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絶望の舞台


ー処刑場にてー


「しゃがめ」

「はいはいと。全く乱暴だな」


 膝裏を蹴られ、有無も言わさず座らされる。そして足に拘束具をつけられた。


(また聖遺物か)


 手に付けられた物と同じ。狂戦士を縛る鎖はこれでいいという、安直さを感じてしまう。これではとある可能性を捨てていないか?


(そうなるように誘導したんだけどな)


 そして響き渡る宣誓。言ったのは皇帝ではない。3賢者の1人、レイが捕らえられたゲオルグという者だ。


「これよりシルバード王国将軍、グラムの処刑を行なう。そして前もって通達したとおり、グラム将軍の死をもって宣戦布告を行なう」


 俺が準備をしたのは、拘束具を抜け出す方法とその後の足。そして作戦の合否を決める賭けの部分は、処刑場に夫婦龍がいるか、いないかの是非だけ。

 

(賭けには勝ったか)


 望んだ通り龍はいない。これで始められると内心で気合を入れる、すると最後の役者である、処刑人の足音が2つ聞こえてきた。

 

「動くな、楽に殺してやる」


 処刑人は背後に立つと、俺の首に刃を添える。彼らを油断させる意味でも力を抜く。


「いい子だ」


 抵抗をやめたと勘違いした処刑人は、慈悲を込めて頭を撫でてくる。ともかくだ、これで準備は整った。


「では、始めろ」


 魔法で拡張された声が、指示を出す。


「「ふん」」


 見なくてもわかる。頭上から振り下ろされる剣。分厚くて常人には、武器として扱う選択肢にすら入らない。まさに動かぬ敵、その首を落とすための物だ。


 そして首に剣が落ちる寸前、俺の両腕が爆ぜた。


 処刑人は爆風の余波で吹き飛ぶ。武器としては重すぎる刃は宙に舞った。それを、再生した腕で掴み、爆風を剣圧で跳ね除ける。


「さて、珍しくもない自由だ。そして久しぶりに、己をさらけ出せる」


 処刑人が使っていた剣、それで足枷を砕く。全ての聖遺物が破壊された今、見せよう。狂戦士の最終奥義、呪化を。


 全身から呪が溢れる。今までは感情が高ぶった瞬間しか、起こらなかった現象だ。だが現在は、常に皮膚から30センチ先まで、呪の力場が形成されている。


 視界、思考共にクリア。何をすべきか、問題なく認識出来ている。少し不安だった。ジークが使った儀式魔法。あの内部でしか、呪化のリハビリが出来なかった。


 あそこでは戦闘意識が暴走し、約一ヶ月間の記憶がない。そこから考えれば、完璧な制御だといえる。


「時間も無いが、約束だからな」

「衛兵、さっさとコイツを捕らえろ。一体、どうやって逃げ出した!!」

「いいから包囲しろ、絶対に逃がすな」

 

 こちらを囲むように兵士達が現れる。しかし、彼らを一瞥すらしない。そもそも、近場で腰を抜かしている皇帝すら見ていない。なのに一般兵に意識を使うか? 


「見つけた」


 彼らを無視し、ある人物を探す。その人物は、貴賓席中央に陣取っている。俺は処刑用の剣を投擲、それを追い跳躍する。その飛び上がった衝撃で、即席で作られた処刑台は崩落。俺を囲んでいた兵士達は巻き込まれる。


「っち、固いな」


 流石は貴賓席を守る特殊ガラスだ。剣は突き刺さったが、貫通とまでは行かない。


「種明かしといこう」


 ガラスに突き刺さる、処刑人の剣を引き抜いた。そして生まれた傷跡に、左腕を差し込む。


「刻印魔法発動」


 直後、俺の腕が爆ぜる。頑丈な特殊ガラスだが、内側からの衝撃には耐えられず、砕け、俺は貴賓室への侵入を果たす。そして俺は立った。腕を組み、冷静にこちらを俯瞰するハイドの前に。


「腕の再生速度から見るに、首を落としても死ななかったな」


 冷静に分析する彼だが、疑問が他にもあるみたいで、俺を凝視している。


「何故だ? あの手枷には呪力のみならず、魔力を乱す効果があるというのに」


 その疑問は、彼の左側に座っていた、見知らぬ男が問うてきた。これは、あくまでハイドへの種明かし。質問者の姿を一切見ず、身体に刻んだ刻印に、呪力を流し表す。


「そうか、刻印魔法か。あれは存在そのものに掛ける魔法。複雑な魔法ゆえ、単純な魔法しか刻めない。身体能力強化などの、難易度が低い魔法も不可能。出来て、ファイヤーボールなどの最下級魔法のみ。また、存在そのものに掛ける魔法故、魔法の発動地点は身体の内側。結果、外に魔法は放てず、身体の内側が果てるだけの自爆魔法と言われている。そんな刻印魔法だが、あらゆる魔法妨害と魔法探知を潜り抜けるという、優れた点が存在する。今回はそれを利用したか」


