レイの冒険。そして…… 6
戦いに変わった様子はない。早々に3体、魔族を片付けたディエゴが戻ってきた位だ。
「守るので、寝ても大丈夫ですよ」
「意識を失うと痕跡が消える。大丈夫、起きてるから」
寝たら文句を言うくせに、しらじらしい、と思いながら彼に返答。無我で勇者の戦いを見続ける。
「カオリ」
「わかった」
「勇者様方、私が作った隙を狙って下さい」
彼らの連携は見事だ。お目付役の女性が、盾で敵の攻撃をいなし隙を作る。それを2人の勇者が生み出した、光と闇の連撃が魔族を仕留めた。
(個人の攻撃に目を見張る物はないか、武器含め)
発展途上という事か、私と同じく。そして彼らも、10分としない内に魔族を仕留めた。
「さて帰りましょうか」
頭が重かった。身体にムチを打ち、村への帰路につく。道中はみな無言だ、情報を隠したいのだろう。私も痩せ我慢がしたかったので丁度いい。
「ディエゴ、帰りますよ。約束通り何も見なかった。私達もここには来なかった。それでいいですね」
「了解しました。準備します」
宿屋に戻ると、帰宅の準備を始める。
勇者達に正体がバレてしまった。監視が出来ない以上、村にいてもしょうがない。
また私達が去ることで、リリネアに通報されたのでは? という疑念を、勇者達に植え付けられる。自然と彼らに、帰国を促せるのだ。
「誰だろう?」
「私が出るので、レイさんは休んでいて下さい」
「うん、お願い」
話の途中、ドアがノックされる。
(カオリちゃんかも?)
思い浮かんだのは女勇者。しかし、思考に集中できない。顔までは浮かぶが、何の要件か? など、それ以降広がらないのだ。
こりゃ駄目だと、ベットの上でうつ伏せになり、大人しく目を瞑る。それでも耳に届いたのは好奇心ゆえ。なけなしの力で耳に意識を集中していた。
「グラム将軍の捕獲計画?」
彼の珍しい行為。それはオウム返し。
足を強く踏みしめ、こちらを振り返る。踏みしめた震動が、その焦りを表していた。
「ディエゴ。中で話しを聞こう」
疲れから、0に向かっていた脳、それが100を超え、急激に冴えだす。身体は反射で起き上がり、足音を一切立てず、彼の背後に貼り付いた。
「わかりました。だから剣を解除して下さい」
短剣を生み出し、背中に突きつける。これはディエゴに対する暗号。コイツラを決して逃がすなという、命令だ。
「お2人も、そっちの方が都合がいいでしょ?」
彼が話していたのは、お目付役の2人。こんな所で極秘レベルの会話? 彼らの狙いは、情報を話したから、これで貸し借りはなしだ。図々しくも、聞かれてもいない事を押し付け、恩は無いと言い張りたいのだろう。
これも、勇者達がいるから行われる事だ。彼らの律義さ、それに小骨を残さぬ為の策だろう。グラムの事を口にしたのは、私達の興味を引き出すため。ディエゴも驚き、復唱してしまった。
彼らの企みは成功? 大成功だ。逃がす気が無くなってしまった。
彼らを部屋に招き入れ、奥に誘導。そしてディエゴを睨みつけ。
「結界を貼れ」
「……少々お待ちを」
彼は呪文を唱え、部屋に結界が貼られる。
「どうぞ、お座り下さい」
お目付役達を、私が寝ていたベットに誘導。
「わかりました」
「おい、ナジェンダ」
「どうかしましたか?」
「いや、レイ将軍……何でも無い」
女性が座ったのを確認すると、私は紅茶のセットとお菓子を、ディエゴが荷造りした鞄から取り出す。
魔法でお湯を沸かせば、茶葉を蒸らす時間のみで、直ぐに紅茶は入れ終わる。女性は紅茶を受け取ると、膝に置いた。机は窓際、話をする際には使用しづらい。そこしかおけないだろう。
「どうしました? 話を聞かせて下さい」
お目付け役の老爺は未だ立っている。そして目は、ナジェンダに向けられていた。部屋奥のベットに、膝に置くしかない紅茶。
攻撃を仕掛けれられても直ぐに動けない、その布石が出来ていた。
それを理解した上で、老爺が座ったり理由。観察した所、老爺は魔法使い。つまり後衛だ。前衛の彼女が、気づかず術中に嵌まったことで諦めたか? その程度では安心できない、それが今の私だ。
「逃げられないように、手足を削いでおきましょうか」
「ナジェンダ!!」
剣を生み出し、女性に振りかぶる。突然の事でナジェンダは動けない。
「待ちなさいレイ」
それを止めたのはディエゴ。彼が私の手を掴んでいる。
「脅しですよ」
「それでもです」
余裕のある顔を捨て、彼は私を睨みつける。折れそうな程強く、腕を掴むディエゴ。剣を手放さなければ、手の力を緩めない。その意思を彼の目から感じ取る。
「わかりました」
