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第11話会見中にとんでもないことを考えてるアイドル

 葵Side


 今日は記者会見の日だ。

 緊張で吐きそうになってるけど、これを乗り越えさえすれば御褒美が待っている。

 それを強く意識し、私は記者からの質問に答えた。


「希望日報の佐々木です。葵さんですが、同じオーディション出身の子で結成された『スウィートプリズム』に新規加入すると以前は伺っていたのですが、なぜソロアイドルとしてデビューをすることに決まったのでしょうか?」


 これは私が答えるべき質問じゃない。

 私はプロデューサーの方を見て説明をお願いする。


「プロデューサーの佐伯です。その質問は私の方からお答えさせてください。簡潔に経緯を説明させていただきますと、葵さんは歌と踊りがとても上手い子ということで、他の子と混ざると目立ちすぎるんです。そういった経緯から、葵さんはソロでデビューする運びとなりました」

「スウィートプリズムの売上がイマイチ伸びてないこともあって加入が見送られたという噂もありますが……その件についてはいかがでしょうか?」


 スキャンダラスな話題が欲しい記者はずいぶんと踏みこんだ質問をしてきた。

 その質問に対し、プロデューサーの佐伯さんは笑顔で大嘘を吐いた。


「いえ、そのようなことはございません」

「……ありがとうございました」


 質問をしてきた佐々木はこれ以上つついても何の証言も得られないとわかったのだろう、大人しく引き下がった。

 で、こんな質問ばっかりではつまらないと思ったのか、プロデューサーの佐伯さんはニコニコとした顔で記者たちに言った。


「記者の皆様。今日は葵さんの好きな食べ物とか、好きな曲とか、趣味的なこともどんどん聞いて構いませんからね?」


 これを皮切りに記者の人達は、これから書くであろう記事を面白くするための質問をし出した。


「週間新時代の小暮です。葵さんの好きな音楽を教えてください」

「クラシックが好きです」


 なんて風な簡潔で短い質問がたくさん繰り広げられた。

 これはこれで楽だし、いいかな……と思っていたときだ。

 いきなり、返答に困る質問を記者からされてしまう。


「アイドルとしてデビューを目指す候補生として、テレビ番組に出演していましたが、その際に一緒だった子達とは今も仲がよろしいんでしょうか?」


 ぶっちゃけ良くない。

 あの子達が私だけがデビューすることができないのを嘲笑っていたのは今でも普通に思い出せて嫌になってくる。

 気の抜けた感じからの落差で、一気に緊張が戻ってきて息苦しくなる。

 すぐに質問に答えなくちゃ、変な勘繰りを生むので私はすぐに答えた。


「最近は忙しくて会う機会すらないって感じですね」


 仲がいいとも言ってないし、悪いともいってない曖昧な答えを返した。

 どうせ、ネットでは不仲説とか囁かれてるし、あからさまに『仲が良いです』ってウソをついても炎上するだけだしね。

 にしても、あれ。一気に汗が止まらなくなってきちゃった……。


 緩い感じから、割とまじめな感じになった質問の流れ。


 私の緊張具合はどんどん酷くなっていく。

 もし、質問に対して変に答えてしまったらと想像するだけで肝が冷える。

 このままじゃまずい。緊張からとんでもないことを口走るかもしれない。


 私は緊張を紛らわせるために、記者会見を終えたら待ってる『ごほうび』について妄想し始めた。


 レッスンのせいでバキバキになった体をマッサージして貰ったり、香水を買って貰ったり、アクセサリーをねだってみたり……。

 いくらでも、好きな相手である颯太にしてもらいたいことが出てくる。

 颯太に何をして貰おうかとワクワクし始めると、緊張もほぐれてきた。

 

「青葉日報の阿部です。葵さんは歌が凄く上手ですが、小さいころから何か特別なことをしていたんでしょうか?」


 颯太に何して貰おうかと妄想をしつつ、私は質問に答えた。


「小さい頃、少しの間ですがピアノを習ってました。もしかしたら、そのおかげかもしれません」


 ほんと、颯太に何をして貰おう。

 な、何でもしてくれるって言っってたし。

 思春期真っ盛りな私は大人のすることにも興味しかないわけで……。

 ちょっとあれな妄想もしてしまう。

 頼んだら、き、キスとかもしちゃってもらえたりする……のかな?


「ありがとうございます。続いて、もう一つ質問させていただきたいのですが、アイドルとしての姿を誰に一番見てもらいたいですか?」


 『なんでもしてくれる』って颯太は言ってたし……。

 やっぱり、き、キスを頼んだらしてくれない方がおかしいよね?

 うん、そう。絶対にそう。

 ま、私にキスをねだるほどの度胸があったらの話なんだけどさ……。

 っと、質問に答えなきゃ。


「家族ですね」


 き、キスは私が憶病だから無理として……。

 颯太を自分の体で感じるいいお願いを考えないとね。

 せっかくナンデモしてくれるって言うんだし、颯太成分を摂取しなきゃ。

 

「お母様ですか? それとも、お父様ですか?」

「全員です」


 やっぱりここはマッサージをお願いしちゃおうかな……。

 颯太の指が私の体に強く触れるだけで気持ち良くなれそうだし。

 私の妄想はどんどん過激になっていった。


『ごめん。俺、もう我慢できない』

 

 もしかして、私の火照る体をマッサージしてたら、興奮しちゃった颯太が私に勢いよく覆いかぶさってきちゃったり……。

 ヤバい妄想をするかたわら、まだ記者会見は続いている。

 

「家族の中で一番仲がいいのはどなたなのでしょうか?」

「お母さんです」

「なるほど……。では、「っと、阿部さん。質問はこのくらいでお願いします」


 さすがに質問を深堀しすぎていることもあってか、プロデューサーの佐伯さんがストップに入った。

 一方、私はというと会見なんてもうどうでもよくなってきていた。


 颯太に何をお願いするかで、私の頭はいっぱいいっぱいだ。


 そして、そんなんだから私は盛大にしくじるのだ。

 とある記者が私にヘンな質問をしてきた。


「好きな男のタイプを教えてください」


 本来であれば、絶対にすいません内緒ですで済ませて答えないような質問。

 それなのに、集中できてない私は答えてしまう。

 まんま颯太の人物像を。


「身長が180に行かないくらいで、器用で優しくて、音楽がわかる人で、たまに悪戯してくるようなちょっと意地悪でお茶目なところがあって……。すみません、今の忘れてください」


 うん、終わった。

 私の血の気がさーっと引いていく。

 アイドルが好きな男のタイプをべらべらと話すなんて、あまりにもアイドルっぽくないのだから。

 

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