 顎に手を当て述べるハイド。正解、と手を叩きながら、最下級魔法という括りではない魔法威力、その原理を補足する。


「追加情報だ。肉体の内側という一種の密閉状態。それが魔法の威力を上げてくれる。正解だハイド」


 やはりこの男だけは違う。他の奴らは既に逃げ、貴賓室には俺達しかいない。さらに、死を間近にしながらも、彼は自然体を保っていた。


 惜しい男だ。今からでも口説き、仲間に引き入れたいが、それをするのは彼への侮辱だ。それとここには、約束を果たしに来たのだ。


「宣言通り、殺しに来たぜハイド」

「ああ、頼む。それと帝国の歴史を終わらせてくれ。これ以上、人類の害悪になる前に」


 彼は、俺という武力を使って、帝国の癌を排除しようとしていた。俺は彼という帝国の免疫機能を利用し、帝国の内情を調べていた。

 手段という過程で俺達の道は繋がった。一時だったが、本当に心強かった。


 一切の躊躇なく、ハイドの胸元に処刑人の剣を突き立てる。


「だが、帝国は滅びない」

「そうだな、人々は生き残る」


 瀕死の彼だが、眼力は緩まない。正面の俺を直視し続ける。


 彼の言う帝国。それは皇帝でもなければ、今この会場にいる利権を貪るケダモノ達ではない。それとは逆、ここから少し離れたスラム街や貧民街、そこで懸命に生きる人達の事。

 間違いなく、彼ほど帝国の未来を憂いた人間はいない。そして賢者ハイドは、生涯を終えた。


 左手で彼の目を閉じる。死への敬意、彼個人への敬意。一番は……。


「まったく、気概もねぇか」


 叩き上げのお偉いさんは、ジーク将軍の敗北により失脚。僻地に飛ばされているだろう。唯一の例外はライド位。


 溜息を吐いた後、侵入した窓に向かう。貴賓室は大抵、高い場所にある。見晴らしがよく、一般席にいる観客を見下ろす事ができる。嗜虐心も満たせる高給取り向けの席だ。そして俺は、真の意味で腐った帝国市民を見下ろした。


「下で待っているか。それにしても、皇帝は逃げないのか」


 崩れた処刑台、その後方には皇帝専用の特別席がある。逃げないと言えば聞こえはいいが、聖女達が貼っている、何千もの結界、その内側で引き籠もっていた。


「それにしても、いいのかねぇこれは? まだショーを続ける気か?」


 この会場を包むように、聖なる結界が貼られている。これは実態もあるタイプで、観客もコロシアムの外に逃げられない。


「早く降りてこい」

「はは、力がなければ、所詮はただの小僧よ」


 そして、下のアリーナでは衛兵が集まっている。彼らは皆、下卑た笑みを浮かべていた。

 お前は狂戦士、ここまで聖力の満ちた場所では、まともに戦えないだろ? それを根拠に、殺され、手柄をよこせと野獣の眼を送られる。


「さっきの光景見て、まだそれが言えるか? いいだろう、黙らせるか」


 腹を右手で触れ、心の中で念じる、デカくなれナマクラと。直後、腹を剣が突き破る。さらにそれを引きずり出し、剣を肩に置く。


 腹の中から剣を取り出したのだ、普通であれば瀕死。戦える状況ではない。しかし、既に俺の傷は完治している。また、その現実離れした光景は、皇帝の命令により、転写魔法で会場中に映されている。

 腹の中身を見せるのは多少恥ずかしいが、得体の知れぬ化け物だと、宣伝するには丁度よい。


「無理だ。勝てる訳が無い」


 たったそれだけで、衛兵達の心は折れた。膝をつき、絶望した顔で俺を見上げる。また観客の幾人かは、コロシアムの外に走っていった。それも、結界が張られているため、逃げられないだろうが。


「そんなことはない」


 絶望を押し留める者がいた。広場の中央には2つの人影。雷と共に現れたことから、1人はわかる。


「ライドにサイモンか」


 興味を惹かれたのはライドの目。まさしく瀕死の獣。俺と刺し違える覚悟はできている。そしてサイモンだが、全身から銀色の闘気が漏れ出ている。さらに剣は青白光っており、まさしく魔を払う勇者。


「前は悪かったな、本気を出せなくて。お前らもジーク将軍と同じ、一人前の戦士として扱ってやるよ」


 俺は貴賓席から飛び降りる、着地場所は勿論アリーナ。地面に足が着いた時には、、ライド既に俺の懐にいた。


「もう、戦いで楽しむ事はないんだよ」


 彼は既に、亡きジークに命を捧げている。俺の存在意義は、お前を殺すこと。そんな彼は、無謀な突撃をしない。

 彼は転移を発動。場所は先程俺が居た貴賓席、それと同じ高さの上空。俺から防御を引き出し、足を止めさせる一瞬、それを作るブラフか? 彼は上空でやり投げの姿勢を作っている。


「え?」

「悪いな人間。お前らは俺の餌だ、端から勝機など無い」


 しかし、彼は槍を投げられない。なにせ彼の眼前、投げようとする槍は俺に掴まれている。ライドが転移した直後、俺は地面を蹴りげる。そして彼が移動した位置に追いついたという訳だ。

 

 ライドの胸ぐらを掴み、地面に叩きつける。その衝撃で周囲の兵士は吹き飛ぶ。また被害が無かった兵士からも「ひ」と悲鳴が上がる。

 彼らもようやく理解しただろう。これはお前らの舞台ではない。俺が伝説を残す為の、踏み台だという事を。

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