」


 私服姿も可愛かったが、ナース服はまた違った良さがある。

 現役アイドルにコスプレをさせるなんて、本当に凄いことしてるよな……。

 などと思いながらも、不安そうにしてる葵にグッと親指を立てて俺は言った。


「良く似合ってるな。さすがアイドル」

「……ならいいけど。で、これからなにするの?」

「1年A組の出し物である自主製作映画を焼いたDVDを貰ってきた」


 葵が俺と文化祭っぽいことをしたかったというので、俺は1年A組の知り合いに頼んで文化祭で実際に流していた自主製作映画を保存したDVDを貰ったのだ。


「なんかごめんね。私が文化祭っぽいことしたい……っていったせいで」


 俺がここまでガチで文化祭っぽい感じを演出するとは思ってなかったようだ。

 手間かけさせてごめんと申し訳なさそうに葵が謝ってくる。


「ま、気にするな。てか、周りの目さえなければ、俺も葵と普通に文化祭っぽいことしたかったし」

「……ふ、ふーん」

「んじゃ、早速見るとするか」


 俺と葵は1年A組の自主製作映画を見はじめる。

 自主製作映画の内容はというと、事故で手が動かせなくなったピアニストが、不良少年にピアノを教えて立派な人間に育てあげるというヒューマンドラマだ。


 文化祭当日に俺は見ることができなかったのだが、見た友達はガチで出来が良かったと口をそろえて言っていた。


 確かに、よくできている。

 脚本はどこかで見たような展開の詰め合わせだけど、物凄くいい出来だ。

 楽しんでるかな……と思い、横に座っている葵の方を見た。

 すると、葵はそわそわとして落ち着かない様子だ。


「大丈夫か?」


 心配すると葵は俺に拗ねた感じで言う。


「いつ颯太は私の手を握ってくれるのかな……って」


 今日はお家デートだ。

 俺がいつ手を握ってくるのかと期待して、そわそわしていたらしい。

 別に葵の手を握るつもりはなかった。

 でも、この流れでしなかったら拗ねそうだしな。


 俺は恐る恐る葵の手を握った。


 ピアノを弾いている俺の手はごつごつだし、不快じゃないかな~と気になった。

 でも、それは杞憂だったようだ。


「んっ……」


 葵は少しくすぐったそうだが、照れながらもどこか嬉しそうだ。

 そんな彼女を見ていたら、ちょっとした悪戯をしたくなった。


 俺は手の握り方を指と指を絡めるようなつなぎ方である恋人つなぎにしてみた。


 指を絡めてしっかりと葵の手を握る。

 すると、葵は小さな声で俺に文句を言ってきた。


「颯太のえっち……」


 葵は俺を変態と言わんばかりに罵る。

 恋人つなぎで変に俺を意識してしまった葵が可愛くて堪らない。

 俺は罵ってきたお返しにと言わんばかりに、より一層と葵の手を強く握りしめた。


   ※


 1年A組の作った自主製作映画を見終えた。

 名残惜しいが俺は握っていた葵の手を離して、葵に話しかける。


「面白かったな」

「そうだね。ただ、颯太が変に手を握ってくるから集中できなかったけど」

「悪かったって」

「べ、別に悪いとは言ってないし」


 なんだかんだで俺に手を握られたのが嬉しかった葵はそういった。

 さてと、次はどうしたものか……。

 色々と準備しすぎて何をしようかと俺は悩んでいるときだった。


 葵がおそるおそるソファーに座っている俺のふとももに頭をのせてきた。


「……っっ!!!」


 俺は驚きで声にもならない声をあげた。

 すると、葵は不満げに俺に言う。


「今日はお家デートなんでしょ?」


 葵は本当にお家デートに来たつもりなようだ。

 俺の太ももに頭を乗せている葵に俺は聞く。


「に、にしては……大胆じゃないか?」


 俺が慌てふためいていると、葵は俺のふとももに恥ずかしい気持ちを隠すかのように深々と顔を埋めて呟いた。


「今日は特別な日だから……」


 今日を楽しみにしていたから。

 そうと言わんばかりな葵にドキドキが止まらなくなる。


「お、おう」

「……ねえ、頭撫でて」

「い、いいのか?」

「良くなかったら言わないよ」

「てか、本当に今日は素直というか大胆というか……」


 葵の変わりっぷりに戸惑いが隠せない。

 そんな俺に葵はムスッとした感じで言った。


「お、お家デートなのに甘えないで我慢するのは勿体ないじゃん……」


 恥ずかしいけど今日は勇気を振り絞って俺に甘えている。

 そんな葵の姿に俺はドキドキが止まらない。

 葵は勇気を出して俺に甘えてきたんだ。

 俺はそれに答えるべく、おそるおそる葵の頭に手を添えた。

 すると、葵はくすぐったそうにする。


「んっ……」

「だ、大丈夫か?」

「ちょっと驚いただけだから……。続けて?」


 恥ずかしそうに頭を撫でろと言ってくる葵。

 俺は慎重にゆっくりと髪を乱さないように葵の頭を撫でた。


「こ、こんなかんじか?」

「……うん」


 葵はどこか嬉しそうな声で頷いた。

 勇気を出して甘えてきた葵に俺は苦笑いで言う。


「葵のファンにこんなところを見られたら、殺されるかもな……」 

「ねえ、今日くらいは人気アイドルじゃなくて、普通の女の子扱いしてよ」


 今日の葵は羽を伸ばすために俺の家に遊びに来ている。

 だから、今くらいはアイドルのことを忘れさせて? と言わんばかりだ。

 ああ、そうだな。今日くらいはアイドルじゃなくて、ただの女の子として接してあげるべきだよな。

 俺はそう思いながら、葵が満足するまで頭を撫で続けるのであった。

 


 

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