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大混戦


 さて、状況を整理しよう。帝国軍と7武人、その不仲を利用する策は変わらない。


 ここで注視するのは、今回の事件はあくまで軍の暴走という点。なら、ここに帝国7武人のサイモンが何故居るのか? 新たな疑問が生まれる。


「さてグラム将軍? 詰みだぜ」


 ライドは槍を構え、突撃。だが槍の一撃は首を捻って回避。さらに距離を取ろうと、右にステップする。


「槍か? だがさっき躱した筈?」


 右側には進路を防ぐ棒があった。位置としては腰。ライドの槍は俺の首付近にある。その存在を加味すれば、左右の移動を制限する、即席の檻が出来ていた。


 そして正面からはサイモンの一刀。


 唯一の逃げ道は後方だが、ライドに狙われている気がする。それにだ、サイモンの攻撃が真正面からのみ、この想定は甘すぎる。


「ナマクラ、仕事だ」


 剣のサイズを大剣に変え、サイモンの進行方向上に置き壁とする。そして身体の向きだが、銀髪剣士を右側面に置くよう動かす。


「転移の繋げ技か」


 目線が動いた事により、即席で作られた檻、その正体がわかった。ライドは俺に回避される前提で槍を放った。左首から背後に抜け、転移で槍を右脇腹に置いた。


(流石に長すぎるな。槍の柄が伸びる能力、それがライドの持つ槍、魔道具の効果か)


 そして案の定、サイモンは俺の前に現れた。右側はフェイント、狙いは俺の正面か?


「違う」


 急遽、前後面に防御魔法を発動。 結果は右側面と前後面、3方向からの斬撃。


 そして左脇からも攻撃は来ていた。さらに柄を伸ばした槍が、転移を使いこちらを狙う。そちらは、左手で穂先を掴み防いだ。


 傷の具合だが、腹と背中に軽い切り傷。左手は、穂先を掴んだ影響で切れ込みが入り、握力の低下。回復能力が戻らなければ、本格的に使えなくなる。


「は、耐えるか将軍。だがな、時間の問題だろ?」

「ふん、情けないな将軍。槍バカの策に嵌まるなど」

「おいおい。トドメを譲ったのに、仕留められないサイモン様が言うことかね」

「それでも尚、勝負はわからない、だろ?」


 俺の一言を馬鹿にする物は居ない。敵は野心に溢れた目を送ってくる。


 お陰で確信できた。この勝負は2対1ではない、1対1だと。


「それにしてもよかった」


 回復能力が落ちている事。これがまさか、有利に働く日が来るとは。鬼化の全力を出しても、計画に支障がでずに済む。


「槍を引けライド。砕かれるぞ」

「やってるがよ。動かないんだ」


 容姿が変化する。黒髪が赤みがかり、瞳孔は真紅に。それに伴った身体能力がライドの槍、その柄を握りつぶす。


「クッソ。俺の槍が」

「だから言っただろ。全く、これだから貴様は」

「ま、いいや。そろそろコイツの出番だと思ったしな」


 ライドは異空間から、新たな槍を取り出す。それは綺麗な翡翠色だった。穂先だけではない、柄までもが同一の素材で作られている。


(風向きが変わった?)


 風上にライドは立っている。彼が槍を手にした直後、肌に触れる風の感覚、それに尖を感じる。気付けば頬から出血していた。


 何かしたように思えない。まさに、風が意思を宿した。そうとしか考えられない。


「手を出すなよサイモン。ここからは俺も全力だ」

「わかった。お前が死ぬような、無茶をしない限りは」

「できるなら止めてみろ。無理なら、突き進ませて貰う」


 予想通り、サイモンは戦はないか。奴の目的は、ライドが殺されないよう援護すること。そして、ライドが俺を殺さぬよう邪魔をすること。


 良いことを知れた。帝国で行なった種まきが順調に花開きつつある。俺が導きたい宣戦布告のタイミングが、帝国皇室と重なった事を意味している。


 喜びたい所だ、しかしライドは俺の足元にいる。気の緩みが良くなかった。だが防御、迎撃は間に合う。鬼化で身体能力が上がった分、余裕が出来た。


「あん? 舐めんなよ」


 ライドの声が背後に聞こえる。振り返るが姿はない。転移で飛んだか? いや、雷の如く速さで動き回っているか? 辛うじて目で追える速さと、位置が変化する転移。


 俺が持てる優位点は防御魔法。咄嗟に生み出せる障壁のみ。


 先程まで、どうやてライドの攻撃を防御していたか? 読みと誘導だ。だから今回も、左側面から来るよう、僅かに隙を作る。


 左目の端にライドの姿が見える。俺の狙いは、彼の一撃を防御魔法で弾き、その後、剣で押しつぶす。


 研ぎ澄まれた突きは、どれも鋭く、早い。超局所的にまで防御魔法を圧縮しなければ、破られる。


 ライドの槍、その進行方向を防御魔法が塞ぐ。タイミングも完璧。しかし、魔法は不成立。実体化する前に掻き消された。


 障壁がかき消される前、俺は違和感を感じバックステップ。お陰で槍を回避できたが、当たってもいない腹がヤスリで擦られた痛みを訴える。


 さらにライドは槍先を転移、背中から飛び出す。これに関しては、呪いを周囲に散布し対応していた。呪いが押しのけられる感覚があれば転移の予兆。事前に掴むことは出来た。


 換えの利かぬ武具であること。ここで意地を張り攻めても、勝負を決める重症は付けられない。


 これらの複合判断から、わかっているぞと、目線を背後に、現れた槍に向ける。するとライドは槍を引っ込め、俺から距離を取る。


(槍の能力もわかったな)

