第31話波乱万丈なお家デートの始まり
赤坂さんと同じことを葵にもしてあげたい。
しかし、セキュリティ万全なわが家以外の場所で、葵と一緒に過ごすのはリスクがでかすぎるわけで……。
「赤坂さんみたく葵と一緒に文化祭を回るのは無理なんで、代わりにお家デートで勘弁してください!」
文化祭デートはできない。
その代わりにお家デートで許してくれと頼み込むように言った。
面倒くさい葵はというと、
「赤坂さんと一緒に文化祭を回ったのって、デートだったの?」
なんか違うところに食いついてきた。
いや、俺的にはあれをデートと認める気はないんだけど、傍からみたら普通にデートにしか見えなかっただろうから……。
言葉選びをしくったなぁと苦笑いしつつも、俺は葵に謝った。
「いや、悪いな。ただの言葉の綾だ」
「ま、確かにあれはデートって単語が相応しいかもね」
「だろ? とはいえ、俺はデートだったとはマジで思ってないからな」
「……ふーん」
あんま納得してなさそうだが、俺は葵に話を続ける。
「で、お家デートは……どうだ?」
「まあ、いいけど。具体的になにするの?」
「そうだなぁ……。映画見たり、美味しいご飯食べたり、一緒にゲームしたり、とかだな。ほら、なんだかんだで葵って俺の家にはボイストレーニングをしにやってくるだろ? だから、お家デートではそれを忘れてゆっくりと羽を伸ばそうってわけだ」
これでどうだ?
と葵の顔を見るも、葵は拗ねた感じで俺に言う。
「私も颯太と文化祭っぽいことしたいんだけど……」
可愛い。
本当に赤坂さんみたく俺と一緒に文化祭を回りたかったんだろう。
そんな気持ちがひしひしと伝わってくる。
で、もちろん葵には答えてあげたい。
「じゃあ、お家デートのとき、文化祭感が楽しめるような何かを考えとく」
大船に乗ったつもりで楽しみにしておけ。
俺は胸を張って葵に言うのであった。
※
お家デートと言うからには、デートっぽくなくてはいけない。
親の存在が感じられては十分に楽しめないだろう。
なので、俺は父さんと母さんが家にいない日を狙って葵を家に呼んだ。
「……お邪魔します」
今日はお家デートということもあってか、葵は普段よりもよそよそしく俺の家の敷居を跨いだ。
葵がちょっと意識してるのを感じとり、なんだか俺も緊張してきた。
で、俺は葵を連れてリビングへ。
文化祭っぽいことを俺としたかった葵のために、今日は色々と準備をした。
俺は葵にナース服のコスプレ衣装を手渡す。
「なにこれ?」
「文化祭でコスプレしてる人が多かったからな。文化祭感を味わうためにも、コスプレをするってのがいいんじゃないかなって。ちなみに、俺たちのクラスで使ったのと同じ衣装を用意してみた」
葵は俺が渡したナース服のコスプレ衣装を広げる。
嫌なら着なくていいからなと言おうとしたときであった。
「……お家デートっていうから、いつもよりも気合入れて服を選んできたのにね」
俺は葵の服装を見る。
クラシカルな雰囲気で落ち着いたグレーのワンピースを着ていた。
いつもよりも明らかにおしゃれな装いである。
それなのに、いきなりナース服のコスプレをさせるなんて……。
「すみませんでした。ほんと、嫌なら着替えなくていいからな。せっかく、今日のためにおしゃれしてきてくれたんだしさ」
出鼻からしくじった。
俺が申し訳なさそうにしていると、葵はクスッと笑った。
「ふっ、お馬鹿さんだね。でも、そういうとこ嫌いじゃないよ」
「今思うと確かにお家デートって言っておいて、服装を気にしない訳ないよなぁって気が付いて恥ずかしいからそう煽んないでくれよ……」
「はいはい」
と言って、葵はナース服を手に取り俺の前から去ろうとする。
「あれ? 着てくれるのか?」
「颯太が文化祭気分を味わえるようにって用意してくれたしね」
「待った!」
去ろうとする葵を俺は引き止める。
何? という顔で立ち止まった葵に俺は言った。
「せっかく可愛い洋服で遊びに来てくれたんだ。もうちょっとだけ、しっかり見させてくれ。いや、ください!」
「……颯太が見たいっていうならしょうがない」
葵はもじもじとしながらも、服が良く見えるようにとポーズを取ってくれた。
服を良く見せようとするプロっぽいしぐさに俺は感動する。
ああ、ほんと、この子ってアイドルなんだなって。
「くっ、ほんと写真を撮りたくなるほど可愛いのに……」
俺のスマホにアイドルの私服姿の写真なんて危険物を保存できるわけがない。
写真撮りたかったなぁと残念に思っていると……
「てか、恥ずかしいからそんなにまじまじと見ないでよ……」
褒められて満更でもなさそうな葵は恥ずかしそうに言った。
ほんとうに可愛い。
そして、可愛すぎる葵を見ていたら、なんだか俺も照れくさくなってきた。
「さ、さてと、今日は親もいないし、アイドルで忙しい葵がめいいっぱい羽を伸ばせるように頑張るからな」
「颯太と二人きり……なんだ」
葵は手をもじもじとさせる。
明らかに家に二人という状況を意識してる素振りが俺の心をざわつかせた。
ざわつきを抑えきれず、盛大に俺は口を滑らせてしまう。
「まあ、手を出すなんてことはないけどな」
家に二人きりだからって葵を襲ったりしないと言ったら……。
葵は自己肯定感の低さを発揮してしまった。
「私って魅力ないもんね……」
襲う価値なしと言われたと思い、めっちゃ拗ねだした。
そんなことはないとガバッと葵を抱きしめたい衝動に駆られる。
俺はそれをグッと堪えながら、拗ねてしまった葵を慰めるべく俺は口を開いた。
「あのなぁ、現役アイドルに手を出せるわけないだろ……」
アイドルじゃなかったら手を出していた。
そうと言わんばかりな発言を聞いた葵の顔がかぁっと真っ赤に染まる。
で、葵は俺の顔を見ずにボソボソと聞いてきた。
「……あのさ、颯太って私のことを『幼馴染』にしか思ってないんじゃないの?」
え? なに、もしかしてこいつ……。
俺が葵のことを好きなことに気が付いてなかったのか?
確かに、ギクシャクとしたときは、まるで幼馴染だからお前に優しくしてるんだからな! みたいな感じに振舞った。
でも、最近はわりと露骨にお前のことを好きだからと言わんばかりに、色々と優しくしてあげてたよな?
だから、葵も完全に気が付いてると思ってたんだけど……。
俺は声を軽くどもらせながら言う。
「お、俺がお前のことを意識してないって思ってたのか?」
葵の顔がさらに赤く染まる。
そして、葵は盛大に勘違いしていたのをごまかそうとする。
「そんなわけないし! ふ、普通に、き、気が付いてたけど?」
「あ、ああ。そ、そうなんだな。」
「……着替えてくる」
とんでもなく自分が鈍感だったと知った葵。
そんな彼女は逃げるかのようにナース服のコスプレを手にして姿を消した。
一人残された俺は大きく溜息を吐く。
「はぁ……」
葵が可愛すぎて辛い。
俺は今日という日を無事に終えられるのか本当に心配になった。




