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帝国が憎む、真なる宿敵


「なぁ、俺は何を選べばいいんだ?」


 儀式形式の魔法である限り、相手のみが状況を選び、始める事はできない。他者の命を強制的に天秤へ乗せる。必ずあるはずだ、ジーク不利になる項目が。


「大した事は出来ないぞ。例えば、ここで目利きしたものは、何があっても外に漏らせない。お前に残された項目はそれだけだ。これも書いてあるだろ?」

「ふ〜〜ん、ずるじゃん。情報の秘匿レベル、その程度の内容で、代償を求められるのか?」


 情報の秘匿レベル。それが俺の目に入った項目。それを右にスライドし、最高レベルに押し上げる。課される代償は、ジークが有する兵士の数が2倍になる。


「貴様正気か?」

「正気だよ。それと質問だ。この遊戯に、夫婦龍は出るのか?」

「無理だ。あらゆる力を使っても、彼らを顕現させることは出来ない」


 先程の会話から、ジークの開始位置は帝国。彼が率いる兵士の数が、突如2倍に増えた。その絵面だけ想像すると、戸惑った顔含めて面白い。


 質問から夫婦龍はいないとの事だ。それは幸運だ。いや、残念なのか?


「それにしてもジーク将軍。随分と使ったんじゃないか? 地脈の魔力を」


 相手を強制的に巻き込む儀式魔法。それは平等性によって成り立つ。今回のように、強制的に他者を巻き込むなら、巻き込まれた側が有利となるよう儀式は作られる。


 しかしジークの魔法はどうだ? 他者を巻き込んだにも関わらず、地形は彼が指定、賭け金も彼が決める、さらに陣営まで。儀式魔法の常識から、何もかも逸脱している。


 理不尽な魔法と考え、儀式の不自然さは飲み込もう。それを加味した上でも、鬼化中の俺に魔法を届かせ異空間に取り込んだ。

 その一点だけでも、人間の魔力量じゃ絶対に不可能。


「ああ。地脈の魔力、その大半を使ってやっとだ」

「色々合点がいった。さて、始めようか」

「俺が言うのも何だが、本当にいいのか? 今の情報秘匿レベルだと、俺の下にすら辿り着けず、死ぬことになるぞグラム将軍」

「ははははははは」

「失礼だったな」


 腰に手を起き、背筋を逸らす程の馬鹿笑い。それを聞いても、彼の声色に怒りはない。どこか惜しむかの声だった。


「さらばだグラム将軍」


 俺の持つ板には、最終確認の警告が映し出される。黄色と黒のシマシマで出来た項目、はいというボタンを押す。


 それからだ、ジークの声が聞こえなくなったのは。


「この戦いが外に漏れる事は決してない。俺は弱者側。本当にいいのか? まるでお膳立てされている気分だ」


 これでは、神に全力を出せと言われているよう。それに王国民こそいるが、所詮彼らは偽物。儀式の為に作られた仮初の命。肥料にしても構わぬだろう。


「やめた。ペナルティーがあるかもしれないし。それに、出来るだけ早く戻りたい」


 異空間の外には、ライドとサイモンがいる。こちらの戦力は、レイが連れてきた兵士にアレイスター。正直言うが、アレイスターの近接能力は高くない。


 アイツは的を撃ち抜くのは得意だが、読み合いが苦手。近距離に入られたら、一瞬で制圧される。実際は入らせないだろうし、矢を構えれば、相手を蜂の巣にし勝つ。


「異空間だから、外と時間の流れは違うだろう。それに世界規模の儀式魔法。ジーク自身、忙しい身だ。時間の圧縮率は、とんでもなく高いはず」

「グラム、よかった」

「よかった将軍」

「グラム? どうしたんですか、こんなところで?」

「将軍、どうしたんだ?」


 レイ、アレイスター、アズサ、ルドラ様。裏路地に居るはずのない人間も混じっている。合図は出していない。それでも、親しい人間が集まってきた。


 全員の足元から顔まで、舐め回すように見る。


 本物と見分けがつかない。大したものだと関心したが、それと同時に、早く戻らねばという思いが湧き上がる。目を離す不安とでも言えばいいか? しかしそれを成すには。


「やれよグラム。本当のお前に戻る時だ」

「ロイ」


 背後には彼が居た。何故お前が、彼らの前でそれを言う? 疑問は浮かぶが正論だ。やりたいことがあるなら、それに殉じろ。


「戻る時だ。将軍グラムという仮面を捨て、狂戦士グラムに」


 ロイの一言を契機に、眼前の彼らを切り捨てる。アズサに対しては、切り落とした首すらも踏みつけ潰した。俺と契約している影響で、首を落とした程度では死なないのだ、しょうがない。