剣を消すと開放された。掴まれ、痛む腕を擦っていると、ディエゴは部屋の入口近くにある、彼が使用していたベットを指刺した。
「レイさんはあちらに、話は私が聞きます」
「自分でも冷静じゃないのがわかったので、従います」
彼の全神経は、私の動きに向けられていた。何か起これば自分が対処する。その気迫が全身から溢れ出ていた。
それを理解しつつも、私の目は、客人から離れない。ベットの上に座っても、瞬きすらしない。
「すいません。ただ、これでおわかりになられたはずだ。グラム将軍、彼の存在のデカさを。聞かなかったことにするのは、流石に出来ません」
顔を青くし、頷く2人。そしてディエゴが軸となり話は始まった……計画通りに。
*
あり得ない。だとしても一度耳を通せば駄目だった。私は初めて知った。怨敵を前にする、その意味を。
感情が凍える。先程まで持っていた温かみ、それらすべて消え去った。全能力が目の前の2人、彼らの一挙手一動に注がれる。
「で。話しを聞いても?」
「いや、待ってくれ。ナジェンダ、通信を取れ」
「わかりました」
お目付役の女性、彼女が耳に手を置く。すると魔法陣が展開。相手の声は聞こえないが、彼女の表情から、会話の内容が好ましくない、それは容易に想像出来た。
「はい、おめでとう御座います。……私達も本国に帰還するでよろしいでしょか? はい、わかりました。切り上げ戻ります。それでは。ふぅ、では話の続きを」
「待って」
「レイさん、何か?」
彼女は話を再開しようとする。それを止めたのが私だ。
恐らくだが、グラムの捕獲に帝国が成功した。通信の最中、女性は私を見た。そして見せつける勝ち気な笑み。身なりからして、良い所のお嬢様だと思っていた。生意気な私の態度、それに腹を立ており無意識に顔へ出たか。
「ナジェンダさんで合ってるよね? グラムの捕獲が成功したんでしょ?」
「違います。上から帰国しろとの命令が来たので」
「嘘ですね。貴方、私から目線をあえて逸らしましたよね」
勝ち気さが顔に出た、それを本人も自覚したのだろう。笑みを作った直後、ナジェンダは顔を反らした。
追い詰められた彼女は、笑みという名の鉄仮面を被る。
所詮は、お城の中で使われる処世術。殺気を与えてやれば目が泳ぐ。
そこで助け舟を出したのは、もう1人のお目付役である老爺。
「それだけ敵意を剥き出しにすれば、ナジェンダも避けるでしょう?」
「それは一般人の話しだ」
私は彼らに詰め寄る。今度はディエゴも止めない。
「戦いに身を置くものとして、敵意を持つを相手から目を逸らす。それは、殺してくれと言っているようなもの。仮にも勇者のお付きだ、その程度の覚悟は出来ている筈?」
ナジェンダの首横を通し、私は壁を叩く。所謂壁ドン。決して逃さぬ意思を、相手に伝えるには、適した手法だ。
(グラムが何処にいるか、それを聞き出す)
私の視線を受け、女性は泣き出してしまう。苛立ちはしない、ただ呆れてしまった。俯いた彼女、その髪を掴み私を直視させる。
「ナジェンダさん、泣くのはやめた方が良い。女の涙が意味を持つ状況じゃない。それを、理解できないなら説明しようか? 貴方達は最初、是が非でも話が聞きたい相手だった。それでも、無理に聞き出そうとする相手ではなかった。最初の一言、グラム将軍の捕獲計画、その一語だけで、借りを作ってしまったな、と私は思っていたから。でも今は違う。さっきはディエゴに、止められてあげた。でも今は、ディエゴが邪魔したら、彼を迷わず殺す。そして貴方達のどちらか……違うな。勇者達の片方を殺してでも、グラムの場所を聞き出す。怖いね、執着って」
最後に笑い、髪を手放す。蹲る彼女から離れ、部屋の外に向かった。狙いは勿論、勇者の2人。彼女はその意味を理解し、顔を上げる。だが声は出ない。
先程も言ったが脅しだ。ただ逃がすつもりのない脅しだ。
「わかった。ナジェンダ話せ」
そして折れたのは、お目付役の男性。彼の目線は諦めたように、足元に向かっている。
「……でもバリス」
「ワシ達の最重要はなんだ? 勇者を守ること。人はそれぞれ優先する事がある」
「わかり……ました。話します」
壁際に戻った私は、彼らの言葉を待つ。そして、彼女は覚束ない声で話し始めた。
「わ私達が、し知っている事は僅かです。ひ」
「レイさん」
知りたい情報をしどろもどろに言われる。それがこれ程苛立つとは思わなかった。
「すいません。続きをどうぞ」
笑みで不機嫌を隠す。ただし彼女の為ではない。自分自身を抑えるため。
「わかりました。グラム将軍の捕獲計画、それが成功したようです。現在は……」




