第17話悶える
葵Side
颯太にムダ毛チェックをさせてしまった私はベッドの上で悶えていた
泥棒猫に対して私の方が可愛いし、私なら何をしても許してあげちゃうんだからという好きアピールとして、ムダ毛チェックなんてモノを頼んだ。
正直、頼んだときは天才だと思ったけど……。
冷静に戻った今だからこそ、私にはわかる。
「ないないないない……、絶対あれはないからぁ……」
アピールへたくそ過ぎない?
絶対、颯太に頭おかしいやつって思われた。
そもそも、脇の出てるアイドル衣装を着ていたライブ後なのに、わかるようなムダ毛が生えてる方がおかしいから……。
大好きな相手である颯太にヘンなことをしてしまった羞恥心で死にたくなる。
私の脇を触っていた颯太がちょっとは意識していたようで、顔が赤かったのはうれしかったけど……。
恥ずかしさと嬉しさを同時に味わっていると、私の部屋にわざわざやって来てまでお母さんが話しかけてきた。
「葵ちゃんに大事なお話があります」
真面目そうな声で私に話しかけてきたお母さん。
ちゃんと聞いた方がいいのかなと思い、私は姿勢を正した。
「なに?」
「あのね。颯太くんのところにメンタルケアして貰いにいくのは止めないわ。でも、ぜ~~~ったいに颯太くんとはうちのマンション以外の場所で会っちゃだめよ?」
「……はい」
「ごめんね。でも、今日のライブで葵ちゃんが本当にアイドルなところを見て、ちょっと不安になっちゃって」
私はお母さんの想像以上にアイドルだった。
今日のライブを見てお母さんが、颯太と私の関係について不安になってしまうのも無理はない。
「大丈夫。本当に分かってるから。そろそろゆっくりしたいから、一人にしてくれると嬉しいかも」
ライブを成功させた私をべた褒めしウザ絡みをされるまえにと、私はお母さんを部屋から追い出した。
私はお母さんに釘を刺されたことに対して、うだうだと考え込んでしまう。
外では人の目があり、颯太と私が会っているところをマスコミにリークされようものなら、一発で私のアイドル人生は終了……してもおかしくない。
正直、家で会ってること自体も普通に駄目だけどね。
でも、私の精神面的に颯太と会えないのは無理なんだから許してほしい。
「……てか、あれ。あの子、絶対に颯太に気があるでしょ」
突如湧き出てきた赤坂さんなる存在を思い出して、私は億劫になった。
中学生はまだ色恋が恥ずかしくて遠ざけがちだが、高校生ともなれば逆に色恋に興味津々である。
私の見てないところで、颯太が知らない女の子と親密になっていく。
そんな光景をちょっと想像しただけで嫌になる。
「寝よ……」
ライブで疲れている私はひとまず寝て気分を落ち着けることにした。
※
今日は久しぶりの予定がない日。
レッスンも打ち合わせもレコーディングもない。
でも、普通に学校はある。
私の学校は多少休んだりテストがダメでも進級できるが、だからと言って別にサボりたい放題というわけでもない。
高校の制服に着替えて、電車通学中に私がアイドルの渡良瀬葵とバレて変に騒ぎになってしまうと困るので、車で送り迎えをしてくれることになっているマネージャーに電話を掛けたのだが……。
『すみません。ちょっと風邪をひきまして……。他の人も忙しいようで送迎はできないと言われまして……。なので、今日はタクシーを使ってください。領収書は事務所宛で……お願いします』
マネージャーの佐藤さんは私以上にライブ前は忙しそうにしてた。
早く元気になりますようにと祈りながら、住所バレ対策として私は住んでるマンションからちょっと離れた場所にタクシーを呼んだ。
家を出てタクシーを呼んだ場所に向けて歩いていると……。
通学中の颯太が私の前を歩いていることに気が付いた。
昔なら声を掛けたんだろうけど、今はもうそんなことはできない。
寂しさを感じつつも、私は颯太の背中を追って歩く。
颯太を見ることだけしかできないのが、本当に寂しくて……。
ちょっとくらいいいよね? という気持ちで私は前を歩く颯太に近寄って挨拶をしてしまう。
「……おはよ」
私が小さな声であいさつするも、颯太は完全に無視である。
たぶん、私のためを思って『何も言わない』のはわかるけど……。
それでも、やっぱり寂しくて泣きたくなる。
それから、私は颯太と一言も交わさずに呼んだタクシーに乗りこんだ。
学校に着くまでの間、私はスマホを弄る。
自分のことをちょっとエゴサしてるときだった。
颯太からメッセージが届く。
『外で俺に話しかけるな!』
強い物言いに私はムスっとしてしまう。
だけど、すぐに颯太からまたメッセージが届く。
『家に帰ったら幾らでも構ってやる。だから、外では我慢してくれ』
うん、好き。
なんだかんだで、優しい颯太にキュンとしてしまった。
今日は完全オフの日だし、家に帰ったらいっぱい颯太に話しかけよ。
てか、あれ。颯太が頑張った私にくれた『ごほうび』だけど、さすがにムダ毛チェックってのは……あまりにもしょぼすぎるし、もう1つくらい違うごほうびをねだってもいいよね?
颯太に何を頼もうかなと期待に胸を膨らませながら、私は学校に向かった。




