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道中

 誰かに肩を揺すられる。目を開けると茶髪の男性が居た。


 彼の名前はロイ。村に住んでいた狩人だ。容姿は……とにかくチャラと言えばいいのか?


「起きろグラム、いや起きてくれ。交代の時間だ、流石に俺も眠いよ」


 俺達は今、馬車で移動していた。編成は2頭の馬に荷馬車を引っ張らせている。交代だが、御者を指している。


「うんあ? ……時間か。悪かったなロイ」

 

 俺は頭を振り眠気を払う。そしてロイの首を掴み、荷馬車内に叩き込んだ。


「行こうか」


 入れ替わりで御者台に飛び出し、手綱を握る。馬を走らせ少し経った頃、ロイが顔を出す。


「年長者の扱いは丁寧に」

「いや、お前若いだろ。それに座れ、危ないぞ」


 荷馬車の入口には段差がある。荷物が落ちない為の物だが、御者台の人間と話すなら障害だ。荷馬車の人間は、揺れる中1度、経立たねばならない。


 まぁ、馬が引くのだ。立ったとしても今度は、不規則な揺れに晒され続けるのだが。本人もわかっていること、何度も言わないが。


「グラムよぉ。面倒な事になったな」

「まぁな。はぁ、さっきも思ったけど、流行ってんのそれ?」


 ロイは、荷馬車内を隠す、カーテンに包まり、顔だけ出す形で話しかけてくる。


「マイブーム」


 ニコニコとする彼に諦めを抱く。溜息を吐きつつ、俺は現状を思い出した。


 村が襲われて3日、俺達は住処を離れた。そして領主様がいる、都市ラカンに向かっていた。


「成人した村人の中で生き残ったのは、木こりと狩人ばかり。村に居なかった奴らだ。それと……」

「グラムの家に近かった奴ら」

「残念ながらな」


 再び、騎士が襲ってくるかもしれない。考えた村人たちは。


「せめて、子供だけでも避難ってわけだ。というかロイ、寝なくていいのかよ?」

「いいのさ。独り寂しく、御者をしていた俺を癒やしてくれるのは、人との触れ合いだけ。睡眠より、今この時が重要よ」

「じゃ、中の奴としろ」

「ガキとじゃ会話が楽しめない」

「俺もガキだが?」

「お前は特別」

「あっそ。荷馬車にいるなら、レイのご機嫌でも取っといてくれ。俺、嫌われてるから」

「何でだ?……どうした珍しく無言だな? 何かあったか? おじさんに言ってみ?」


 俺は静かに息を吐き出す。自分の過ちを認めるには相応の覚悟がいる。


 当時、俺は機嫌が悪かった。アリスが、俺を避け出した時期だったから。


 誰とも仲良くする気が起きず、あの時は。


「……初対面の時、レイに握手を求められたんだが、振り払った」

「そりゃまぁ……よし、お兄さんに任せとけ。バッチリ好感度稼いでくるぜぃ」


 ロイは首を引っ込める。レイと話しているのだろうか? 出来るだけ彼女の信頼度は稼いでおきたい。今向かっている避難場所は、彼女の実家だ。レイの口添えは、最高の武器となる。


(ほぼ押しかけになるからな。頼りになるのはレイのお願いと、同情だけだ)


 彼女の祖父は元英雄。父は軍の高官。資金的、精神的にも断りはしないだろう。卑怯な打算。だが全幅の信頼を持ち、子供達を預けられるのは、そこしかない。


(初対面だけど、レイの祖父の噂は知っている)


 ガイル将軍。既に引退したが、武力で地位を駆け上がった伝説の男。彼に心酔する人間は今も多くいる。


「グラム、お前の方が強いんじゃないか?」


 突如顔を出したロイ、彼が問うてきた。


「何言ってんだ? 戦うわけないだろ」

「本当にそうか?」


 ロイの言葉に違うと、強く反論はできない。


 恐らくガイルは嗅ぎ取るだろう、俺が戦場帰りの人間だと。もしかしたら、興味を持たれ、心意気を試したいと勝負を仕掛けられるかも? 可能性はある。脳内でシュミレーションをした結果。


