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第13話関係を知るもの

 朝のホームルーム前、教室の自分の席でスマホを弄っていると高校になってからの友達である吉村が話しかけてきた。


「なあなあ、颯太ってアイドルに興味ないか?」

「いきなり急にどうした?」

「これだよこれ」


 といって、吉村がスマホを見せつけてきた。

 画面には渡良瀬葵1st ライブ先行抽選券入りCD『あなたのために歌ってないからね』の販売予約ページが表示されている。

 なんとな~く、言いたいことがわかった。


「CD買って、抽選券を俺にくれないか? ってか?」

「いんや、抽選券を抜いた後のCDを俺から格安で買わないかって話だ」

「確かに抽選券のないCDを定価で買うのは……嫌すぎるよな」

「1000円でいいから頼む!」

「……配信サイトで聞くのが主流な今、その値段で買う奴いないだろ」


 だよなぁという顔で吉村はうなだれる。

 それにしても、まさか吉村が『葵』のファンだったとは意外だな。

 ちょっと気になった俺は吉村に聞いた。


「渡良瀬葵のファンなのか?」

「高校受験の時、勉強で夜遅くまで起きてて、ふとテレビでやってたアイドル候補生達のドキュメンタリー番組で『渡良瀬葵』を見たときにビビって来てな」

「ほう。どこが良いんだ?」

「顔とスタイルに最初は惹かれたんだけどよ。途中からはキレのある踊りと、透き通ったような声の方が好きになっちまった」


 幼馴染の葵がアイドルとして誰かに褒められるのは鼻が高い。

 嬉しい気持ちが顔にでていたのだろう。

 吉村が俺の顔を見て聞いてきた。


「そのしたり顔。さては、お前も葵ちゃんのファンなのか?」

「大ファンと言っても過言じゃない」

「CDは何枚買うんだ? ファンならライブに絶対行きたいだろ?」


 CDは発売前に葵がくれるらしいし、チケットも関係者席のをくれる。

 なので、CDは買う気はないというか、買わなくてもいいんだよな。

 だがしかし、葵と俺の関係性が透けるのはまずい。


「金がないから1枚だけの予定」

「ま、高校生の財力じゃ限界があるよな……」


 俺はチケットもCDもたぶん言ったらグッズも貰える。

 なんか吉村に申し訳ないなと思っていると、俺達の話に奥村さんが混じってくる。


「もしかして、葵ちゃんの話してる? いやー、いいよね。同い年とは思えないくらい綺麗で可愛いし、スタイルも歌も上手いなんて羨ましくなっちゃう」

「珍しいな。奥村さんも興味あるなんて」


 葵のメインターゲット層は男性だ。

 女性の奥村さんが興味があることを意外そうに見ていると、奥村さんは笑いながら俺に言った。


「いやいや、意外と女の子でも女の子のアイドルが好きな子って多いから。てか、ライブ本当に行きたいよね! 私の勘が葵ちゃんは超大人気になって、チケットを手に入れるのすら大変なアイドルになる気がしてならないもん!」


 テンション高めに語る奥村さん。

 思いのほか、世間からいい評価を葵が受けているようでうれしい。

 そんなときだった。俺が通っているこの学校には音楽の事が好きな人が多いし、音楽に精通してる子も結構な数がいるわけで……。

 高校に入る前からピアノコンクールで何度か会ったことのある赤坂さんが、俺の方をじっと見ていることに気が付く。

 どうかしたのだろうか? と近寄って声を掛けると……。


「渡良瀬葵って子、小さい頃の颯太くんのピアノコンクールに「おっと、黙ろうか。赤坂さん」


 嫌な予感がしすぎた俺は、暑くなってきたこともあってか長い髪をポニーテールにしてまとめている赤坂さんの口を塞いでしまった。

 なにすんの? という顔で赤坂さんが俺の方を見てくる。

 俺はごめんという顔をすると、赤坂さんはしょうがないなぁという顔をした。

 で、俺が手を離すと赤坂さんは意地悪そうな顔でこういうのだ。



「あとで、お話聞かせてね?」



 意外な角度から、俺と葵の関係を知っている人物の登場に俺は冷や汗を流した。


   ※


 お昼休み。

 特別に学校から貸してもらっているピアノがある教室に俺は赤坂さんを呼んだ。

 この部屋なら大声でも出さなければ話が外に漏れることはないだろう。

 とはいえ、俺は最新の注意を払ってから、赤坂さんに話しを聞く。


「で、その……。赤坂さんはどこまでご存じで?」

「あははは、やっぱり、小さい頃によく颯太くんのコンクールを見に来てた女の子って、渡良瀬葵ちゃんだったんだね!」

「ちょっ、声が大きいって!!!」


 俺は慌てて赤坂さんを静かにさせようとする。

 さっきは不意打ちで俺に口をふさがれたが、今度はされまいと赤坂さんはひょいと俺の手から逃げた。

 そして、謝りながら俺に話を続ける。


「ごめんごめん。なーんか、あの子のこと見たことあるな~って思ってたんだよね。ちなみに、今でも仲がいいの?」

「全然良くないぞ」


 しれっと嘘を言うも、赤坂さんは疑った目で、本当に~? とじろじろと見てくるが俺も嘘を貫くべく必死に顔に出さないように頑張った。


「じゃあ、仲良くないなら、吉村君たちに颯太君って葵ちゃんと幼馴染なんだよ~って言いふらしても全然平気だね!」

「それは……」

「で、実際は?」

「ご想像にお任せします」


 脅しには屈しない。

 そんな俺を見て、赤坂さんはお茶目に謝ってきた。


「ごめんごめん。別に私も颯太くんが困るようなことしたいわけじゃないってば。ただね、葵ちゃんのライブにはちょ~~っとだけ興味があってさ」

「俺が関係者席のチケットを持ってるんじゃないかって?」

「具体的には、颯太くんを脅したら、余ってるチケットをもらえたりしないかな~って感じだね」


 赤坂さんが、とんでもなく手の付けようがない悪い子じゃないことは知っている。

 だがしかし、俺はあらぬことを周りに言いふらされるのが怖くてしょうがない。

 ゆえに、ペンと紙を取り出して誓約書を書かせることにした。


「これにサインしたらチケットを譲る」


 内容は俺と葵の関係についてを誰にも口外するのを禁じ、その対価として俺がライブのチケットを差し出すというものだ。

 ライブのチケットは父さんと母さんが二人とも仕事で行けないということで、普通に余っているので問題ない。

 

「えー、別に私はこんな展開を望んでたわけじゃないのにな~」


 白々しいやつめ。

 俺が睨みを利かせると、赤坂さんはニコッと笑い念書にサインした。


「この悪魔……」

「そうかな~? 意外と優しいと思うよ。本当の悪魔なら、颯太くんが静止しようが、葵ちゃんとの関係を周りに言いふらすもん」

「……はいはい。ほら、教室に戻るぞ」


 学校が俺のために特別に貸してくれているピアノ室を出ようとしたら、赤坂さんは厚かましく俺に言う。


「ねえねえ、時間あるしなんか弾いてよ」


 厄介な奴に絡まれたなぁとか思いながら、俺はピアノの方へ向かった。

 

 



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