第18話アイドルはお礼をしたい
学校から帰るや否や、葵が俺の家にやってきた。
それなりに大きな段ボールを抱えて。
「それ、どうしたんだ?」
「私のグッズ。色々と事務所に送ってもらったから、颯太にもあげようと思ってね」
「それにしては……多くないか?」
「お母さんとお父さんも欲しい! って言うから、多めに送って貰った」
だから、そんなにでかい段ボールなんだな。
そう納得しつつ、俺は葵が持ってきた段ボールの中身を見た。
転売ヤーが凄くて物販に並んだのに何もいいのがなくて買えなかったし、グッズを持ってきてくれたのは本当に助かる。
「色々あるな」
スマホアプリで色を切り替えられる葵のライブ専用ペンライト。
チェキ風ポストカード。Tシャツ。缶バッジ。タオル。キーホルダー。
そして、アクリルスタンド。
ライブは基本的にグッズ収益がメインというし、年々増えてるんだろうなとか思っていたときだった。
葵は俺が手にしていた葵が描かれたアクリルスタンドを取り上げてくる。
「それ、じろじろ見られると恥ずかしいから勘弁して」
「こんなに可愛いんだから平気だって」
「……別に可愛くないし」
相変わらず葵は卑屈である。
アイドル始めて、かなりの人気ものになったのにな。
普通に葵のアクリルスタンドが欲しい俺は葵から奪い返す。
「部屋に飾るから俺にもくれ」
「……まあ、いいけど。へ、変なことに使わないでよ?」
「変なことって?」
「そ、それはその……」
「言ってくれないとわかんないな~?」
ちょっと俺が惚けたように演技すると、葵は見て後悔するなよ?
という顔でスマホを取り出し、SNSに投稿されたある写真を見せてきた。
写真は葵のアクリルスタンドに謎の薄透明色の白い液体をぶっかけたものだった。
俺は葵にすぐ謝る。
「なんかごめんな。わりとお前の気にしてた点について突っ込んで」
「……別にいいよ。てか、颯太はこんなことしないでよ?」
「しないしない」
「ま、颯太ならアクリルスタンドじゃなくて実物にかけれるしね」
「あははは……」
葵のジョークに突っ込むべきか、突っ込まないべきか、本当によくわからなかったので俺は苦笑いでごまかした。
だがしかし、葵は俺にグイグイと聞いてくる。
「実際、颯太的にはこんなことしたいって気持ちわかる?」
「んー、わからなくもない。ただ、不特定多数に見せつけるのはわからない」
ごまかしてもしつこくされそうだったので、俺はしっかりと答えた。
それにしても、渡良瀬葵のハッシュタグをつけて『俺ので汚しちゃったw』なんて文章とともに気持ち悪い画像をあげるなんて本当にふざけたやつがいるもんだ。
「ストーカー行為とかされてないよな?」
「……なに、急に」
「ネットにこんな気持ち悪い奴いるんだし、葵のことを心配に思っちゃ悪いか?」
「私のこと心配してくれるんだ」
葵は俺に嬉しがっている顔を見られたくないのか、口元を抑えて下を見る。
俺に心配されて、ものすごく喜んでるみたいと俺に勘違いされないように。
「逆に聞くが、葵は俺のことを心配してくれないのか?」
ちょっと意地悪な問いかけをする。
葵はどこか恥ずかしそうに答えた。
「……しょうがないからしてあげる。ま、颯太は私の心配なんていらないほど、強いから平気だろうけどね」
「まあな」
「でさ、颯太って私のことを心配してくれてるんだよね?」
「してるしてる」
というと、葵は何とも言えない顔で話し出した。
「ちょっと相談してもいい?」
「ああ。気軽に話してくれ」
「水着の写真集出さないかってお誘いがあって悩んでる」
「……あー」
人気大爆発中の渡良瀬葵。
そりゃもう、水着の写真集を出さないかとお誘いが来ない方がおかしい。
「受けるべきだと思う?」
「そもそも拒否権ある……のか? ほら、事務所から絶対にやらないとダメとかいう圧力とかは……」
「ないよ。したくないなら、したくないでいいって」
葵からの真面目な相談に俺も頭を悩ませる。
で、俺は葵に聞いてみた。
「葵はどうなんだ?」
「大勢に水着の写真を見られるの恥ずかしくて死にたくなりそう」
「じゃあ、断る方向にしとけ。今の時代、けっこう未成年者のきわどい写真集についてはかな~り世間の声が厳しくなってきてるし」
「……詳しいじゃん」
「お前をアイドルにした張本人だからな」
無責任ではいられない。
俺はそう胸を張って答えると、葵は水着の写真集を出さないかという誘いについて、出した答えを口にした。
「うん、わかった。じゃあ、今は出さない。ただ、もしかしたら将来的には出すかも……って感じにしようかな」
それでいいんじゃね? と俺はうなずいた。
にしても、葵の水着姿か……。
アイドル始めてからはさらにスタイルに磨きがかかってるし、とんでもなく魅力的なんだろうな。
などと、葵がきわどい水着を着て凄いポーズをしている妄想をしてしまった。
そんな俺の邪気を感じ取ったのか、葵はもじもじとした顔で聞いてくる。
「私の水着姿想像した?」
「……すみません」
「ちなみにどんなの?」
「普通のビキニ」
即答するも、葵は訝し気に俺に聞いてきた。
「で、本当は?」
「あー、あれだ。布が小さめなマイクロビキニ」
「ヘンタイ」
「……しょうがないだろ。男なんだから」
なんて風に葵に言い訳していると、葵が急にモジモジとし出す。
「い、いつも颯太はなんだかんで私のメンタルケアをしてくれるでしょ?」
「それがどうかしたか?」
「今回のライブを頑張れたのは颯太のおかげだし、私からも何かお礼してあげた方がいいかなって」
「別に気にしなくても……」
何かしてもらいたくて、葵に優しくしてるわけじゃない。
でも、葵は俺にお礼をしたくてしょうがないのか、とんでもないことを言う。
「颯太ってマイクロビキニが好きなんでしょ? わ、私が着てるところを見せてあげてもいいよ……」
なんでいきなりそうなる? と思いつつも、恥ずかしいけど俺のためなら頑張れるという葵を見て、俺はドキドキとしてしまうのであった。




