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裏切り者


 俺は処刑直前の人間。慈悲で王都案内という願いが叶えられる……とは、流石に思っていない。憎き怨敵を捕まえた、それを知らしめるため鎖に繋がれ、王都を連れ回されると思っていた。それが牢屋直行とは、予想外だ。


「話が違うぞ。ハイド」

「危険人物を連れ、街中の散策ができるとでも?」


 石で作られた床、それに放り投げられる。直ぐに入口へと駆け寄り彼へと講義した。しかし、彼からの返答、それは鋭いもの、ぐうの寝も出ない。


 口では勝てないと認め、落ち着く意味でも周囲を見渡す。

 

 俺が入れられた牢屋の特徴。それは1階層丸々使用し作られた、俺を捕らえる為だけの牢屋。床、壁、天井含む石材には、狂戦士の呪いを抑える聖文字が書かれている。窓は1つも無く、僅かにある光源は、数日分の油が入った、大きなランタンのみ。


「そりゃそうだが、俺は明日処刑されるぞ人間だぞ? 願いを叶えるのは慈悲だ。 それに、お前なら抜け道くらい作れるだろ? なんせ、俺を捕らえる作戦、それを考えた人間なんだから」


 そう彼は、俺を捕らえる作戦を立案した人物。何があったか? 要塞に詰めていた俺の元に、ある話が舞い込んできた。町に流れる全ての水が毒となった、という情報が。


「わかった。近いし俺が行くわ」


 そうアレイスターに伝え、砦を出て町に向かう。

 毒の原因は直ぐにわかった。町の水源、山奥にあるそれに何らかの異常がある。町についた当日、代表にそれを説明したあと水源に向かった。


「異常って魔物かよ」

 

 水源では、縄張りだと主張する魔物達、彼らが争っていつ。その死体が水源に沈んでおり、それこそが、水が汚染された原因だった。


「さて、やるか」


 魔物を軽く全滅させ、水源に沈んでいる魔物、その死体を陸に上げていく。全て引き上げると、ゴミ山程の大きさになっている。


「水源はいずれ戻るが、町はどうするか?」


 住人が今まで通り、川から引いた水を使うのは不可能。毒や汚れが水路に染みついている。つまり、村の水路を通った水は再び汚染され、生活水としては使えない


 一時退去をしてもらうか? その人員は? 彼らは川の水を使いこなし、生活を豊かにしてきた人々、元に戻らなければ役立たずと罵られるだろう、考えるだけで頭が痛い。


「ならこうしましょう。魔物の毒なら聖術で浄化できます。それを使って、水路の浄化をしてはどうでしょうか?」

「そんな事が? グラムさん乗りましょう。私達に他の手段はありません」

「はぁ。わかりました」

「ありがとうございます。ただ規模が規模ですから、聖術増幅装置と町にいる人々の魔力、それを貸して下さい」


 相談のため、俺は一度町に戻った。代表と話をしている時、1人のシスターが現れる。その提案を村長は断らなかった。他の方法もないし、俺も頷く。


 明日、それを行なう手筈となり、俺は布団に入りながら、聖力増幅装置が既に村の中にあること、それに手際が良すぎると僅かな疑問を抱く。


 その疑問は間違っていなかった。ここで気付くべきだった。浄化の対象が毒ではなく、俺が纏う呪いだという事に。


 町が光に包まれ、それを背に中心部から離れる。俺の役割はここまでだと、解決した事にほっとしたその時、奴らが現れた。


「まさか、帝国7武人全員が現れたとは。いや、今は6人か?」


 雑兵ならともかく、彼らに潜伏されては気付けない。そして呪いを纏い、拳を握り構える。そこで気付いた。


「呪いが出ない?」


 狂戦士、特に俺は、呪いでなければ身体強化を行えない。

 そんな状態で戦闘になるのか? 村を襲った騎士程度ならなんとかなる。しかし、眼前の奴らが相手では。

 

「無駄だ」


 銀髪の男性が詰めより、首に剣を添えられる。剣筋、身体の動き、どちらも見えなかった。そこから多少の抵抗はしたが、結果は言うまでもないだろう。それは今の俺が表している。


「完璧だったよ。だから、その程度が出来ないとは言わせない」


 彼に笑いかける。そして聞こえる溜息音。


「後で来る」


 そう宣言し、扉の前からハイドは離れた。


「出ろ」


 再び現れたのは昼食間際。時計のない部屋で時間が分かった理由、それは腹時計と言っておこう。手枷がついている俺は、彼の指示に喜んで従う。


「さて、ここがお前の、ご所望の場所だ」


 幾つもの階段を登り、連れてこられた場所。それは要塞の屋上。王都を外壁の外から一望出来る特等席机と椅子も用意されており、俺は無言で座る。


「この場所チェンジで」

「贅沢言うな。これが限界だ」

「いや、その書類が用意できて、何故? 俺の願いが聞き届けられない?」


 机に座り、再度王都を見つめる。人の喧騒すら聞こえぬ遠い地、これでは、望遠鏡で覗いているのと変わらない。

  さらに机に置かれた書類。その内容を見れば、誰だって口から疑問が飛び出すだろう。


(奴隷契約の書類って)


 これは帝国側が行える、俺を唯一生かせる方法。今後の人生、その全てを帝国に捧げれば、命だけは助けてやる。

 ジーク将軍を殺した、この俺を生かすって? 軍部と分裂したいのか? 普通ならこの書類、作る許可すら降りぬだろう。

 俺が皇帝であったら、提案した者を牢に入れる。


(怨敵を足で使うって? 笑わせる)


