チケット
俺は今回の本題に入った。
「後、領主様の娘を見つけた」
「はぁ?」
ロイを草木まで連れて行くと、青髪の少女が縛られていた。
「こりゃ間違いない。領主様ご自慢の、娘さんじゃないか」
「だろ。でだロイ、こいつをどうしよっか?」
少女は「助けてくれ」と、声に出したかったのだろう。
「ムムム」
「厶じゃ、わからない」
伝わるのは擬音のみ。当然だ、少女は口を塞がれている。
俺は拾った枝で少女をつつく。突かれる度に少女は身体を捻り、避けようとする。その動きが俺の中では、妙な面白さを生み出していた。
「虐めるなグラム」
彼に腕を捕まれ静止される。俺は頬を膨らませ。
「だってよ。こいつのせいで面倒事が増えそうなんだもん」
「考え方次第かもよ?」
ロイは盗賊の死体に目を向ける。死体の状態は酷いものだ。殆どの物は内蔵が飛び出ており、見た俺は……顔を逸らした。
「なぁグラム。これを馬車に乗せられるかな?」
「ここまで酷い状態だと……子供がいる荷馬車には乗せられないよな。普通は頭だけとかの工夫はあるが、俺も鬼じゃない。親を殺されたばかりの子供と一緒には無理か。領主様から貰える、娘を取り戻した報奨金で、手を打つ方が利口かな? どうかなロイ?」
「いいなそれ」
頷く彼を見て、俺はガッツポーズをした。
「今認めたな。よし、ロイが盗賊を倒したという事で。いやぁ、面倒くさい場にでなくて済むわ」
「いや出ろよ。報奨金以外は、受け取らんからな」
え〜〜。と肩を落とす。ロイに目で訴えるが、彼は中々頷かない。
「ムッムムム」
領主の娘だが、手足をバタつかせ暴れ始める。
「いや、無理だって。お前の力と根性じゃ、時間が掛かるぞ。大人しく待ってろ。ちゃんと父親の元まで連れて行ってやるから」
彼女に語りかけたのだが、領主の娘は泣き出してしまう。
(今の話を聞いてれば、親御さんの下に戻れるって、わからんのかね?)
俺はしゃがみ込み、少女と出来る限り目線を合わせる。しかし、彼女はより怯えた表情となり、首を激しく振る。
落ち着かせる方法も思いつかず、俺は溜息を吐いた。
そんな時だ。彼女を意識せず、ロイは馬鹿な事を言いだした。
「お前、惚れられるかもよ」
「いや、無いだろう」
「ムムム」
彼女と意見が一致した気がする。偶然にも、領主の娘が泣き止んだその時だ。
「いい加減、助けて上げなさいよ」
振り返ると、鬼の形相と化したレイが居た。走り出し、俺の頭を叩く。
「縛られている女の子を放置して、貴方達は何の悪巧みしているんですか!!」
レイが拘束を解くと、少女は彼女に抱きつき声を上げる。
「ありがとう、ありがとうございます」
「大丈夫だからね」
少女を抱きとめ、頭を撫でる彼女。領主の娘には見えぬよう、レイはこちらを睨む。
「はは、起こられてやんの」
「お前もだロイ。まぁ、目的地までの世話係を得たと、考えておこうか」
反省しない俺達。罠を撤去した後、再び馬を走らせる。
それから数時間後、ロイと御者の交代をする。俺は荷馬車内で休もうとしたのだが、彼に止められた。
「お前は中に来るなってよ。レイ様からのお達しだ」
まじかと、天を見上げる。
「領主様の娘を、虐めた罰があたったな」
「なら最後まで御者をやるよ。ラカンまで、1日は掛からないからな」
「じゃ、頼むわ。俺寝てるし」
ロイは言ったものの、5分おきに顔を出し。
「全く。寂しいやつだぜ」
と茶々を入れてくる。流石の俺も我慢の限界だ。次にロイが、荷馬車から顔を出したタイミングで、肘鉄を顔面に食らわし、中に叩き込む。
「さっさと寝ろ」
