第19話ポロリしちゃうアイドル
マイクロビキニを着て俺に見せてあげると葵は言ったのだが、急にあたふたとしだした。
顔は動かさず、なるべく目だけで下腹部あたりをちらちらと見ながら、小さな声で焦りを漏らす。
「どうしよ……」
うん、絶対に勢いで言ったよな。
マイクロビキニは言葉の通り、布面積がマイクロなビキニ。
下の方はかなり入念にお手入れが必要だ。
普通のお手入れでは間に合わず派手にお手入れしなくては、みっともない姿を晒すことになってしまう。
葵のマイクロビキニ姿には興味はあるし、めちゃくちゃ見てみたいのだが、手を出さずに我慢できる自信がないわけで……。
「てか、そもそもお礼してくれるっていうなら、違うのが良いんだけど……」
さも、葵のマイクロビキニ姿に興味ないと言わんばかりに言った。
だが、それが間違えだったようで、葵は眉間にしわを寄せる。
「私のマイクロビキニ姿に価値はないってこと?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「じゃあ、お礼は水着姿でいいじゃん」
「てか、なんでそんなに俺に水着姿を見せたいんだよ」
やけに食いついてくる葵に聞いた。
俺に好意のある葵は俺を誘惑したい。
でも、葵はそれを面と向かって言える度胸はないわけで、変に言い訳を始めた。
「……恥ずかしい格好を見られても、恥ずかしいって露骨に顔を赤くしないようにするための練習もしたかったから。今後、バラエティー番組に出演とかあるって言ってたし、その時に恥ずかしい思いをしてあたふたとして変なことしちゃわないように気を付けないと」
「お礼と称して、俺を利用して恥ずかしい思いをしたときに、それを顔に出さないための練習をしようってわけだな」
なんとなく理屈は通っているが、やっぱりちょっと無理がある。
とはいえ、それおかしくね? と指摘したら葵が拗ねそうだったので、俺はひとまず同調してみた。
「……じゃあ、マイクロビキニ姿を見せるのがお礼でいいよね?」
何が『じゃあ』なんだ?
てか、土壇場で『やっぱり恥ずかしいから無理』と言い出すに決まっている。
もう面倒になってきたし、話を終わらせよう。
「ああ、そうしてくれ」
俺は投げやりにそういった。
※
防音室でピアノの練習をしていると、Tシャツにハーフパンツと非常にラフな格好をした葵がやってきた。
だが、なんだか葵の様子がおかしい。
「今日はやけに落ち着きがないな」
「……まあね」
「で、どうかしたか?」
「3日前さ、マイクロビキニ姿を見せてあげるって言ったでしょ?」
「まさか……」
恥ずかしいからやっぱり無理。
土壇場で逃げ出すオチが待っていると思っていた。
だが、アイドルを始めてから変に度胸がついちゃった葵は逃げなかったらしい。
「ちゃんと着てきたから」
葵は体を少しもじもじとさせながら言った。
ふと、俺は布面積が小さいビキニの姿をしている葵を想像してしまい、ドキドキが止まらなくなった。
想像だけでもすごくドキドキするというのに、実際に見せられたらヤバい。
アイドルに手を出してしまうという罪を犯さないようにと、水着姿を見せてもらうというお礼を断ろうとしたときだった。
ガチャリ。
葵が誰にも邪魔されないようにと防音室のカギを閉めた。
「……いや、マジか」
「大マジだよ」
葵は自分のTシャツに手をかけた。
しかし、手はなかなかに動かない。
「無理しなくても……」
「別に無理じゃないし」
葵は強がる。
だがしかし、踏ん切りをつけられずに服を脱ぐことができない。
脱がれたら興奮してしまい、《《アイドル》》である葵に何をしてしまうかわからない。
そんなこともあってか、俺は葵に諦めるように説得する。
「ほら、あれだ。アイドルなんだし体は大事に……しような? 別の形でだけど、葵が恥ずかしい思いをしたとき、変に慌てないようにする練習には付き合うからさ」
「そ、颯太にマイクロビキニ姿を見せることくらいできるし」
「じゃあ、なんで手が止まってるんだ?」
「だって……」
「恥ずかしいんだから無理はよくないぞ?」
優し気に諭したつもりだった。
でも、葵にとっては一種の煽りに聞こえてしまったのだろう。
「は? 無理じゃないし」
ムスッとした顔で葵は勢いよくTシャツを脱ぎ去った。
だが、勢いよく脱ぎ去ったのが良くなかった。
布面積が小さい水着はズレてしまい……、
葵の慎ましくも張りのある膨らみのちょうど真ん中くらいにある、ツンと少し上向きに尖っているピンク色をした突起が《《ポロリ》》してしまった。
「……おまっ!?」
おもいがけないハプニングに俺は慌ててしまう。
そんな俺を見て、まだ自分がやらかしたことに気が付いていない葵は面白く思ったのか偉そうに胸を張って威張る。
「水着姿程度でうろたえすぎじゃない?」
「いや、その……」
「ま、颯太も男の子だしね」
「だから、えっと……」
「別にいいよ。変に言い訳しなくても」
「……見えてるんだよ」
「なにが?」
「……ち、ちくび」
俺が恥ずかしそうにポロリしてしまったモノの名前を言うと、初心な反応を見せる俺に威張り散らかしていた葵の視線は自身の胸へ向かう。
で、葵は胸を覆い隠すように手を当てて、勢いよくその場にしゃがみ込んだ。
「…………なんで?」
「い、勢いよく脱いだからじゃないか?」
「……あは、あははははは」
「葵?」
「うん、死にたい。もうマジでやだ……。ほんと、恥ずかしくて死にそう…………」
俺の目の前でポロリしちゃった葵は、恥ずかしそうに小さな声でボソボソと泣き言を言いだした。
これは慰めるの大変そうだなと苦笑いしつつ、俺は葵が勢いよく脱ぎすてたTシャツを拾って渡しに行くのであった。




