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第29話触れたいのに触れられない

 


 葵Side




 今日は仕事だったけど、先方の都合で延期になってしまった。

 なので、今日はダンスレッスンを受けようと思い、事務所と提携しているスタジオに行こうとしていたときであった。

 私は颯太の学校で文化祭が行われていることを思い出す。

 まあ、どうせ一緒に行ってくれるような相手もいないし、行かなくていいかな。


 気が付けば颯太の学校の前にいた。


 私、なにしてんだろうね。

 ここまで来ておいてあれだけど、普通に帰ろうとしたときである。

 文化祭で行われるコンサートの整理券配布列が目に入った。

 さすが音楽に強い学校だねとか思っていると、コンサートの参加者一覧ポスターに颯太の名前があった。

 

 見たい。


 演奏するなら、演奏するって教えてくれたらよかったのに。

 なんて考えている内に、なぜか私の手にはコンサートの入場券が握られていた。


「……ま、いっか」


 帰る気だったが、帰るに帰れなくなってしまった。

 コンサートまではまだまだ時間があるし、ちょっと歩こうかな……。

 私は文化祭でにぎわう学校内をちょっと散策することにした。

 

 で、そんなときである。


 颯太が赤坂さんと一緒に歩いているのを目撃してしまった。

 きっと彼女が強引に颯太を連れまわしているに違いない。


「……ずるい」


 颯太と一緒に文化祭を楽しむ赤坂さんが憎くて嫉妬が止まらない。

 今すぐにでも間に割って入りたい。

 けど、アイドルである私は外で颯太と無暗に接触しちゃいけないわけで……。


「あははは、颯太くんの舌真っ青だよ?」


 かき氷のシロップで変色した颯太の舌を見て、ニコニコと笑う赤坂さんを羨ましそうに眺めることしかできない。


 ……アイドルやめようかな。


 颯太とこんなにも接する機会が減っちゃうなんて本当に死にたい。

 好きな男の子が女の子と楽しそうにしているところなんて、本当にみたくない。

 そうだというのに、颯太と赤坂さんを私は尾行し続けてしまうのであった。


   ※


 颯太と赤坂さんのイチャイチャをたっぷりと見せつけられた。

 精神の限界が近いが、まだ帰れない。

 颯太の演奏を聞くまでは絶対に帰ってたまるものか……。

 

 そして、とうとうコンサートの時間がやってきた。


 颯太の出番は最後なので、それまでの前座を楽しもうとするが……。

 たっぷりと見せつけられた颯太と赤坂さんのイチャイチャしてる光景が頭から離れなくて、全然楽しめない。

 特にお化け屋敷のときなんて本当に酷くて憎しみのあまり奥歯が痛くなるほど、歯を食いしばってしまった。

 ほんと、怖いからって颯太の腕に胸を押し付けるかのようにぴったりと抱き着くなんて……


 私もしたいんだけど?


 それにしても、今日の颯太はちょっと格好よかったね。

 ベタベタしてくる赤坂さんを露骨に避けようとしていたのが本当にずるい。

 ちゃんと赤坂さんからの露骨な誘惑を拒否する姿勢を見て、嬉しくなる。


 ああ、私の言うことをちゃんと守ってくれるんだと。


 恋愛禁止なんてふざけたお願いをきちんと守ってくれる。

 そんな颯太を見てドキドキしないわけがない。

 好き、ほんと大好き。

 だって、彼は私との約束を物凄く大事にしてくれるのだから。

 目の前で披露される演奏そっちのけで、颯太のことを想っていると……。


 私の近くに座っている女子中学生くらいの子がおしゃべりを始めた。


 まあ、お金を払わない文化祭のコンサートだもんね……。

 こういう子がいるのもしょうがない。

 変に注意して、私が渡良瀬葵だとバレる方が不味いしここは我慢かな。


「あはははは、受ける~」

「でしょ? てか、まだ終わんないのかな~」

「ねー!」


 余りにも失礼な態度にイライラしてしまうも、私はグッと我慢する。

 そして、そんなとき……。

 私の大本命である颯太が舞台の上に現れた。


 同年代には敵なしといわれるほどのピアニスト。


 彼の魅力は演奏だけにとどまらない。

 コンサートの静寂に耐えきれなくなり、おしゃべりを始めてしまった女の子達の目が露骨に輝いた。


「え、何あの先輩。めっちゃ格好いいじゃん!」

「私、この学校を受験しちゃおうかな……」

「あんなイケメンだし、彼女いないわけないからやめときなってば」


 うんうん、颯太って格好いいよね。

 ちょっと嬉しくなっていると、颯太がピアノを弾き始める。

 颯太の演奏が始まるや否や、おしゃべりをしていた女の子達が静かになった。

 それくらい、彼の演奏は凄まじかった。


 音楽系の学校ということもあってか、どの演奏もレベルが高かった。


 けど、颯太のだけは別格だ。

 プロにも負けず劣らずなテクニック。

 そして、颯太の良すぎる顔がさらに演奏の魅力を引き上げているのだから。


 っと、うだうだ考えてないで颯太の演奏をしっかり聞かないとね。

 私は余計な雑念を捨て、久しぶりに大舞台に立つ颯太の演奏に耳を傾けた。


   ※


 コンサートも終わった。

 私は久しぶりに颯太のガチ演奏を聞いて満足気に会場を出る。

 十分に文化祭を楽しんだし、そろそろ帰ろうかな……。

 ふと、私の目に颯太が映る。


 演奏よかったよ。


 そう彼に声を掛けたくなる。

 ちょ、ちょっとだけなら……いいよね?

 一言だけ、本当に一言だけと思い颯太に近づこうとしたときだった。

 あざとい女こと赤坂さんが勢いよく颯太に近寄っていく。


「最高の演奏だったよ!!!!」


 そこは私の場所なのに。

 颯太の横は私の場所だったのに……。

 なんの憂いもなく颯太に近づいた赤坂さん。

 そんな彼女の立ち位置があまりにも羨ましくて泣きたくなる。


 で、気が付けば、私は拗ねるようにして家に帰ってきていた。


 赤坂さんと颯太のイチャイチャを見せつけられたからか、無性に颯太に会いたくてしょうがない気持ちが止まらない。

 まだ家に颯太がいないのはわかってる。

 でも、はやる気持ちは抑えきれない。


「部屋で待っててもいいですか?」


 颯太のお母さんにそういうと、『ええ、いいわよ』と許可をくれた。

 颯太の部屋に入り、私は颯太がいつも寝ているベッドの上に寝転ぶ。


「早く帰って来てよ……」


 ベッドの上にあった匂いが染みついた枕をきかかえ、私は颯太の帰りを待つのであった。

 

 



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