第24話「またあとでね」
近場のお店に足りない資材を買いにきたのだが、在庫切れで買えなかった。
文化祭シーズンなのでしょうがないと思い、俺と赤坂さんは電車に乗って繁華街の方へと向かうことにした。
で、このことをクラスメイトに伝えると……
俺達のクラスは廃病院をモチーフにした迷路を作成しているとうこともあってか、当日に受付をする人は医者とナースのコスプレをした方が面白いんじゃね? と思いついてしまったらしくコスプレ衣装を買ってきてと頼まれてしまった。
ということで、俺は赤坂さんと何でも売ってるで有名なドソキのコスプレ衣装売り場にやってきた。
で、赤坂さんはナース服のコスプレを手に取って俺に見せてきた。
「んー、何種類かあるけどどれがいいんだろうね」
「スカートタイプとパンツタイプに小道具付きと色々あるな」
「颯太くんはどれがいいと思う?」
「無難にパンツタイプでいいだろ」
「えー、スカートの方が可愛くない?」
どんなナース服のコスプレにするか俺たちは決めあぐねる。
悩んでいると、考えはあっちこっちに散ってしまうもの。
文化祭とは関係のないコスプレ衣装を赤坂さんは見はじめる。
「時期的にハロウィン系をイメージしたやつが多いね」
「確かに、ヴァンパイアとか魔女とかが多いな」
なんて風に色々と見ていたときだった。
赤坂さんは急に目をキラキラとさせて、俺にこれを見てと腕を引っ張ってきた。
「絶対、これの売り場違うよね」
赤坂さんが俺に見せたかったもの。
それはちょっとどころか、かなりエッチなメイド風ランジェリーだった。
おそらく、さっきコスプレ売り場にやってくる前に見えた暖簾の先にあるコーナーで取り扱っている商品だろう。
「それ一つだけしかないってことは、どこかの誰かが元の場所に戻すのが面倒でここにおいてったんだろうな」
「だろうね~。明らかに、ここにあっちゃダメなエッチなやつだもん」
「……てか、なんでそんなテンション高いんだ?」
「イケナイもの見つけたら、なんかテンション上がらない?」
気持ちは分からなくもない。
そう俺が苦笑いしてると、赤坂さんは面白くなさそうな感じで言った。
「女子からエッチな下着ある~って言われても、全然動じないの凄いね」
「……ま、こういうのには慣れっこだからな」
余裕ぶった感じで俺が言うと、赤坂さんは俺を動揺させようとする。
売り場にあったエッチなメイド服風ランジェリーを手に取って俺に見せつけながら、ニヤニヤとした顔で俺に変なことを言いだした。
「ねえねえ、これ着て見せてあげよっか」
なんだろう。デジャブな感じが凄い。
前にもこんなことあったような気がする。
「そういうのは好きな人にやってくれ」
「んー、好きな人ねぇ……」
赤坂さんは悩まし気なそぶりをした後、意味深に俺の方をニコッと見てきた。
赤坂さんは世間一般的にいうところの美少女だ。
普通にちょっとドキっとしてしまう。
「ほ、ほら、遊んでないでさっさとナース服と医者の服を買って帰ろう」
「えー、もうちょっと遊んでても平気だって」
「というか、そんなのいつまでも手に持ってるな」
赤坂さんが持っていたエッチなメイド風ランジェリーを俺は棚に戻した。
しかしまぁ、赤坂さんは動揺した俺が面白かったのだろう。
耳元で小さく意地悪に囁いてきた。
「見たかったら、いつでも言ってね?」
もうやめてくれ。
初心な男子高校生をからかうのは本当にやめてくれ。
※
制服姿の子が街中に増えてきた。
そう、思いのほか買い出しは長引いてしまい、気が付けば授業の時間は終わり、すっかり放課後ともいえる時間なのだ。
これもそれも、あれも見たいと言って寄り道ばっかりしようとする赤坂さんのせいである。
「ほんと、疲れた……」
「あははは、おっさんみたい」
「いや、お前のせいだからな」
「ごめんごめん」
赤坂さんと話しながら電車に乗るため駅に向けて歩く中、まだまだ元気な赤坂さんはまた寄り道しようとする。
CDを扱っているアニメ系のショップの前で赤坂さんは立ち止まる。
「またか……」
「ねえねえ、来店イベントあるって!」
そういわれて、赤坂さんの視線の先にあるアニメショップの方を見る。
そこには『渡良瀬葵来店イベント開催決定!』というポスターが貼られていた。
どうやら、葵はここでサイン会を開くようだ。
「ほんとに赤坂さんって渡良瀬葵の大ファンだよな」
「この子は絶対に人気出るってのを信じて、デビュー前からずっと応援してたもん」
「にしても、ほんとあれ以来なんも言わないのな」
俺と葵が幼馴染であることを知っている赤坂さん。
秘密にしてくれと誓約書を書かせたが、ここまで律儀に約束を守ってくれるとは正直なところ思ってなかった。
「失敬だね。私はちゃんと約束を守る女ですぅ~~~~」
赤坂さんは俺にグイっと近寄ってきて、ぷんぷんと怒る。
俺は近いから離れろと赤坂さんを跳ねのけようとする。
そして、そんなときだった。
俺は一気に冷や汗をかいた。
だって――
帽子とマスクをしているスタイルのいい女性が、冷ややかな目で俺を見ていることに気が付いてしまったのだから。
「……悪かったって。だから、離れような?」
「もっとちゃんと謝って!」
「ほんとごめん。俺が悪かったです!」
「しょうがないなぁ……。さ、帰ろ!」
赤坂さんは俺から離れて駅に向かって歩き出した。
そんな先を行く彼女の背中を見ていたときだ。
帽子とマスクをしていて俺が知ってる子に似ている女性が俺の方に近づいてくる。
彼女は俺とすれ違いざまに感情の籠ってない声で囁いた。
「《《またあとでね》》」
聞こえてきた声の持ち主が誰なのか俺はよく知っている。
すれ違いざまに小さな声で俺に囁きかけてきたスタイルのいい女性。
彼女の名は――
渡良瀬葵。
俺の幼馴染で今は世間を騒がす大人気アイドルだ。
うん、死んだな。
今まで、嫉妬する葵をなんとか宥めてきたのだが……。
今回ばかりは無理かもしれない。
嫉妬深い葵に何をされるのか不安になりながら、俺は先に行ってしまった赤坂さんを追いかけるのであった。
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