第1話幼馴染は超人気アイドル
熱気であふれているライブ会場。
ステージで歌と踊りを披露していたアイドルである渡良瀬葵。
すべてを出し切り汗だくな彼女は、今日のライブを締めくくりにかかった。
「今日はありがとうございました。次のライブはいつになるかわかりませんが、よかったらまた来てください」
超人気ソロアイドルである渡良瀬葵はそう言って、舞台から去って行った。
今日のライブの主役である渡良瀬葵は同年代の10代から絶大な支持を得ており、誰もが雲の上のような存在として崇め奉っている。
だが、俺にとって彼女という存在は普通の人よりもちょっとだけ特別だったりする。そう、渡良瀬葵は――
俺の幼馴染だ。
小さいころから親が仲良く互いの家によく遊びに行った。
お風呂にも入ったし、お昼寝だって一緒にした。
俺の妄言ではないと証拠になる写真もいっぱいある。
写真が流出したら、それなりに世間を騒がせるスキャンダルになりそうなレベルで仲良かった時期があった。
そう、そんな時期があった……のだ。
「っと、出ないとな」
ライブも終わったし、会場にいつまでも居座ることはできない。
幼馴染がこうも凄いやつになるとはなぁとしみじみとしてしまい、ぼーっとしていた俺は熱気の籠った会場を出た。
興奮冷めやらぬ中、俺は今日のライブを思い出しながら駅に向けて歩きだす。
俺はライブだからと電源を切っていたスマホの電源を入れる。
すると、スマホにメッセージが届いた。
『今日、颯太の家に行くから』
ほんと、ライブがあった日は必ず俺の部屋に来たがるな……。
やれやれと俺は溜息を吐いてしまった。
俺はお決まりで送っている文章を俺に連絡してきた相手に送った。
『普通に来ないでくれ』
と、突き放すような文章を送るとすぐに返事が来る。
文章じゃなくて、画像で。
俺はとっさにスマホの画面を見えないようにと消して、周りの人に見られていないかと挙動不審にあたりを見渡した。
「……あぶねぇ」
今俺のスマホに送られてきた画像は誰かに見られたら、俺の人生がわりと詰みかねないような凄いやつである。
つまりは、俺が部屋に来るのを断ったら、この画像をバラまいてお前の人生を終わらせちゃうぞ? という脅しだ。
本当にふざけたやつだ。怖くてもう、家に着くまでスマホを開けないじゃないか。
なんて思いながら、俺は電車に乗って家に帰るのであった。
※
家に帰ってきた俺はシャワーを浴びて夕食を食べた後自分の部屋へ。
そして、今日のライブで拾った銀テープをくるくると綺麗に巻いて、100円ショップで売っている小さな瓶にしまっていたときだ。
今日も今日とて、奴は俺の部屋にやってきた。
「もう無理。死にたい……」
そういって、俺の部屋に入ってきた奴はベッドに倒れるように寝そべった。
よし、面倒だし取り敢えず放っておこう。
相手をせず無視を決めこんでいたら、それが不満だったらしい。
「なんで慰めてくれないの?」
めっちゃ不機嫌そうに俺に言ってきた。
だが面倒なので、俺はさらに放置した。
すると、もっと不機嫌そうな声で俺は脅される。
「構って。じゃないと、SNSで写真を投稿する」
「……それはマジでやめてくれ。俺の人生が終わる」
「じゃあ、頭撫でて。いっぱいよしよしして」
「はぁ……。はいはい」
一見態度や言動からしてツンとしてるように見えるが、じつは甘えん坊。
そんな彼女の頭を俺は撫でながら文句を言った。
「よしよし、今日は頑張ったな。凄いぞ、ほんと凄い。でもな、もう何度目になるか分からないが言わせてくれ」
俺は甘えん坊の頭を強めになでながら、いつものようにぼやく。
「ライブの後に幼馴染の男の部屋にメンタルケアされに来るのはどうかと思うぞ?」
そう、俺が撫でているのは――
俺の部屋にお忍びで来た超人気アイドルであり、俺の幼馴染の《《渡良瀬葵》》だったりする。