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第20話慰める

 ポロリしちゃった葵はあまりにもショックだったのか拗ねてしまった。

 気持ちはわかる。自分の恥部を見せる気がないのに、見せてしまったというのは『誰かに見せることに興奮を覚えるような変態』でもなければキツいもんな……。

 防音室の隅っこで縮こまっている葵に俺は声を掛けた。


「なんか悪いな」

「別に颯太は悪くないよ」

「でも、見ちゃったは見ちゃったしさ」

「そっか……」


 気まずさのあまり、シーンと静まり返る部屋。

 その静寂を打ち破り、葵は小さな声で俺に話しかけてきた。


「……あ、あのさ」

「ん?」

「……私のって変じゃないよね?」

「変って?」

「ほら、あれ。色とか形とか……」


 そう聞かれて、ポロリしてしまった葵の姿が脳裏にフラッシュバックする。

 人気沸騰中の現役アイドルのポロリなんて凄いものを見て、興奮しない方がおかしい。

 やっと落ち着いてきたのに、またもどかしさが体の奥から込み上げてきた。

 必死に邪念を払おうとしていると、葵が不安げに聞いてくる。


「な、何か言って欲しいんだけど」

「わるいな」

「で、どうなの?」


 そんなに私のっておかしくないよね? と少し不安そうな葵。

 俺は安心させるために微笑みながら普通だろと答えてあげたいのだが、それをしたらしたで葵は余計に拗ねそうな気がしてならない。 

 なにせ、葵のアレは胸のふくらみに対して、全体的にちょっとだけ大きくツンと尖っていたのだから。

 でも、明らかに変というレベルではないし、逆にちょっと個性的でエロくていいと思えてしまうくらいだ。

 俺は変に嘘を吐かず、ありのまま思ったことを葵に答える。

 

「確かにちょっとでかい気もしたけどさ、別に気にするレベルじゃないだろ」

「やっぱり変なんじゃん」

「いや、だから……」

「ハッキリ言っていいよ。変なんでしょ?」


 どうやら、葵は自分の胸のことが相当に気になっていたらしい。

 ここは一肌脱ぐしかないか……。

 俺は恥を忍んで、不安がる葵にハッキリと告げた。


「え、エロくて俺は好きだ」


 うん、死ぬほど恥ずかしい。

 幼馴染相手にエロいという言葉を使うのが、本当に気まずくてしょうがない。

 誰か俺を殺してくれと言いたくなるほどだ。


「ふーん」


 それほど悪い気はしないと言わんばかりに葵は頷いた。

 よしよし、このまま変じゃないと言い続けよう。


「正直、お前の胸はどんな男でもめっちゃ興奮すると思う」

「それならいいんだけど……」


 葵は自分の胸に自信を取り戻したようだ。

 俺がホッと胸を撫でおろすと、葵はなぜか謝ってきた。


「なんかごめん。お礼してあげる側なのに騒いじゃってさ」

「別に気にしてない。むしろ、眼福だった」

「……ならいいや。でさ、お礼の続きってした方がいい?」

「いや、マイクロビキニ姿よりも凄いの見ちゃったし十分だ」


 などと言うと、葵はだよねと苦笑いで俺の方を見てきた。

 大変恥ずかしい思いをしたこともあり、恥ずかしいと感じることへのハードルが下がっている葵は俺に赤裸々に語りだした。


「私エロ売りだけはしたくないって思った」

「俺に見られて凄い慌てようだったもんな」

「颯太でもあれなのに、赤の他人にエロい姿を見せるの恥ずかしくて死にたくなると思う」

「てか、エロ売りなんてしなくても葵は歌と踊りだけで戦えるだろ」

「……まあ、そうだね」


 穏やかな空気感になってきた中、俺は葵に聞いてしまう。


「この際だから聞くけど、俺の気を引こうと頑張り過ぎじゃないか?」

「……別にそんなことないし」

「ほんとか?」


 俺がニヤニヤとしながら聞くと、葵は渋々と俺に話し出した。


「颯太が他の女の子とイチャイチャしてるの見せられたから……」

「何度も言うけど、赤坂さんはタダのお友達だからな? それに、なんで俺が女の子とイチャイチャしてるのが嫌なんだ?」

「……知らない」


 葵はへそを曲げてしまう。

 だがしかし、そんな彼女だが今日はおしゃべりだった。

 俺が教えてくれよ~とウザ絡みしていると、ボソボソと口を開いた。


「だって、幼馴染に好きな相手ができたら、なんかムカつくじゃん……」

「なるほどな」

「そ、そういう颯太は私に男ができたら、何も思わないの?」

「……さあ?」

「へー、私に喋らせたくせに自分は喋んないんだね」


 俺がごまかしたからか、葵は拗ねてしまった。

 で、意地悪な俺に仕返しにと言わんばかりに変なことを言い出す。


「……てか、私だけ見られたのずるい」

「ん」

「颯太のも見せてよ」

「いやだ」


 男の乳首を見たがるアイドルがどこにいる。

 なんてふざけた奴めと俺は苦笑いしてしまった。


 正直なところ、男の乳首の価値なんてほぼゴミのようなもんだし、葵に見せたって恥ずかしくもなんともない。

 とはいえ、見せるのもなんかなぁ……と渋っていたときだった。

 

「こ、これからアイドル活動してる中で生で男の人の上半身裸を見ることもあるかもじゃん? そ、その時に慌てないようにするためにも見せてよ」


 葵は変に理屈をこねだした。

 こいつ、理由があれば何をしても許されるとおもってないか?

 俺は苦笑いしつつ、しょうがないのでTシャツを脱いだ。


「ほら、満足か?」


 上半身をさらけ出すと、葵は口元を抑えて俺から目を背ける。

 お前から見たいと言ったんだぞ?

 俺は目を背けるなと言わんばかりに葵の方へ近寄った。


「……変に意識しちゃうから、そんなえっちな格好でこっち来ないでよ」


 葵は俺の上半身裸をまるでイケナイもののようにチラチラと見つつ、恥ずかしさを隠すかのように口元を抑えながら言った。

 




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