第26話仁義なき戦い
嫉妬した葵にお願いを聞いてあげる数を無限に増やされた後のことだ。
防音室でボイストレーニングをしている葵を見守っていると、スマホに赤坂さんからのメッセージが届く。
『今日は色々とありがとね!』
律儀だなぁとか思っていると、またメッセージが届いた。
『お礼に私がこの下着してるところ見せてあげよっか!』
今度はメッセージと一緒に写真も送られてきた。
送られてきた写真はエッチなメイド風ランジェリーのパッケージである。
しかも、写真に写っている下着のパッケージの横には、赤坂さんがピースしている手もあった。
よし、嫉妬した葵に詰め寄られるのはごめんだ。
こんなやり取りをしているのが葵にバレたら、また殺されそうになる。
俺はさっさと葵にパスを投げてしまうことにした。
「なあ、葵よ。赤坂さんからエッチな誘惑されてるんだけど、困ってるから返信を一緒に考えてくれないか?」
俺が物凄いドストレートな物言いで言ったからか、葵は変に拗ねることもなく俺の話をしっかりと聞いてくれた。
「なんで私に頼むの?」
「だって、お前が彼女を作るの禁止って言ったんだろ。だったら、ちょっとは手伝ってくれたっていいんじゃないか?」
「ま、それもそうだね。で、颯太はどうしたいわけ?」
「うまく赤坂さんの誘惑をかわして、脈なしとわからせたい」
「普通に連絡先ブロックすれば?」
その気がないんだから強めに突き放せと葵が言うも、俺は葵に言ってやる。
「俺が急にお前の連絡先をブロックしたらどうだ?」
「…………ま、まあ、確かにブロックはやりすぎかもね」
葵は泣きそうな顔で言ったことを撤回した。
で、俺はそんな葵に改めて聞く。
「というわけで、彼女作るの禁止されちゃったしな。露骨に俺を誘惑してきた赤坂さんを傷つけることなく、脈なしとわかるようなメッセージを一緒に考えてくれ」
俺と葵は頭を悩ませる。
そして、完成したメッセージは――
ちょっと反応に困るメッセージを送るな! 親に見られたら困るから、もう二度とこういうメッセージを俺に送らないでくれると助かる。
びっくりするくらい普通な内容だ。
俺たちは意を決してできたばかりのメッセージを赤坂さんに送った。
恋する乙女はスマホに張り付いていたのだろう。
すぐに返事が来た。
『長文すぎっ!!! もしかして、意識しすぎちゃったのかな~?』
全然、俺が赤坂さんに興味がないと分かってもらえなかった。
再び俺は葵と次に送る文章を考える。
そしたら、俺たちが思いつく前に赤坂さんがおなかの写真を送りつけてきた。
『私ってこう見えて、意外とスタイルいいんだよ?』
そんなメッセージと一緒に。
で、あからさまな誘惑を横で俺と一緒に見ていた葵はというと……。
「は? こいつ、なに?」
おなか周りの写真を送ってきて誘惑してきた赤坂さんにブチギレである。
で、葵は俺のスマホを奪い……。
自分のおなか周りの写真を撮って、赤坂さんに送り付ける。
『悪い。こんぐらい細くないと興奮できないんだ』
おい、勝手なことするなよ……。
でも、あれだ。わりとナイスかもしれない。
これで、赤坂さんもそれとなく俺に脈がないのをわかって……
くれるわけもなく、また写真が送られてきた。
今度送られてきたのは、大きな胸の形がくっきりとしている写真だった。
『おなかがダメなら、お胸はどうかな?』
あ、うん。わかった。
赤坂さんは俺に脈がないの分かってるから、過激なアプローチしてきてるんだ。
などと俺が納得している横で、葵は何度も自分の胸元の写真を撮り続けている。
そして、慎ましい方である葵は何とも言えない顔で俺に聞いてきた。
「そ、颯太は胸が大きい子よりも胸が小さい子の方が好きだよね?」
ぶっちゃけた話をすると、でかい方が好きである。
でも、それを言ったら葵に殺されるかもしれない。
俺はしれっと嘘を吐いた。
「ああ、小さいほうが好きだぞ」
「へー、そうなんだ」
俺の発言を聞き、露骨にテンションが少し高くなった葵は慎ましいサイズの胸が映った写真を赤坂さんに送り付ける。
『悪いな。このくらいのサイズが一番好きだから』
また勝手なことを……。
俺は葵の手からスマホを取り返そうとしたときだった。
『え~、でかいとこんなこともできちゃうんだよ?』
メッセージとともに、赤坂さんは《《太めのマジックペンを胸で挟んだ》》写真を送ってきた。
あまりの絶景に俺は写真に釘付けになってしまう。
そんな俺を見た葵はさっきの『胸が小さい方が好き』という俺の言っていたことが、嘘だと勘づいてしまったらしい。
「颯太の嘘つき……。やっぱり、本当はでかい方がいいんでしょ?」
胸が小さいのを気にする葵を見て俺は笑いそうになる。
男は意外と好きな人に求める胸のサイズなんてどうでもいいのにな。
「ほら、そう気にするなって。葵の胸もちゃんと価値あるから」
「……颯太はでかい胸で色んなモノを挟んで貰えた方が嬉しいんじゃないの?」
「挟めなくても気にしないって。てか、変なことを聞いてくんな」
「……ほんとに?」
「ああ、本当だ」
胸の大きさを気にしている葵をフォローしていると、いつまでたっても返信が来ないのに痺れを切らした赤坂さんがさらに過激な写真を送ってきた。
『今日はこれで最後だからね!』
より胸元というか胸の谷間が強調された写真が送られてきた。
好きな人の気を引きたくて、こんなことまでしちゃうなんて恋する乙女って怖いなと思っていると、葵が俺の股間をじっと見つめてきた。
「そ、その熱い視線は?」
「反応したら潰そうかなって。ほら、彼女作るの禁止だから。女の子に反応する大本を断てば、絶対に彼女なんて作れないでしょ?」
「全然潰す理屈になってないんだけど……」
とんでもなく怖い目で葵は俺のアソコを凝視してくる。
そんなこともあってか、赤坂さんのエッチな下着姿を見てしまったものの、俺は何とか反応せずに耐えきることができるのであった。