 気分は最悪。当たり前だ。好いた人間達を殺したのだ。


 彼らともう一度会うには、この世界を出るしかない。確固たる決意を得るには必要な事だ。


「お前らの犠牲は忘れない。ようやく俺は戻ってきた。子宮に居る時沈められた、呪いの中心点に」


 血濡れの剣を握り、大通りを歩く。俺の姿を見ると、衆人観衆は悲鳴と共に道を開けた。通りにある店、そこにあるガラスが俺の姿を写す。


 瞳孔が赤いのは、鬼化と変わらない。白目の部分が黒く染まっており、袖や裾から見える素肌には、黒いタトゥーがある。それは全身に伸びており、俺に取っては周知の事実。


 これが呪化。狂戦士の最終奥義。


「行くか」


 門を飛び出し、ジークが居るであろう本拠地に走り出す。


 *


 ジーク視点


 俺の魔法は、人間相手に発動すれば確実に殺せる。どんなに強い人間であっても、数百万の物量で押しつぶせば、生き延びられる者はいない。


 最初は拮抗できても相手は人間。いずれ疲れて動けなくなる。


 前7武人の時は、手勢最強の7人を同時に刺し向け、殺した。これは、武人である彼への敬意だ。腕に覚えのない、一般兵に押しつぶされたいか? 武人なら、強敵と戦って死ぬほうが幾分か救いになる。


 俺の魔法を覆せる存在。それは夫婦龍のみだ。空を飛べ、鱗は鋼すら超える強度。さらに黒龍は、鱗粉で疫病をばらまき、ただの風すら不治の病にする。


 白龍も白龍で、アレのブレスに耐えられる者は存在しない。また味方のみを癒やし、数日以内なら死者の蘇生すら可能。


 何もかもが規格外。だから気に入っていた。帝国人最強という、人間の括りで頂点という俺の渾名を。


「俺は、何を見ている?」


 大砲、遠距離魔法。それら全てを使っても、遠方から歩いてくるグラムの足を止められない。放たれた弾丸は兆を優に超えた。強者は既に石剣で押しつぶされている。


「勘違いをしていた」


 あれは人間ではない。狂戦士ですらない別の何かだ。力が何だ。速さが何だ。防御がなんだ。あれの理不尽さに比べれば、どれほどマシだろう。


「さて、ジーク将軍。久しぶりだな」

「はぁはぁ。クッソ、貴様はなんなんだ?」


 ライドが持っていた槍。それが、最後に残された武器だ。弾丸は尽き、近距離武器は全て錆びた。散らかされた戦場に、俺と彼が立っている。


「俺が誰か? 簡単だ。過去からの使者だ」

「過去からの?」

「喜べ人間、創造主たるお前たちの望み通り、俺が夫婦龍を打つ」

「例えお前であっても、アレラは倒せないぞ。ふん、あの世で待っている。直ぐに来い」

「俺もいずれそっちに行くが、何か勘違いしてないか?」


 彼は俺の腹を踏む。


 間違いなく殺す気だ。踏まれた圧で、内臓が頭の方向に僅かだが登る。


「今の俺では倒せない。だから策を練るんだ。計画はお前を殺し、軍部の暴走を収める事で9割完成する」


 無理に決まっている。馬鹿なのか? 罵倒の言葉を吐き出すだろう。しかし、彼の目と一流の戦争家である、彼の口から出た作戦という言葉の重みがそれを留めた。


「おしゃべりはここまでだ。さようならジーク。次は悪鬼に喧嘩を売るのはやめることだ」


 直後、俺の腹部は上下に分かたれた。


 痛みとは、血の流れと同じようだ。最初は激しくのたうち回るが、いずれ容量が少なくなると、少しずつ、感じなくなる。


「陛下、お逃げ下さい。貴方達の計画は、全てグラムの手の平の上です」


 空に手を伸ばし、呟く。この願いは決して届かない。魔法を構築している俺が一番よくわかっている。それでも届いてくれ。願いは、俺の意識が消え去ると同時に、儚く散った。


 

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