 戦士としてのプライドに、泥を塗られた。だが、怒る必要はない。それなりの理由が彼にもある。


「この話は食事をしながらでも」


 そう言って彼は、机に置かれたベルを鳴らす。すると兵士達が現れ、食事を運んできた。湯気も出ている美味しそうな料理の数々……なのだが、両手両足を枷で封じられている俺が、どうやって飯を食う? そう思うと、眼の前に置かれた料理に怒りが湧いてくる。


「手枷を外せ、食事が出来ないだろ。それと、王都の中よりこっちの方が景色がいいだろ、って思ってねぇよな? 実際いいけどさ。それと室内の温かい場所で持て成せ。さっきまで、寒い石の上に座っていたんだぞ、それを外って酷いわ」

「うるさい。俺だって寒いんだ。そもそも、王都の景色が見たいと言ったのはお前だろ。さっさと話しを進ませてくれ」


 文句を言う俺に、彼は机を叩き突っ込む。その際に置かれたワインが倒れ、床に落ちる。


「しま」

「せめて床だ。料理が台無しになる」


 俺達は、ワインが傾いた直後慌てた。料理に掛かるのだけは避けたい。互いに気合押し、じっと、揺れるワインを睨み、床でグラスが割れた。


 まったく、ふざけたやり取りだ。しかし楽しかった。前から思っていた事だが。


(俺とコイツは、相性がいいな)


 以前、アズサと共に帝国へ来た。その時、手を組んだのが彼。


「わかってる。口説き文句は聞こう」


 帝国の素晴らしさを説くという、つまらぬ言葉ではないだろう。


「ああ」


 俺は彼が気に入っている。恐らく彼もそうだろう。だから、なんとなく分かる。彼が次に発する言葉が。


「頼む、世界の為に生きてくれ」

「だよな」


 机に額をつけ、お願いをしてきた。そして見える頭部のつむじ、それをじっと眺める。


(2つ。父さんと同じか。やっぱり、コイツが好きだな)


 本音で話してみたい、そして配下に引き入れたい、それが俺の願い。だがここは帝国、彼の安全を保証しながら口説く事は出来ない。


 帝国の賢者として、王国の将軍として。本音で語れない、その事を口惜しく思う。出来る事は、冗談混じりに話すくらい。


「なぁ、ハイド? 明日、王都から遠出しないか?」

「何を言っている?」

「俺はお前を認めている。だからもし、俺が処刑台から逃走できたら、お前を真っ先に殺しに行く。皇帝より先に、何よりも優先して」

「それは……光栄と言っていいのか?」

「ああ。この狂戦士グラムが、帝国で最も恐ろしい人間はお前だと保証したんだ」


 頭を傾げるハイドに俺は頷く。この価値観は、戦士でないとわからないか? と納得する。そして彼だが、王都を見ていた。俺にとっては他所の都市、しかし彼にとっては……。それが決心を固めた事は、言うまでもない。

 口説くにしては、言葉も場所も最悪だった。こちらと目があった時の彼は、とても澄んだ目をしていた。そして首だけ曲げ、再度謝罪をしてきた。


「すまないグラム将軍。この流れを作ったのは俺だ。君の事を惜しいと思ってしまった。力に溺れず、民草を守る。夢見た理想の将軍である君を」

「誰にでも2面性はある。そして、俺は善なる面しかお前たちに見せていない。だからこその過大評価さ」

「例えそれが事実であっても、夢を見せてくれてありがとう」


 彼はもう一度鈴を鳴らし、グラスをもう一組持ってこさせる。俺の眼前にも出され、中身はハイドが入れてくれた。

 そしてもう1つ。ハイドは部下に指示を出し、手枷を手錠に変えてくれた。


「ありがとう」

「気にしないでくれ。それと済まない。こんな状況で食事をさせてしまって」


 拘束具が手錠に代わると、周囲にいる軍人達、彼らが俺に向かって銃を構えている。


「ま、光栄だ。ともかく、これで飯にありつける」

「そうだ、話が変わるが」

「うん?」


 ようやく飯が食えると、手を擦り合わせる。そんな時だ、彼の物思いにふける声、それを聞いた。


「明日、三賢者ハイドが死ぬのなら、あの約束だけは守ってくれ」


 そして、彼はグラスを持つ。これから何をするか、分からぬ者はいないだろう。乾杯だ。


「確かーーーーーーーーーだったか?」

「誰かが聞いているかもしれないだろ? 俺の安全は考えてくれないのか?」

「今は大丈夫だ。風が隠してくれた」


 互いにグラスをぶつけ、中身を口にするのだが、直ぐにグラスを口から離し、注がれた黄色い飲料に目を向ける。


「俺のはリンゴジュースかよ」

「俺もだよ。未成年のグラム将軍に合わせたんだ」


 戦士にとって酒は欠かせない、だから今飲みたかった。処刑直前の、最後のタイミング。飲み合う相手も彼なら申し分ない。

 

 絶好の機会を逃した。そういう意味で、肩を下げ落ち込んだ。


「とにかくだハイド、あんたとの約束、やる気がある内は守ってやるよ」

「そうしてくれ」


 最後の晩餐、ハンバーグなどの庶民的な料理から、帝国の知る人ぞ知る郷土料理まで、幅広く出てきた。それを解説付きで食べられるのだ、贅沢と言える。その内の1つは、かつてアリスが作ってくれた物。ここは彼女の故郷なのだ。それを実感し、帝国の王都を興味を深く眺め続けた。

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