 

 槍の周囲に風を纏わせ、攻撃範囲を拡張した。俺の調べては、ライドに風魔法の適性はない。狂戦士の呪い、その効き目が悪いことから、槍の能力であることは確定。


 正直、レイに見せたい戦い方だ。彼女が次に至るべきステージに彼は立っている。なのだが。


「それで終わりか槍使い? なら、俺の命はやれん」


 俺も勝つ手段はないが、攻めけを無くせば勝利の天秤はこちらに傾く。


 ライドが先程から攻め急いでいる理由。それは、キメラが俺に与えた回復阻害、それの効果切れを気にしてのこと。


 いま辛うじて拮抗状態になっているのは、あれのお陰だ。


「負けないように磨いたからな。始めよう持久戦。槍使い、お前のガス欠がゴールテープだ」


 雷魔法、短距離転移。どれも魔力の消費が激しい。それに奴のタイプは戦士偏重の準魔法使い。なら魔力の量もたかが知れる。だから、防御優先に戦いを組み立てた。


「は、おもしれぇ。だからこそ崩しがいがある。元々わかっていた戦いだ」


 気になるのはそこだ。わかっていた、不利なのを? 自分のスタイルを曲げない芯のある敵だ。そう割り切ってもいい。


 すごんでいるが、ライドに気迫を感じない。死なきゃいい、そんな気楽さを覚える。


「だからといって、欲をかけば崩されるしな」


 違和感に苛まれるも剣を構えた。そして互いに一歩、踏みしめようとした時だ、俺達の間に火の玉が直撃。爆発が生まれる。


 本来なら爆風に乗じ攻めるが、今回はしない。するのは勝負を決める時。


「我らは魔族。地脈の折衝点は、こちら利用させていただく」

「来たか」

「グラム将軍、まさかお前が呼んだのか?」

「罠の可能性は頭にあった。場を乱す保険だ。アイツラの対処に、お前らが手間取っているなら、逃げるか、奇襲するか? なんだけど……いいのかあれ?」


 ライドは一度、地面に座った。そして上空を飛び、こちらを包囲する魔族に向かって指をさす。


 俺が意識するのは、ライドとは違う場所。魔力の折衝点、先程結界があった方角を見る。


「サイモンの野郎、何してんだ? ってなにもんだ」


 サイモン、銀髪の剣士は魔族に頭を下げ、彼らを折衝点に案内していた。流石のライドも立ち上がる。その直後、一本の矢が足元に刺さる。俺も気になり射線を追うと、そこにはレイとアレイスターの姿がある。


「グラム、助けに来ましたよ」

「全く、内の将軍は直ぐに無茶する」

「いや帰れ、場が混乱するだけだから」

「悪いなグラム将軍、こっちも来たわ」

「ライドさん遅くなりました。俺達も戦闘に参加します」


 現れたのは先程、アースを追い野山を駆けていった部隊。数はレイが連れている兵士と同等。


「これじゃお前の望む、戦いは出来ないなライド」

「全くだ。魔族が相手なら、まだ楽しみようもあったが」


 槍を肩にトントンとリズム良くぶつけているが、ライドの眉間は深く寄っていた。


「ったっく。大混戦だよ馬鹿野郎、今度はなんだ? ってサイモンテメェ。何をしやがった」


 直後、地脈折衝地点が光りだす。


「お前にだけは言われたくない。ライド、自分だけ歯応えのある相手と戦っていた癖に。なら俺も、楽しませて貰おう」


 紫色の光が収まると、そこには10メートル級の、巨人が居た。


 ”我、魔神なり。凡百なる命よ平伏せ”


 頭の中に響く声。発せられる圧からしても、人間が戦うには少々手に余る。ただし、一般人の話しだ。


「ま、相手が悪いな」


 帝国7武人。帝国軍最強格。シルバード王国将軍。連合軍将軍。そこから連なる、計200の兵士達。流石に分が悪いだろう。


(ある意味よかった)


 戦いの終着点を探していた。帝国軍の策は崩せた。元々俺を誘き出す罠だったのだ。そこは当然か。    

 次に問題となるのは、どう鉾を収めるか。人外の相手を協力して倒す、丁度いい落とし所だ。


「さて、どれだけ持つ? 魔神さん?」


 大いなる存在は未だ気付いていない。彼は狩られる側である事に。

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