ロイの誂いもあり、不貞腐れながら馬の手綱を握る。
寂しい俺とは反対に、荷馬車からは楽しげな会話が聞こえてくる。
「ねぇレイちゃん。ラカンには大きな市場があるんだよ?」
「そっかルーちゃん。楽しみだなぁ」
「うん。もしよければ、一緒に回らない?」
「いいの?」
「私達、友達でしょ」
「そっか友達……うん、一緒に回ろうルーちゃん」
会話には、様々なツッコミどころがあった。
(領主の娘が攫われた直後、自由に出歩けるかね? そもそもレイ、お前はラカン出身だろう)
わざわざ否定するのは、野暮というもの。
俺は寂しい下働きに戻る。その時、馬が声を上げた。まるで俺達がいると慰めているようで。
「そうだな、俺の仲間はお前達だけだ。よし次の休憩、飯倍だ。それにしても、馬車での移動は父さんと旅をした時以来か」
あの時も、よく空を見上げていた。不思議と目に入った雲。父が俺に見せたがった、動物の雲と似ている気がする。
*
俺達はラカンに到着した。
見上げなければ全貌が把握できない、大きな城門。そこで、領主様の御息女がいると俺は伝える。すると周囲が慌て始めた。
担当者が「少々お待ちを」と言ってから30分。役所仕事にしては早いが、子供たちがぐずり始める3秒前。ようやく事態に動きが見えた。
「ルカ」
奥から40頃の男性が現れる。髪色以外は似ていない。だが子供にとっては、安心出来る声というのが、何より重要だ。
「パパ? パパ」
少女は声に反応。だが男性に駆け寄る直前、少女は固まり俺を見る。
(やっぱり信じていなかったか)
少女の本心が透けて見えるが、構わない。俺が笑顔で頷くと、少女は頭を、父親に飛び込む。
そもそも初対面の人間に、全幅を寄せる。そっちらの方が俺は怖い。信頼は積み重ねる物だから。
「ルーちゃん良かったね」
どちらにしても、感動的な場面だ。隣には、涙を流すレイの姿もある。俺も、貰い泣きをしてしまい、思わず視界が歪む。
(両親との再開か。良かったな)
本心から思っていたのだが。
「”え”、そんな顔が、感情があったんですね?」
隣のレイは涙を引っ込め、信じられない物を見たと、驚愕の表情を浮かべていた。
「うっせい。俺だって泣くときゃ泣くぞ」
俺は口を尖らせ、明後日の方を向く。
「す、すいません。でも、プ」
彼女も謝ろうとしたが、俺の拗ねた様子がツボに入ったらしい。彼女は口を隠し、肩を震わせる。さらに納得いかない、そんな顔を俺がすれば、より長引いた。
恥をかいた収穫があるとすれば、俺と彼女の空気だろう。今までの緊張が奔っていたものが、少し和らいだ。
準備時間を設けられ、俺とレイは城に案内される。といっても、準備が必要だったのはあちらさんだが。
残された子供たちだが、彼らのお守りはロイに任せてきた。
「行って来い。面倒くさがらずにな。レイとの関係性にも、改善が見られたことだしな、仲良くやってこいよ」
いや、送り出されてしまった。
彼女が俺と来た理由。それは領主の娘と仲が良かったから。最初は置いていくつもりだった。
「できれば、私も連れって行って下さい。最後まで見届けたいので」
俺が城に向かう直前、彼女が話しかけてきた。
(レイの顔色は伺いたい。でもいいのか? 友情に亀裂を入れて?)
今回の謁見で、俺は際どい話しをする。場合によっては、彼女はつらい思いをするだろう。だが知る権利はある。村を襲った惨劇の当事者なら。
(俺が悪いわけでもないし。最悪フォローすればいいか)
納得し、彼女を連れて来ることにした。
「ではこちらに」
俺達はメイドに連れられ、謁見の間を目指し歩き始めた。