「難しいな今の俺では。でもそうだな……」


 俺は手綱を放し考え込む。後ろから「離すな馬鹿。馬のリズムが狂うだろ!!」という声が聞こえるが無視。


 現に2頭の馬は、手綱が無くても歩幅が合っている。「信じているぞ」と呟く。馬達は雄々しく声を上げた。


 馬に問題はない。話しを戻そう。


「状況によるな。レイの祖父、ガイルの実力は本物だ。つまり、老いた男対鈍った男だ。どちらも甲乙つけがたい」

「勝てないとは言わないのか?」

「まぁ、命の取り合いなら俺が勝つ。模擬戦なら向こうかな?」


 戦場での判断力は、俺の方が秀でいてる。強固な精神だろうが問題ない。揺さぶるのが、俺の所持する術なのだから。


 だが模擬戦は? 俺の戦闘、その核となる技術は、相手を壊す事に特化している。模擬戦という訓練。相手を再起不能に出来ない封じられた場面では、負けはしないだろうが、勝つことは難しいだろう。


 出した答えをロイに伝えようと、一瞬背後を見る。そこにはニコニコと笑う、彼の姿がある。あの顔には見覚えがある。ロイは言わせたいのだ、勝てないと俺自身の口から。


 からかい混じった挑発には、挑発を返すとしよう。


「そういうロイはどうだ? 二十歳に成っても一人前だと認められない、半人前の狩人さん?」


 彼は声を震わせ。


「お前なぁ〜〜、やめた。体力を無駄に使いたくない」


 ロイは荷馬車の中に引っ込み、嘘くさい、いびきをかき始めた。


 逃げたな。こいつが他人を誂う時は、精神的に聞き難い、質問がある時だ。


「下手くそな前置きはやめろ。ロイ、聞きたいことがあるなら、さっさと言え」


 ロイは、荷馬車内から顔を出すが喋らない。しばらく無言が続いた。彼は林道に入った後、口を開く。


「お前、村を出るのか?」


 俺は目を閉じた。


 村で、アリスを待つ選択肢はあった。でも選ばない。理由の1つは性に合わないから。


 そしてもう一つは。


「ああ……アリスを手に入れる。もう待つは疲れたんだ」

「そうか、あの嬢ちゃんは面倒くさいと思うぞ」

「はは、大丈夫」


 俺はやさぐれ声を、笑いで晴らす。難しそうに思えるだろう。でも、一番手慣れた方法だ。


「責務から逃げられないなら、その責務に則って捕まえればいい。簡単な……止まれ」


 急ぎ、手綱を引く。急激な停止で荷馬車内から悲鳴があがる。ついでにロイだが、馬車内に転がっていった。


「ちょぉぉぉぉぉ」

「なんですか急に?」


 中から金髪の少女が顔を出し、周囲を見渡す。しかし何もなく、頭を傾げていた。


「レイは引っ込んでろ、敵襲だ。ロイは斧をよこせ」

「イテテ、あいよ」


 俺は斧を受け取り、前方にある、落ち葉の下をめくる。そこにはトゲが敷かれており、馬殺しの罠が仕掛けられていた。


「待ち伏せだ」」


 直後、20を超える盗賊が現れた。


「面倒くさいなお前。もうちっと進めば、足を奪え、包囲も出来たのによ」


 罠がある以上、強行突破は出来ない。数も不利だが負ける要素はなかった。


「どうするグラム?」


 ロイも弓を持ち、馬車から飛び出してくる。


 盗賊と向き合う状況の中で、俺は財布を取り出し、中身をひっくり返した。しかし何も出てこない。


「路銀が足りないと考えていたんだ。こいつらのどれかに、賞金が掛かっているかもしれない? 資金の確保には丁度いいだろう?」

「いや待て。その理論には欠点がある」


 ロイは俺の肩を掴む。何を言いたいかは理解していると、掴む手を引き離し訴える。


「割り勘だろ? その代わりだ、馬車の警護は任せたぞ」

「流石グラムさん。話がわかる」


 彼のケツを叩き、急かすために言った。


「いいから馬車に入れ。あ、3分の1だなお前の取り分、そんな気分だ。早くしないと、もっと減るぞ」


 金額が減っても、彼は変わらず上機嫌だ。焦ること無く御者台に座る。


「それでもありがいですぜ、グラムさん」


 彼は武器すら構えていない。俺への信頼か? 呆れつつも前を見る。

 

「てめえらふざけんなよ。もういい、女子供は奴隷だ。お前らは殺し馬は食う。そう決めた」


 会話が聞こえたのだろう、盗賊の1人が叫ぶ。意見に反対が出ないことから。


(あれが頭領だな。あの中で一番体格が良く、尚且つ武具が良い。トップとしては落第だが)


 全身を真っ赤にさせ、地団駄を踏む頭領へ斧を投げた。


「よしおまえらーー」


 斧は盗賊のリーダー、その頭部に突き刺さる。つまり即死だ。


「頭領?」


 盗賊の視線が頭領に集まる。突然の死、立ったままの姿がより現実感を奪っていた。


 俺を除いて誰も動けない。駆け出し、頭領から斧を引き抜く。そして、付近にいた盗賊の首を切り裂いた。


 ここからはスピード勝負。動けぬ盗賊に狙いを定め、斧を振り続ける。攻撃箇所には固執しない。首に腹、只管に地獄を生み出す。叫び声が上がるまでに、盗賊を16人仕留めた。


 惨劇に至った理由は、彼らの頭領が原因だ。感情を体で表す、それは体の制御を自ら手放す、絶対の隙。


 後は心理の積み重ね。トップが討ち取られ、動揺した部下を揺すり続ければいい。さらに盗賊達が抱いていた、有利という意識のおかげで精神の再起も遅かった。条件が揃ったのもあり、荒らさせてもらった


「残り6」


 数が減ったのだ。次に盗賊がした行動は利に適っている。

 

「すいません。ゆるーー」


 盗賊の1人が駆け出し、土下座をする。下がった頭部を俺は踏み抜く。


 陥没した頭を目にする生き残りは、思わず悲鳴を上げる。


「「「ひ」」」

「後5」

「やってられるかこんな事。それにアイツの武器は1つじゃないか。バラバラに逃げれば生き残れるぞ」


 背を向け、逃げる盗賊たち。確かに彼らの言う通り、俺の武器は斧一本。投擲すれば無くなり、1人の犠牲で逃げ切れるだろう。


(何か、忘れていないか?)


 斧を手放し、地面に転がる武器を足に引っ掛け、蹴り上げた。この武器は俺が倒した盗賊の物。空中で掴み、投げた。


 武器は見事命中。そして俺の手元には、既に武器が握られている。


「残り4。逃さんよ。さて、次はどれにしようかな?」


 1人の犠牲なら、彼らは逃げる選択を取れただろう。ただし2人3人と、仕留められる可能性があるなら、次は自分というリスクが、彼らの足を止める。


 友情などの尊い物が、彼らを繋いでいる訳ではない。。所詮は誇りのない金銭欲。なら逃走という選択肢は、消すことが出来る。誰もが、自分の命は大事だからな。


 退路を断たれた盗賊達。彼らに頼れるものは、背水の陣という心意気だけ。


「やってやる。行くぞお前ら!!」


 盗賊達は武器を握り、一斉にこちらへ向かって走り出す。ただ背水の陣には大きな弱点がある。恐怖から足並みが揃わない事だ。


 突出した盗賊に狙いをつけ、俺は斧を投げた。斧は盗賊の腹に直撃し足が止まる。そして立ち止まった盗賊めがけ、体当たり、盗賊の身体に背を預け、姿を隠す障害物とした。次に耳を澄ませる。近づいてくる足音で、タイミングを図り飛び出す。その際、盗賊の腹に刺さった、斧を引き抜き、通り抜けると同時に2人の首切りを落とす


 最後の盗賊には武器を使わない。俺は彼の頸動脈を噛み切る。


「っぺ。楽しかったか、弱いものイジメは?」


 トドメは指していない。地面に倒れ、首を上下に振る盗賊。血を失い、意識は朦朧、何に頷いているのか理解できていないだろう。


「俺も楽しかったよ」


 盗賊に顔を近づけ、笑みを作る。そして首を蹴り飛ばした。


 本来なら悪趣味な狩りはしない。此度の戦闘には、八つ当たりが含まれている。


 何もかも、村を襲った騎士が悪いのだ。せっかく狂戦士として目を覚ましたのに、どいつも歯応えがなさ過ぎる。本能が叫んでしまうのだ、血をよこせ、もっと浴びろと。


「これじゃ駄目だな」


 戦いに悦楽を求めるのは、本能を抑えられていない証拠。昔はなかった事だ。様々な面でブランクを見せられ、心が落ち込む。


「とにかく今は」


 本能と落ち込む気持ちは、首を振ることで払い、盗賊の所持品を漁った。殆どの物に価値はない。ただ1つ、面倒くさいが、使いようのある者が合った。


 盗賊の品は一度置き、俺は馬車に戻ったわけだが。戻って直ぐに、ロイの軽口が飛ぶ。


「流石に早すぎないか? 2分切ってんだぞ。……どうしたグラム、顔を青くして」


 彼は俺の変化に気付く。頭を抱えた姿に、駆け寄ってきた。


「あのさロイ、悪い報告がある」

「報告? それが関係してんのか?」


 俺は頷き。


「アイツラ弱すぎて、報奨金ないかも」

「……マジで? 俺タダ働き?」


 彼はその場に項垂れた。

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